大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)

2002/08/05
中央教育審議会

大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)

平成14年8月5日

中央教育審議会


目次

○  中央教育審議会「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」(答申)

  • はじめに
  • 第1章 基本的な考え方
    • 1 大学の質の保証の必要性
    • 2 我が国の大学の質の保証システムの現状
    • 3 規制改革の流れ
    • 4 改革の方向性
  • 第2章 設置認可の在り方の見直し
    • 1 設置認可の対象
    • 2 設置審査の抑制方針の見直し
    • 3 設置審査に係る基準の見直し
    • 4 校地に係る基準の見直し
  • 第3章 第三者評価制度の導入
    • 1 現在の第三者評価
    • 2 新たな第三者評価制度の導入
    • 3 機関別第三者評価
    • 4 専門分野別第三者評価
    • 5 機関認証基準
    • 6 大学評価・学位授与機構の評価の対象
    • 7 認証評価機関に対する支援
    • 8 国際的な質の保証の情報ネットワークの構築等
  • 第4章 法令違反状態の大学に対する是正措置
  • 第5章 おわりに

大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)

はじめに

  • (1)  社会・経済・文化のグローバル化が進展し,国際的な競争がますます激しくなっていく中で,大学が社会の要請にこたえることのできる優れた人材を育成し,先端的・独創的な研究を進めることが我が国にとって極めて重要となっており,大学の教育研究水準の更なる向上,国際的にも通用するような大学の質の保証が強く求められている。
  • (2)  大学の質を保証するためのシステムは,諸外国においても,一般的には1大学の設置認可による大学設置時の質の保証,2設置後の教育研究活動に対する様々な大学評価による質の保証の組合せにより成り立っている。我が国においては,従来,国による厳格な設置認可による質の保証に力点が置かれたシステムとなっている。一方,大学評価については,平成3年の大学設置基準の規定の新設以来10年の間に自己点検・評価が定着してきているものの,第三者評価は未成熟であり,大学の質の保証システム全体としては不十分な状態にある。また,設置認可についても,従来度々の弾力化や簡素化が図られてきたが,今後さらに,大学の教育研究水準の維持向上を図りつつ,急速な社会の変化や学問の進展に的確に対応し,大学等の主体的・機動的対応をより一層可能とする観点から,その望ましい在り方について改めて様々な角度からの検討が求められている。
  • (3)  このような観点から平成13年4月の本審議会に対する文部科学大臣からの「今後の高等教育改革の推進方策について」の諮問においても,設置認可の望ましい在り方について,大学評価の充実・推進方策の在り方を視野に入れつつ,幅広く検討することが求められている。
      大学審議会の平成10年の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において指摘された4つの改善方策,1課題探求能力の育成-教育研究の質の向上-,2教育研究システムの柔構造化-大学の自律性の確保-,3責任ある意思決定と実行-組織運営体制の整備-,4多元的な評価システムの確立-大学の個性化と教育研究の不断の改善-,はいずれも設置認可の在り方を含めた大学の質の保証と深くかかわるものであり,本審議会では,その改革の流れを更に進めるため,平成13年6月に大学分科会の下に将来構想部会を設置し,「競争的環境の中で個性が輝く大学」にふさわしい質の保証のためのシステムが全体としていかにあるべきかという視点に立って,審議を行ってきた。
  • (4)  また,この問題は総合規制改革会議等においても議論が行われ,国による規制を可能な限り緩和し,事前規制型から事後チェック型への移行を図るという規制改革の観点からも大学設置認可の準則主義化や第三者評価制度の導入が提言されており(「規制改革に関する第一次答申」(平成13年12月総合規制改革会議)),将来構想部会では,その動向についても十分留意しつつ検討を行ってきた。
  • (5)  将来構想部会では,本年4月に審議の中間的取りまとめを総会に報告して公表するとともに,関係者からのヒアリングを実施するなど専門的かつ慎重な審議を重ねてきた。
  • (6)  本審議会は,その結果に基づき,更に総会及び大学分科会で審議を行い,このたび,1設置認可制度の弾力化,2第三者評価制度の導入,3法令違反状態の大学に対する是正措置の導入などから成る大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について結論を得たので,ここに答申を行うものである。

