コーナーのタイトルが「裏話」というくらいやから、あまり正統派の話を書くもいかがなもんか。なので、かなりばかばかしい話を書こうと思う。

 先月の名古屋場所。中入り後、支度部屋で記者の数が急に増える。取組後の力士の話を聞く。そんないつもの仕事をしようと、ある力士の前にかがんだ。ペンとノートを手に。その時やった。

 「やる気のなさそうなノートですね」

 ? オレのことか? あまりに虚を突く言葉やったので、一瞬ぽかんとして、直後に焦った。確かに縦約15センチ、横約10センチと小さくて、表紙は少女趣味的なピンクでプラスチック。百均ショップで買いました。確かに「やる気がある」と胸を張っては言いにくい代物ですわ。しかし、やねえ…。「いやいや関取。こう見えて、中はきっちりしとるんですよ。ほれ、この通り」。縮小コピーした番付をはったページを開けて見せたり、あわてふためいてもうたわい。

 力士は玉鷲やった。こっちは相撲担当まだ2場所目、特に親しくもない。そんな相手に何の前触れもなく放り込むには、考えられん言葉でしょ? ただ、その声色のソフトさ、普通さに嫌みのたぐいはかけらも感じず、見上げた顔は優しく笑って、穏やか。モンゴル出身ですよ? なんちゅうセンスや。抜群の突っ込みに、めちゃめちゃビックリしたわけです。

 聞けば手芸の達人らしい。お菓子作りや料理も達者とか。昔、女子プロゴルフでアン・ソンジュの言葉のチョイスに「日本選手よりはるかにおもろいがな」と感心したけど…。

 玉鷲、恐るべし。【加藤裕一】