安倍外交、対中けん制を抑制 南シナ海、トーンダウン
安倍晋三首相は15日、東南アジア訪問日程を終え帰国した。最大の収穫は日中関係の改善に向け中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と足並みをそろえたことだ。一連の首脳会議で、中国の南シナ海への進出問題を巡る発言を抑制して配慮を示したのはその代償だ。法の支配など共通価値を尊重する自身の外交原則と、対中関係改善のための現実的な対応との間で苦慮する姿も浮かぶ。
安倍首相は14日の日米中ロと東南アジア諸国連合(ASEAN)などによる東アジア首脳会議で南シナ海問題に触れ「力でなく国際法に基づいて紛争を平和的に解決すべきだ。状況を引き続き懸念している」と述べた。
その一方で、会議に出席していた中国の李克強(リー・クォーチャン)首相を前に「中国とASEANとの間で前向きな取り組みが進展していることを歓迎する」とも述べた。法的拘束力を持つ南シナ海での行動規範(COC)の策定をめざす中国とASEANの動きを評価したものだ。
日本政府関係者によると、会議では国際法に基づく紛争の平和的解決や、南シナ海の非軍事化と自制の重要性を訴える声は上がった。ただ中国の南シナ海での主権主張を退けた2016年7月の仲裁裁判所判決に触れ、中国を非難する意見はほとんどなかった。
今回は北朝鮮問題が主要課題だったこともあり、16年9月にラオスで開いた前回の東アジア首脳会議で南シナ海問題を巡って議論が白熱したのとは大きく様変わりした。
前回は仲裁判決が出た直後の開催だった。中国を含む当事国に判決結果に従うよう促した日米に、中国は猛反発した。ASEAN側も対応が割れて会議は紛糾。安倍首相も中国に判決を順守するよう強く求めていた。
今年の東アジア首脳会議では、安倍首相が南シナ海問題を巡って中国批判のトーンを抑えたのは明らかだ。日中平和友好条約締結から40周年にあたる18年に首脳の相互往来を実現しようとしていることが背景にある。14日の記者会見でも、東南アジアでの習氏と李氏との相次ぐ会談を「日中関係の新たなスタート」と表現した。今回、南シナ海問題で原則論を声高に訴えれば、関係改善ムードに水を差しかねない。
安倍首相は今後、自ら掲げてきた日本外交の原則論と、対中政策を進めるための現実的な対応との間でバランスをとることに苦心しそうだ。ただ日本政府内には「現実路線を進みすぎると、価値を尊重するという安倍外交の原則との二枚舌批判を受ける」と懸念する声もある。