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パンデミック (Pandemic)

掲載:2020年05月11日

用語集

パンデミック(Pandemic)とは「ある感染症や伝染病が、全世界的に急激に広まる状態」を指します。英語の語源を紐解くと「Pan(全世界的に)+ Demic(広がる)」となり、「(病気が)全世界的に広がること」を意味します。一般的には、いきなりパンデミックが起こるのではなく、ある感染症について、一定の地域やコミュニティで通常より多数の罹患が発生すること(エピデミック)が引き金となり、これが全世界的な広がりを見せることでパンデミックとなります。参考までに、パンデミックと合わせてよく使われる言葉を整理しておきます。

・エピデミック:ある感染症について、一定の地域やコミュニティにおいて通常より多数の罹患が発生すること
・パンデミック:エピデミックが複数の国や大陸に広がる事態
・エンデミック:感染症などが、一定の地域やコミュニティにおいて、継続して一定の季節的周期であらわれる状況
・アウトブレイク:予想を超える速度で広がりを見せる事態

         

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応

2020年3月11日に世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をパンデミックと表明しました。2019年12月頃に中国武漢市付近で症例が確認されてからWHOによるパンデミックの表明までは3カ月半かかったわけですが、「パンデミック」という状態については具体的な感染者数や死亡者数、重症度、感染者の発生国数などの基準が明確ではなく、脅威の度合いを総合的に判断して決定されるものであるため、パンデミックの宣言までに少々時間がかかった印象となっているようです。

なお、WHOにより特定の感染症がパンデミックに認定されたからといって、各国に大きな影響があるわけではありません。感染症に対する対応は各国に委ねられており、WHOのフェーズ認定はその方針の参考として活用されることが望まれます。

新型インフルエンザに関するパンデミックフェーズの変遷

一方で、新型インフルエンザについては10年~40年の頻度で発生すると言われており、WHOは新型インフルエンザについてのパンデミックフェーズを2009年に下記のように定義しました。

 

【図表1:新型インフルエンザへの対応としての警戒フェーズ(2009)】

(出典:WHO”Pandemic influenza preparedness and response:a WHO guidance document”(2009)、P24)

 
フェーズ 状態
フェーズ1 動物の中で循環しているウイルスがヒトにおいて感染を引き起こしたとの報告がない段階
フェーズ2 家畜または野生の動物の間で循環している動物のインフルエンザウイルスが、ヒトに感染を引き起こしたことが知られ、潜在的なパンデミックの脅威であると考えられる段階
フェーズ3 動物インフルエンザまたはヒト-動物のインフルエンザの再集合ウイルスが、ヒトにおいて散発例を発生させるか小集団集積症例を発生させたが、 市中レベルでのアウトブレイクを維持できるだけの十分なヒト-ヒト感染伝播を起こしていない段階
フェーズ4 ”市中レベルでのアウトブレイク”を引き起こすことが可能な動物のウイルスのヒト-ヒト感染伝播またはヒトインフルエンザ-動物インフルエンザ の再集合体ウイルスのヒト-ヒト感染伝播が確認された段階
フェーズ5 1つのWHO地域で少なくとも2つの国でウイルスのヒト-ヒト感染拡大がある段階
フェーズ6(パンデミックフェーズ) フェーズ5に定義された基準に加え、WHOの異なる地域において少なくとも他の1つの国で市中レベルでのアウトブレイクがある段階
パンデミックピーク後 ピーク後の期間は、パンデミックの活動が減少していると思われることを表すが、さらに別の流行波が発生するかどうかは不確かであり国々は第二波に備える必要がある段階
パンデミック後 インフルエンザ疾患の流行は季節性インフルエンザで通常見られる水準に戻る段階

(出典:厚生労働省健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室「WHOにおける新型インフルエンザのパンデミック フェーズ改定に伴う新型インフルエンザ等対策政府行 動計画等の変更について」p.1)

 

2009年当時、WHOは感染が急速に世界的に拡大する新型インフルエンザの脅威の深刻さを示し、各国の事前の準備活動を促進するためにこうした基準を示したのですが、この表明は各国の活動に非常に多くの制約をもたらしました。しかし、新型インフルエンザは当初想定されたよりも毒性が弱く、想定していたほどの被害をもたらさなかったことから、パンデミックの表明がかえって社会に混乱をもたらす結果となってしまいました。

その反省を踏まえ、WHOは2017年に改定版のインフルエンザ警戒フェーズを制定しました。
各国は下記WHOのアセスメントを考慮しながら、自国における状況を個別にアセスメントし、対策を講じることが求められています。

【図表2:新型インフルエンザへの対応としての警戒フェーズ(2017)】

(出典:WHO “Pandemic Influenza Risk Management”(2017)p.13)

 

フェーズ 状態
パンデミックとパンデミックの間の時期(Interpandemic phase) 新型インフルエンザによるパンデミックとパンデミックの間の段階
警戒期(Alert phase) 新しい亜型のインフルエンザの人への感染が確認された段階
パンデミック期(Pandemic phase) 新しい亜型のインフルエンザの人への感染が世界的に拡大した段階
移行期(Transition phase) 世界的なリスクが下がり、世界的な対応の段階的縮小や国ごとの対策の縮小等が起こりうる段階

