水難事故の正しい対処法「背浮き」とは?救助の方法と適切な行動

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セルフケア・対処全身

着衣のままで水難事故に遭うケースが多い

例年、夏の間に国内で600人前後が水難事故に遭い、死者・行方不明者はそのうちの300人前後になります。夏の水難事故の多くは海や川で起きますが、湖や沼、池、用水路、プールなどで起こることもあります。

水難事故にあった際の行為

どのようなことをしているときに水難事故が起きたかを調べたデータをみると、水遊びが最も多く、釣りやボート遊びなど、着衣のままで水難事故に遭っているケースが多いことが分かります。

水難事故から身を守る理想的な方法は、あらかじめ救命胴衣を着用することです。救命胴衣を着けていると、胸から上が水面に浮く体勢を保てるため、呼吸が確保でき、命を守ることにつながります。救命胴衣はスポーツ用品店などで購入することができます。

「背浮き」とは

救命胴衣を着けていない状態で水に落ちたときでも、正しい対処法を知っていると、助かる可能性が高くなります。鍵を握っているのは、着衣のままあおむけになって浮かぶ「背浮き」という方法です。適切に行えば長時間浮き続けることができ、救助される可能性が高くなります。

最近は、小学校や中学校で、「背浮き」を水泳の授業に取り入れられることが増えていて、2020年度からは学習指導要領の改訂により小学校の5年生と6年生で必修となることが決まっています。

注意!自己流で「背浮き」の練習・指導を行わない

「背浮き」は、正しい指導を受けた人のみが、ほかの人に教えることができます。自己流で海や川で練習したり、人に教えたりするのは、危険なので行わないでください。
「背浮き」の正しい行い方は、水難学会が開催している「ういてまて教室」(指導員養成の講習会)で学ぶことができます。

「背浮き」の体勢がよい理由

「背浮き」の体勢がよい理由

人間の体は、息を吸った状態で水に入ると、体の98%が水中に沈み、2%が水の上に出ます。垂直の体勢だと、水面から出るのは頭頂部だけとなり、呼吸ができません。さらにこの体勢で息を吐くと、体の比重が水より少し重くなり、何もしなければ全身が沈んでしまいます。

背浮き

しかし、息を吸った状態で背浮きの体勢をとると、水面から上に出ている体の2%の部分に鼻と口が含まれます。そのため呼吸ができるのです。

「背浮き」の行い方

「背浮き」の行い方

着衣の状態で水に落ちた場合は、服を脱いだり、靴を脱いだりしてはいけません。衣服や靴が含んでいる空気によって浮力を得ることができます。

着衣で水に落ちた場合は、息を吐かずに速やかに「背浮き」の体勢をとります。

  1. 両手で水をかきながら、体が水面に対して水平になるように体を浮かせていきます。
  2. あおむけになり、鼻と口が水面から出たら、大の字の体勢になり、ここで初めて息を吐きます。
  3. そのまま浮いた体勢で、なるべく動かないようにして救助を待ちます。

動くと「背浮き」の体勢を保つのが難しくなり、大声を出すと息を多く吐くので体が沈みやすくなります。泳ぐのは、よほど水泳が得意な人でなければ難しく、体力を消耗してしまうため、浮いたまま救助を待ちます。

救助するための周囲の人の行動

水に落ちた人を助けようと水に飛び込んではいけません。水中で救助をするのは、体力に加え特別な知識や技術が必要で、助けようとした人まで犠牲になってしまうケースが多いからです。
万が一、とっさに飛び込んでしまった場合は、助けようとしたりせず、自分も「背浮き」をして救助が来るのを待ちます。周りに誰もいない場合でも、水上で大声で助けを呼んだり岸まで泳ごうとしたりせず、「背浮き」のままで救助を待つようにしてください。

水難事故 周囲の人が行う対処

水に落ちた人を見かけたら、周囲の人は、大きな声で「浮いて待て」と声をかけて、「背浮き」になるように指示します。もし救命用具になるものがあれば、水に落ちた人のそばに投げ入れます。ロープのついた浮き輪があれば理想的です。さらに、すぐに119番に通報します。そして、水に落ちた人を落ち着かせ、「背浮き」の体勢を保たせるため、大きな声で「浮いて待て」と声をかけ続けます。

救命用具がない場合には、空のペットボトルが役に立ちます。

  1. できれば1リットル以上の大きさのものを、水に落ちた人に向かって投げ入れます。
  2. 水に落ちた人は、「背浮き」をした状態で、ペットボトルをへその辺りで抱えます。

ペットボトルの浮力によって「背浮き」の体勢が安定し、体力の消耗を抑えて浮いていられるようになります。
ただし、ペットボトルが体から離れたところに落ちた場合は、体勢を崩すので無理に取ろうとしてはいけません。

もし、釣りざおもあれば、

  1. 空のペットボトルの中に、おもりを付けた釣り糸の先端を入れて、ふたをしっかり閉めます。
  2. 釣りざおを使って投げ込み、水に落ちた人につかんでもらいます。
  3. 水に落ちた人のそばに投げ込むのに失敗したら、引き寄せて、再び投げ込みます。
  4. ペットボトルをつかむことができれば、水に落ちた人を引き寄せることができます。

海や川に行くときには、空のペットボトルを1本用意しておくと、いざというときに役立ちます。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2018年7月 号に掲載されています。

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