故春日野八千代さんの後継として、雪組トップ退任後も専科へ残り、男役の手本を示してきた宝塚歌劇団のスター轟悠が9日、大阪市北区のシアター・ドラマシティで、最後の舞台「戯作『婆娑羅(ばさら)の玄孫(やしゃご)』」の初日を迎えた。公演には、3年目に入った星組のホープ稀惺(きしょう)かずとらが出演。タカラヅカの未来を担う後輩へ「立派になれよ」とメッセージを残した。

男役37年目。理想の男性像を演じ続けてきた「男役の教科書」が、最後に臨んだ芝居は和物だった。劇団を代表する演出家、植田紳爾氏の作・演出で、物語の舞台は江戸時代。長屋暮らしで「婆娑羅の玄孫」と親しまれた細石蔵之介にふんした。

「婆娑羅大名」と呼ばれた佐々木道誉の子孫で、佐々木家当主の次男ながら、家を出て、地域の子供たちに学問や剣術を教えていた。1幕は子どもたちのうち、清国語を話す姉弟のあだ討ちに尽力する痛快時代劇。その姉を小桜ほのか、弟に入団時から注目された星組期待の3年目、稀惺がふんした。

2幕では、佐々木家存続の危機に立ち上がる展開。轟は、時にさわやかに、時に憂いを持って、正義感あふれる主人公を熱演した。「細石(さざれいし)」の名前から、長屋の人々から「石さん」「石先生」と呼ばれ、轟の愛称「イシさん」を想起させた。

オリジナルの主題歌では「とどろけ」を連呼。男役集大成公演がつながる展開に、轟自身も「気恥ずかしい」と苦笑しながら、稽古に励んできた。

長屋の人々と別れ、新たな道へ歩む大詰めへ向け、セリフも最後の舞台へとリンク。稀惺演じる長屋の子供らに「立派になれよ」「負けるなよ」。主人公の半生を振り返って「ただまっすぐに歩いてきた」と言い、男役を極め尽くしてきた轟の宝塚人生が重なった。

人生の転機を迎えた場面では「これからは知らない世界だ」「果たしてやっていけるのか」「この道の先に何があるのか」「強く生きるぞ」などと、自問自答しながらも、力強く新たな世界へ第1歩を踏み出す心境を、感極まった表情でセリフにのせた。

瓦版売りで出演した極美慎は快活なキャラクターを好演。蔵之介を慕う焼き芋屋のお鈴に音波みのり、天華えまは佐々木家家臣など2役に挑戦した。専科から先輩の汝鳥伶(なとり・れい)も出演し、蔵之介に就きそう「爺」にふんした。

轟は前日8日に同所で通し舞台稽古を終え、最終仕上げ。稽古後には「みなさま、千秋楽まで、なにとぞよろしくお願いもうしあげます」と、スタッフらに感謝し、完走を誓った。

公演は同所で15日まで。東京芸術劇場プレイハウス公演は21~29日。