ベネズエラ難民、受け入れ国でトラブル
近隣国、国際会議で有効な対策打てず
【キト(エクアドル)=外山尚之】マドゥロ政権が独裁姿勢を強め経済が破綻状態の南米ベネズエラから住民流出が止まらず、事実上の難民として近隣で摩擦を起こしている。各国は4日までエクアドルで国際会議を開いたが有効な対策はまとめられなかった。難民はベネズエラ人口の1割に近い少なくとも230万人にのぼるとされ、欧州を悩ませるシリア難民の半数に迫る。深刻な国際問題に発展しつつある。
キトで中南米13カ国が難民対策を議論した会議は4日、2日間の会議を終え、「キト宣言」を採択。同宣言は各国に流入するベネズエラ難民について「十分に受け入れる」と明記。技術・資金面での協力の重要性を認めた上で、各国が協力して難民が大量に流入する地域を支援するとした。
実効性は不透明だ。受け入れる難民は「特に子供や老人、病気を持った人々」と定義し、すべての難民を受け入れるかどうかは明確でない。難民受け入れに必要な資金を各国がどう拠出するかなど、負担の分け合いについては次回以降の会議で話し合うことになった。
会議にはベネズエラの隣国のコロンビア、ブラジルなどのほか、アルゼンチンなども参加。コロンビア経由で難民が流れ込むエクアドルが開催を呼びかけた。受け入れ国の経済、社会が大きな打撃を受け始めたためだ。
すでに100万人近い難民が流れ込んだコロンビア。北部の国境沿いの街ククタでは、施設に収容しきれないベネズエラ人が路上にあふれる。コロンビア当局は、難民が持ち込んだ麻薬を密売して当座の生活費を得ていると主張する。カネに困った難民が強盗などの犯罪に手を染めるケースもあるといわれている。
ブラジルでは国境を接する北部ロライマ州にベネズエラから妊婦が相次ぎやってくる。環境が整わないベネズエラを避け、ブラジルで出産するためで、同国の病院の産婦人科のベッドはベネズエラ人が占拠。ブラジルの女性の出産に支障をきたしている。ブラジルでは地元住民が難民のテントを襲撃する排斥運動も起き、治安悪化が目立つ。
中南米諸国は全般に国境管理が緩く、パスポート(旅券)がなくても国境を越えることができることも多い。ベネズエラを出た難民は国境を接する隣国を経由して、第三国にも流入している。
コロンビア国境に近いエクアドル北部のトゥルカンでは3日、同国に入国するための審査の順番を数百人のベネズエラ難民が待っていた。その中の一人で、身ごもっているアナフリア・ベンコモさん(32)は「コロンビアにも仕事はない。(ベネズエラを出てから)10日かけ(コロンビアを)横断してきた」と話す。
トゥルカンのレストランでは、妻と共にベネズエラを出たダニエロ・ホセさんが食器を片付ける仕事をしていた。現地の最低賃金を大きく下回る日給10ドル(約1100円)で週7日間働く。こうした非合法のベネズエラ人労働者はほかの中南米諸国でも増え、労働市場のゆがみにつながる。
ベネズエラは協力する姿勢をみせない。難民の存在自体を認めていないためだ。エクアドルでの会議にはベネズエラも招待されたが、同国は応じなかった。ベネズエラのロドリゲス副大統領は3日、難民の流出は「フェイク(ニセ)ニュースだ」と言い切った。
5月のベネズエラ大統領選で再選されたマドゥロ氏は、選挙の正当性を認めない欧米の非難を無視し、独裁姿勢を強めている。有数の産油国だが、米国の経済制裁などで設備の補修や更新が進まず、石油収入は落ち込む。外貨不足で国内は物資不足に陥り、猛烈なインフレが起きている。