第1章  基本的な考え方

1  大学の質の保証の必要性

(1)  今後の国際社会においては,社会や経済など様々な面でボーダレス化が進み,国家間の相互依存・相互協力が進展して諸制度等の国際標準化が進む一方,競争も一層激しくなることが予想される。
  このような中,諸外国では自らの知的基盤を整備充実させ,それによって生み出される「知」の積極的活用を図っていこうとしている。そこで,大学が優れた人材の養成と独創的な学術研究の推進といった,言わば「知の創造と継承」という極めて重要な役割を果たしていることにかんがみ,各国とも国際的通用性の向上,国際競争力の強化等の観点から大学の教育研究水準の維持向上を目指しており,積極的に大学改革に取り組んでいる。
  この中で多くの国の共通の施策としては,大学評価を挙げることができる。先進主要国はすべて大学評価を改革の重要テーマとしている。アメリカでは,伝統的に,大学や専門職団体が組織した様々なアクレディテーション(適格認定)団体が自発的に大学を機関単位あるいは専門分野単位で評価し,当該団体への加盟判定を行ってきたが,1990年代に入り,大学の質の一層の確保を図るため,これらの団体に対する連邦政府の認定制度が導入された。また,イギリスでは1986年から大学の研究評価を実施し,1993年からは大学の教育評価も行われるようになっており,フランスでも1984年に行政委員会として大学評価委員会が設置されている。ドイツにおいても1998年の高等教育大綱法改正により,国際的通用性の確保の観点から,学士・修士の学位を新設するとともに,これらの課程について,大学に定期的な第三者評価とその結果の公表を義務付けている。さらに,EU諸国において,各国に共通する指標を定め,ヨーロッパレベルの大学評価を行い,全体の高等教育の質を向上させようとする取組も始まっている。(2)  我が国においても,諸外国と同様,自己点検・評価の充実や大学評価・学位授与機構の創設等の大学評価に関する施策も含め,これまで様々な施策を通じて大学改革に取り組んできており,現在なお進行途上にある。特に,「知の時代」とも言われるこの21世紀において,人材以外に資源の乏しい我が国が国際社会の中でリーダーシップを発揮し発展していく上で大学の果たすべき役割は極めて大きいものがあり,我が国における知的源泉として,その質的水準の確保を図っていくことが不可欠である。このため,大学が今後一層,人材養成や学術研究などの面で求められる責務を果たしていけるよう,恒常的にその質を社会に保証していくシステムを構築する必要がある。

2  我が国の大学の質の保証システムの現状

(1)  大学の教育研究の質の保証については,現在,国による厳格な設置認可と各大学における自己点検・評価や第三者評価機関の評価の活用などの自己努力に負っている。

(2)  大学,学部等の設置に当たっては,国が大学設置基準等を基に審査し認可を行っているが,この設置認可制度は,我が国の大学が教育研究水準や学位等の国際的な通用性などを確保する上で,一定の役割を果たしている。

(3)  また,大学設置基準等において,大学はその教育研究活動等の状況について自ら点検・評価を行い,その結果を公表することが義務付けられているほか,その結果について当該大学の職員以外の者による検証を行う努力義務が課せられている。この自己点検・評価は,各大学が自らの教育研究の理念・目標に照らして評価し,その結果を踏まえて大学が改善を図っていくものであり,大学の自主的・自律的な質の充実に資するものである。
  なお,文部科学省の調査によれば,平成13年10月現在,すべての国公私立大学のうち92%の大学で何らかの形で自己点検・評価を実施し,75%の大学でその結果を公表しているが,学外者による検証は32%の大学にとどまっている。

