資料6 Qualifying examsについてのコメント【菅委員提出資料】

東京大学大学院理学系研究科・化学専攻・教授 菅 裕明 

Qualifying exams(適性試験)は米国の大学院(Ph.D. course)、特に理系学科では必ず導入されている試験で、一律に同じスタイルの試験ではないにしても、各大学、学科で、独自の様々なハードルを設けている。中でも、Research Presentation&Defense(呼び名は様々)とProposalは、通常のどこの大学の適性試験にも概ねある。両者とも、文書の提出だけでなく、口頭試問を課していることが特徴である。

Research Presentation&Defenseでは研究成果を文書サマリーと委員会への口頭説明およびディフェンス(試問)が義務づけられている。ほとんどの場合、学生が2年終了時に行う事が多く、3年に上がる、すなわちPh.D.候補者となりうるかどうかを判定するため、1時間程の時間をしっかりかけて、数名の教員(Professor, Associate Professor, Assistant Professor)からなる委員会で慎重に審議する場合が多い。また、ディフェンスでは、研究に直接関係なくとも、基礎的な質問に答えられるかどうかを問うこともある(これは、本来の基本的知識を確認すると同時に、落第させる理由にもなりうる)。

一方、Proposalでは、自分が推進している研究とは異なる研究内容で研究企画を書かせ、その企画書の提出と任命された評価者(あるいは上記と同じ委員会)とのディスカッション・ディフェンスをおこなうことが義務づけられている場合が多い。この試験の教育目的は、(1)学生自らアイディアを出し、それを論理立てて文書化する能力を養う、(2)将来、社会で(アカデミアあるいは企業で)企画書を書く能力を養う、(3)自分の研究興味を広げる、である。また、Proposalを書く能力は、米国ではアカデミアで生きていく為には必要不可欠であるため、学生にその洗礼を受けさせ、自分がアカデミアで活躍できるかを学生自ら見極めさせる目的もある。Proposalは、Ph.D.候補者になってから行われる場合が一般的であるが、Research Presentation&Defenseと抱き合わせて行うこともある。

その他にも適性試験があるが、分野あるいは大学・学科によってそのスタイルはまちまちである。いずれも、上記2つの試験の補完的な教育の場合が多い。

現在、日本の大学院では、Research Presentation&Defense=修士論文とProposal=学振への申請、という位置づけとも考えられるが、適性試験の本来の目的とは若干異なる。前者では、日本の大学院では、修士課程の大学院生数が多いため、修士論文発表会では、十分に時間を取り、委員会クローズドな形でディフェンスが行われる事は、極めて稀である。また、後者は、「自分が推進している研究とは異なる研究内容」という意味では、学振への申請とは基本的スタンスが異なり、また申請書のディフェンスもおこなわれないため、教育的配慮は薄い(もちろん、企画書を書く経験というスタンスでは教育的効果はあるが)。

現在の日本の大学院は、学生が能動的な立場の能力を審査する試験が少なく、それが各研究室に一任されており、専攻のカリキュラムとして「博士学位者」を養成する為の教育トレーニングが、米国のそれに比べると希薄であろう。

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