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【動画】黄砂はどこから 万里の長城越えて行ってみた

 中国・北京の街が3月中旬、火星の地表のように黄色くかすんだ。過去10年で最悪の黄砂が原因だった。下旬にも激しい黄砂が発生し、いずれも九州まで飛来した。中国当局は2回とも隣国モンゴルが発生源と主張する。ただ、日本の環境省によると、黄砂の多くはモンゴル南部や中国・内モンゴル自治区などの砂漠地帯が発生源という。その一つ、自治区のクブチ砂漠までは北京から西へ約800キロ。黄砂の飛来ルートを車でさかのぼってみた。(内モンゴル自治区オルドス市で、坂本信博)

「緑の長城」の先に広がる黄土色の大地

 緑に覆われた北京郊外の山肌をはうように延びる万里の長城。その向こう側に車を走らせると、岩や黄土がむき出しのはげ山が急に増えた。15世紀、北京に当時世界最大の都市を築いた明の皇帝が、モンゴルの騎馬遊牧民への守りを固めるべく万里の長城を大改修した際、レンガを焼くために大量の木が伐採され、一帯の森林破壊が急速に進んだと言われている。

 さらに西に進むと、中国語の道路標識にモンゴル文字が併記されるようになった。内モンゴル自治区に入った証だ。道路脇には黄色い大地に草原が点在し、羊やヤギが放牧されていた。モンゴル高原に進出した漢族が草原を掘り起こして農地化したことや、中国政府がモンゴル族の定住化政策を進めたため伝統的な遊牧ができなくなり、草原の生態系が崩れたことが砂漠化の要因と指摘される。

 自治区の区都フフホト市に近づくと、背丈1メートルほどの木々が車道沿いに等間隔で植えられていた。「『緑の長城』です。20年ほど前まで、この辺りは砂漠化していました」。同行した中国人の友人が教えてくれた。中国メディアによると、中国政府が東北、西北、華北で進めた「三北防護林計画」が奏功し、砂漠化面積は2000年をピークに減少しつつあるという。ただ、木々の先に広がる大地は黄砂に似た黄土色だった。

福岡、佐賀、長崎、熊本4県とほぼ同じ広さ

 フフホト市から、さらに南西へ。黄河を越えてオルドス市に入ると、緑の木々に縁取られた道路がまっすぐ続いた先に、うねった黄色い丘が見えてきた。クブチ砂漠だ。総面積1万8600平方キロ。福岡、佐賀、長崎、熊本4県の合計とほぼ同じ広さで、国土の約4分の1が砂漠の中国では7番目の大きさという。

 道路脇に巨大な看板が並び、「澄んだ水と青い山こそが金山、銀山である」という習近平国家主席の言葉や「クブチ砂漠を縁取る林を建設し、黄河沿いに生態回廊を打ち立てよう」とのスローガンが書いてあった。車を降り、砂漠に足を踏み入れてみた。行けども行けども砂、砂、砂。砂丘に登ると、かなたにビルや工場が見えた。砂漠がじわじわ街に迫っているようで、緑の長城と名付けた人々の感覚が分かる気がした。

 砂を手ですくうと、一粒は料理に使う「塩こしょう」ほど。北京で車や窓枠に積もった黄砂より大粒だった。中国の黄土高原を長年調査してきた深尾葉子・大阪大大学院教授によると、砂漠の砂は、黄砂で舞い上がる黄土などの土壌粒子の5~10倍以上の大きさがあり、上空数千メートルまで舞い上がることはない。深尾教授は「砂漠の砂よりも、周辺の黄土が黄砂の要因となっている」と指摘する。

クブチ砂漠の砂。北京に飛来した黄砂より粒が大きく、少々の風では飛散しなかった=4日、中国・内モンゴル自治区オルドス市

消えかかった字で「西日本新聞記者の森」

 クブチ砂漠で探したいものがあった。「西日本新聞ハチドリ隊」の足跡だ。08年から沖縄県・尖閣諸島の国有化で日中関係が悪化した12年まで、九州の子どもたちがこの地で植樹活動に汗を流した。隊員たちが植えたポプラの木々はどうなっているのか。

 手がかりは、恩格貝という地域にあるホテルの南側という関係者情報と当時の写真だけ。10年に「西日本新聞読者の森」という石碑を建立したが道路建設で撤去されたはず、と聞いた。

 クブチ砂漠の緑化には、04年に97歳で亡くなった遠山正瑛・鳥取大名誉教授をはじめ、多くの日本人が携わってきた。恩格貝には、遠山さんの銅像や顕彰碑のほか、民間団体の植樹記念碑があちこちにあった。

 その中に写真と似た石碑を見つけた。消えかかった字で「西日本新聞記者の森」とある。何らかの事情で現地の人々が石碑を再建した際に、読者と記者を間違えたのだろうか。ポプラの木々は立派な林に育っていた。新緑の季節には一帯が緑に染まるという。

 地元の管理委員会で営林の仕事をしている50代の男性に声をかけると「子どものころは一面の砂漠だった。遠山先生や日本人のおかげで緑が増えた。ただ、育つまで水やりを続けないと4~5本に1本は枯れる」と話した。若木の間には水まき用のホースが敷かれていた。大規模な植林によって地下水が枯渇しかねないと懸念する専門家もいる。

太陽光パネルで描いた「現代の地上絵」

 砂漠の中に延びる一本道を車で走る。青黒く光る太陽光パネルの群れが見えてきた。中国最大のダラト太陽光発電所だ。スマートフォンで衛星画像を見ると、南米の「ナスカの地上絵」のように太陽光パネルで馬の絵が描かれていた。

 運営企業によると、中国の慢性的な電力不足解消に役立てるだけでなく、太陽光パネル設置と同時に緑化を進め、ナツメやアンズなどの特産品を栽培。発電所の維持管理で雇用も増やし「新たな観光名所もつくる」(事業責任者の王海峰さん)という。広さはペイペイドーム約400個分。日本では考えられない規模だが、それでもクブチ砂漠のほんの一角にすぎない。

 春の風物詩とされてきた黄砂も、今や東アジアの国際公害。果てしなく広がる砂の大地でオアシスへの道を探すように、発生源に目を凝らす必要がある。

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