インド、高額2紙幣を廃止 不正資金撲滅へ
【ムンバイ=堀田隆文】インド政府は9日、高額紙幣2種類を廃止した。10日以降、銀行と郵便局に旧紙幣を持ち込んだ場合だけ新紙幣などと交換できる。資産家などに事実上の資産公開を迫り、不正資金の根絶を狙う。税収の増加など長期的な経済効果も期待するが、個人消費が停滞する懸念がある。急な政策発動で、金融システムが混乱する可能性もある。
モディ首相が最大紙幣1000ルピー(約1550円)と2番目に高い500ルピー札の廃止をテレビ演説で公表したのは8日の午後8時ごろ。4時間後の9日未明に2種の紙幣が法的通貨ではなくなった。
2種類の廃止紙幣は10日から12月末までの移行期間内に銀行と郵便局に持ち込み、10日から刷られるという新紙幣など利用可能な紙幣と交換するか、預金することでのみ価値を存続できる。政府の指示で国内の銀行は9日にすべて休業し、10日に業務を再開する。
既存の紙幣を突然に廃止する措置は世界的にもまれだ。廃止した紙幣は発行紙幣価値の86%を占める。「不意打ち」の政策発動には、不正資金を抱える当事者などに準備期間を与えず、根絶しようとするモディ政権の強い意志がにじむ。
インドでは公的な記録には残らない「地下経済」の規模が国内総生産(GDP)の2~4割に及ぶと試算されている。課税逃れのため、資産家が隠し資産として現金を持つことは多い。高額紙幣は偽札も多く、不正資金の温床になっていた。
今回の措置で、中長期的な経済効果を見込む声は多い。インドでは約5割の人々が銀行口座を活用していない。半ば強制的に銀行利用を強いることで、口座利用や貯蓄の拡大が見込める。インドの所得税納税者は全人口の3%にすぎないという試算もある。銀行などを通じ税務当局が人々の資金の流れを把握でき税収増加も期待できる。
9日、インド代表株価指数SENSEXの終値は前日比で1%強の下落にとどまった。突然の政策発動を、市場は予想以上に平静に受け止めた印象だ。
だが、今後は金融システムが混乱する可能性もある。インドの約13億の人口のうち、クレジットカードの保有者は2%弱にすぎないとされる。圧倒的に現金決済が多い。
銀行が業務を再開する10日以降、膨大な数の人が銀行などに殺到することが予想されるなか、新紙幣の増刷や銀行の受付業務などが円滑に進むかは未知数だ。
新紙幣への移行期に消費者が財布のひもを締める可能性も低くない。インド自動車最大手マルチ・スズキ幹部は「農村部を中心に、全体の2割近くの人々が現金決済で車を買っている。販売停滞の懸念がある」と話す。金や不動産の需要が低下するとみる向きもある。
モディ政権が不正資金の根絶に向けた施策に動くのは今回が初めてではない。2015年にはインド在住者の無申告の国外資産などに対し罰金などを科す「ブラックマネー法」を施行した。今回、思い切った手段で政策目標を追うが、7%台のGDP成長を維持するけん引役の個人消費にブレーキがかかる懸念がある。