「言う」の発音は[イウ]か[ユー]か。

公開:2016年8月1日

Q
「言う」を発音する場合は[イウ]、[ユー]どちらでしょうか?
A
終止形と連体形の場合、ひらがな表記は「いう」ですが、発音は[ユー]です。活用した場合の発音は[イワナイ、イイマス、ユー、ユートキ、イエバ、イエ]となります。

<解説>

「いう」などのひらがな表記は、「現代仮名遣い」(昭和61年7月1日内閣訓令・告示)で定められています。「現代仮名遣い」は、現代語の音韻に従って書き表すことを原則としていますが、以下のように一部、表記どおりに発音しない語があります。

例:助詞「は」「へ」「を」

→ ひらがな表記:は、へ、を発音:[ワ][エ][オ]

お父さん

→ ひらがな表記:おとうさん、発音:[オーサン]

「いう」も表記どおりに発音しない例に含まれます。

「正書法について」(国語審議会報告、昭和31年7月5日)に、次のように書かれています。

「現代かなづかい」では、連濁・連呼の書き方、助詞の「は」「へ」「を」の書き方、オ列長音をめぐる「おう」「おお」の書き方、「言う」の書き方など、必ずしも表音的ではない。

『大辞林第3版』(三省堂・平18)の「いう」の項目には次のような説明があります。

中世ごろから終止形・連体形の「いう」が融合して「ゆう」と発音されるようになり、「ゆ」を語幹として活用させた形も生じた。現代でも話し言葉では終止形・連体形は「ゆう」と発音されるが、「いう」と書く。

なぜ[ユー]と発音されるのでしょうか、「きゅうり」を例に考えてみます。
「きゅうり」は江戸時代までは[キウリ]と発音していたとされています。[kiuri]の下線部のように母音が2つ連続している場合に、1つの音にまとまることがあります。こうした現象を「母音融合」と言います。[キウリ]の[iu]が「母音融合」によって、[ju:](ユー)になり、標準的には[キューリ]と発音されるようになりました。

「いう(言う)」も、[iu]と母音が連続しており、「母音融合」によって、[ju:](ユー)と発音されるわけです。

さて、「きゅうり」の場合は、発音どおりにひらがな表記されます。一方、「いう」の場合は、前出のように表音的ではありません。これは、「言う」の活用の語幹を「いわない、いいます、いう、いうとき、いえば、いえ」のようにそろえるためです。『日本語の表記』(武部良明・角川書店・昭54)には次のように記されています。

(動詞「言う」を活用した場合に)語幹「い」の部分が一定しているという語意識を仮名遣いの上に表したものであり、同じ発音でも、「結う(ゆう)」と「言う(いう)」を書き分けることになるのである。

最後に、「言う」の発音と表記についてまとめると次のようになります。

「言う」は、終止形と連体形の場合、ひらがな表記は「いう」ですが、発音は[ユー]となります。ていねいに発音する場合は[イウ]、少しぞんざいな場合には[ユー]とも発音されるという使い分けがあるわけではありません。活用形の発音は[イワナイ、イイマス、ユー、ユートキ、イエバ、イエ]です。
[ユー]は発音した場合なので、ひらがな表記で「ゆう」「そうゆう」などとは書きません。
また、終止形と連体形の場合のみ[ユー]となるので、[ユワナイ][ユエバ][ユッテ]は標準的な発音とは言えません。

メディア研究部・放送用語 山下洋子

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