NHK受信料で答申、ネット同時配信に触れず 制度検討委
NHK受信料制度等検討委員会(座長・安藤英義専修大院教授)は12日、NHKに対し受信料の公平負担のあり方について答申した。受信料の支払率を高めるため、電力会社などから居住者の情報を照会できる制度の検討を盛り込んだが、インターネット視聴などに合わせた受信料体系の見直しへの言及はなかった。NHKは放送だけでなく通信も含めた「公共メディア」を目指すとするが、制度設計も含め、その道筋はなお不透明だ。
検討委はスマートフォン(スマホ)上での視聴が広がるなか、受信料制度や運用のあり方を検討してきた。一連の答申は同日で出そろい、今後NHKは答申を受けて2018年度から3カ年の経営計画をまとめる。
受信料の支払率は現在約80%。答申では残りからも徴収し公平性を高めるという観点で、電力会社などからの情報照会を可能にすべきだとした。支払率が高まればNHKの収入が増加する。検討委では結果的に受信料の引き下げなど国民の負担軽減につながるとした。
ただ、実現には法改正が必要だ。個人情報保護法では、他の法令で規定があった場合、公益事業者が居住者情報を第三者に提供できる。検討委の安藤座長は「放送法の改正が必要となる」との見解を示した。
また、受信料制度については世帯単位での契約や受信料免除の対象など現行制度を維持することが妥当としたものの、テレビ放送をスマホなどに同時に流す常時同時配信について、ネット受信料は検討状況を注視する必要がある、との表現を盛り込むにとどめた。7月末の別の答申ではテレビと同等の負担を課すのが妥当としていたが、今回は踏み込まなかった。
今後は受信料の公平負担の手法やそれを背景にした受信料の引き下げ、ネットでの同時配信の内容などについて、NHKが経営方針にどの程度反映するかが焦点となる。
NHKの上田良一会長は「公共メディア」を目指す意向を明らかにしている。ネット同時配信では放送法の改正が必要で、高市早苗前総務大臣がNHKの同時配信について「放送の補完として視聴者からの十分な支持を得て実施する」といった条件を付けるなど、政治家や所管官庁の総務省にも慎重意見がある。
民放からもNHKの業務拡大には民業圧迫の懸念も出ている。一方、ネットでの同時配信は先進国の多くで既に実施されている。多額の費用がかかるネット同時配信の実現に向け、東名阪のキー局、準キー局がコンテンツを配信するネットワークインフラの会社に共同で出資するなど、協調の動きも出ている。
ただ、NHKがネット同時配信に「受信料」を課すにしても、電力会社などから個人情報を得るにしても、国民の広い理解が必要だ。引き続き経営改革や風土改革に取り組まなければ、公共放送としての役割を果たすことはできない。