(出典:厚生労働省健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室「WHOにおける新型インフルエンザのパンデミック フェーズ改定に伴う新型インフルエンザ等対策政府行 動計画等の変更について」p.2)

 

日本政府もこの変更を踏まえて、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を改定しています。

上記のとおり、現在パンデミックとしてフェーズが定義されているのは新型インフルエンザのみですが、人類の歴史を振り返れば、感染症は繰り返し発生し、大きな健康被害とこれに伴う社会的影響をもたらしてきました。過去の疫病の歴史を振り返ってみましょう。

これまで発生してきた感染症と主な被害

最初に記録されているのは紀元前、エジプトのミイラで痕跡が確認された天然痘と結核、記録が残っているマラリアです。1300年代にはペストが大流行し、欧州だけで当時の全人口の4分の1~3分の1に相当する2500万人が死亡したとの記録が残っています。1918年にはスペインかぜが流行し、当時の世界人口18億人のうち25~30%が罹患し、4000万人以上が死亡したと言われています。

 

 

【図表3:過去発生した主な感染症一覧】

種類 地域 被害概要
紀元前~ ・結核
(再興感染症)
(結核)
アフリカ、アジア、北米、欧州、東地中海・西太平洋地域
(結核)
抗生物質により発生減少したが、抗生物質に対して抵抗性を示す結核菌が表れている。現在でも、世界の総人口の約4分の1が結核に感染しているとされる
・マラリア
(再興感染症)
(マラリア)
アフリカ、中東、東南アジア、オセアニア等
(マラリア)
殺虫剤DDT等による根絶計画が実施されたが、2018年時点でも世界で40万5000人が死亡と推定される
・天然痘(1980年には根絶) (天然痘)
中東、欧州、アメリカ、アジアの世界各国
(天然痘)
紀元前から存在し周期的に流行をつづけ、15世紀のコロンブスの上陸以降はアメリカ大陸で大流行した。 1980年には世界保健機関(WHO)が世界根絶宣言を出している
1300年代 ペスト 欧州 欧州だけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人が死亡したといわれる
1918年 スペインかぜ(H1N1) アメリカ、欧州 世界で4000万人以上が死亡したとされる
1957年 アジアかぜ(H2N2) 日本、中国、香港等のアジア諸国、オーストラリア、アメリカ、欧州 世界で200万人以上が死亡と推定される
1968年 香港かぜ(H3N2) 主にアジアを中心した世界各国 世界で100万人以上が死亡と推定される
1981年 エイズ(後天性免疫不全症候群) 主にアフリカ、アジアを含む世界各国 1981年に最初の症例が報告されて以降20年程度で6500万人が感染、2500万が死亡した
1997年 高病原性鳥インフルエンザ 中国、韓国、ベトナム等のアジア諸国、ロシア、アメリカ等 人での高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)は、 2009年1月20日時点で発症者397人、死亡者249人が確認された
2002年 SARS(重症急性呼吸器症候群) 中国、香港、台湾、シンガポール等のアジア諸国 2002年11月1日から9ヶ月で感染者数は8098人、774人が死亡した
2009年 新型インフルエンザ(A/H1N1) 世界214カ国・地域 2010年8月1日時点で1万8449人の死亡者が確認された
2012年 MERS(中東呼吸器症候群) 中東諸国、フランス、ドイツ、イタリア、英国を含む欧州、チュニジア、韓国等 2012年にサウジアラビアで初めて報告され、2015年には韓国・中国にも拡大し、2019年11月までに確定患者は2494人、死亡者は858人にのぼった
2016年 ジカウイルス感染症 アフリカ、南北アメリカ、アジア、太平洋地域 2007年にミクロネシア連邦のヤップ島で流行し、2013年にはフランス領ポリネシア、2014年にはチリのイースター島で流行。2015年にはブラジルをはじめとする南アメリカ大陸で大流行し、2016年にはWHOが国際的な懸念に対する公衆衛生上の緊急事態にあると発表した
2018年 エボラ出血熱 コンゴ民主共和国、スーダン、ウガンダなどの中央アフリカ諸国 1970年代以降から流行が確認されており、2014年に西アフリカで流行した際は、11000人以上が死亡した。以降も散発的に発生し、2018年8月からコンゴ民主共和国北東部を中心にアウトブレイクが続いている

2020年にパンデミックと宣言された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック

2020年4月現在、新型コロナウイルスによる感染者は全世界で300万人、死者は20万人を超えています。新型コロナウイルスは過去の感染症と比較して死亡率が高いわけではないのですが、感染率が高く、また、グローバル化が進行した世界において非常に早く広範囲にわたって飛び火したため、全世界的な蔓延となってしまいました。

また、一部の国で重症化率が高かったことから社会活動の制限が始まり、国内では大まかに以下のような段階でビジネスへの影響が拡大していきました。

【図表4:新型コロナウイルスによる企業活動への影響】

週刊東洋経済をもとに弊社にて作成

 

未だ対応の只中ではあるものの、感染症BCPを用意していてとても助かったという声もあれば、残念ながら機能しなかった、など様々な声を聞きます。感染症によるパンデミックは10年単位で発生するともいわれています。今後も感染症は発生するでしょうし、次に大きな被害を及ぼすのは感染症以外の災害ということも考えられます。今回の教訓をしっかりと糧にし、次の災害も見据え、実効性のある、変化に対応できるBCPの策定が求められています。

参考文献

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