(4)  現行の設置認可は,前述のように大学の質の保証の観点で一定の役割を果たしており,設置認可の際,教育課程,教員組織,校地・校舎などについて審査が行われるが,これらは,これから行われる教育研究の前提としての枠組みについてのものであり,実際にどのような教育が行われるかについて直接的な保証をすることには困難もある。また,自己点検・評価などは教育研究を行う当事者自らの判断である点で,一般社会から見て透明性・客観性の点で必ずしも十分なものとは言えないという問題がある。

3  規制改革の流れ

(1)  大学の設置認可制度は,その教育研究の質を保証する上で一定の役割を果たしている一方,組織改編には国の設置審査が必要となることから,大学が学問の進展や社会の変化・ニーズに応じて自らより積極的に改革できるよう,設置認可制度を弾力化すべきとの意見がある。

(2)  また,我が国の行政システム全体の動きとして,国による規制を可能な限り緩和し,事前規制型から事後チェック型へと移行する方向にある。

(3)  こうした流れを踏まえ,国の事前規制である設置認可制度を見直し,学問の自由,大学の自主性・自律性の尊重等を踏まえて国の関与は謙抑的としつつ,設置後も含めて官民のシステム全体で大学の質を保証していく必要がある。
  なお,このことは平成13年12月に総合規制改革会議が取りまとめた「規制改革の推進に関する第1次答申」等においても提言されている。

4  改革の方向性

  以上のことを踏まえ,国の事前規制である設置認可を弾力化し,大学が自らの判断で社会の変化等に対応して多様で特色のある教育研究活動を展開できるようにする。それとともに,大学設置後の状況について当該大学以外の第三者が客観的な立場から継続的に評価を行う体制を整備する。これらのことにより,大学の自主性・自律性を踏まえつつ,大学の教育研究の質の維持向上を図り,その一層の活性化が可能となるような新たなシステムを構築することとする。

第2章  設置認可の在り方の見直し

1  設置認可の対象

  • (1)  大学の組織の新設・改廃には国の認可が必要であり,具体的には,現在のところ,学部の学科レベルまで認可の対象としている。この場合,国は大学設置基準等を基に,大学設置・学校法人審議会において,1教育研究上の理念など設置の趣旨が具体的かつ明確に示されているか,2設置の趣旨に照らし教育課程は適切であるか,3教育課程を展開するのにふさわしい教員組織であり,かつ,校舎等施設・設備が質的にも量的にも十分であるか,などの観点を中心に審査し,その答申を得て認可している。
  • (2)  この設置認可の対象を見直すに当たっては,大学の自主性・自律性を尊重し,国による事前規制を一層緩和するという考え方を踏まえ,大学が主体的・機動的・弾力的に組織改編できるよう,設置認可の対象は,大学の教育研究の質を確保する上で事前に審査することが必要不可欠なものに限定する。
  • (3)  設置認可の対象を限定する方法として,大学の基本組織である学部のみを認可対象とし,その下部組織である学科は届出事項とすることが考えられるが,この場合,同一の学位を授与する課程でも学科にするか学部にするかという組織の違いだけで取扱いが異なるという問題が生ずる。
  • (4)  そこで,もう一つの方法としては,大学が授与する学位の種類や分野に着目し,その違いによって認可対象を限定する方法が考えられる。もともと学位授与権の付与が国際的にも歴史的にも大学の設置認可の際の重要な要素であり,大学の設置認可は,学位を授与するためにふさわしい教育課程,教員組織等があり,一定の分野で一定の水準の知識・技術を身に付けさせることが可能であるかどうかを審査して行われるものである。このような設置認可の性格を考えれば,設置認可時に授与することが想定された学位の分野などを超えない学部等の設置であれば,新たに認可を求めることは特段必要がないと考えられる。
  • (5)  したがって,国の設置認可は,大学,大学院の基本組織である学部,研究科等の新設・改廃について行うことを原則とするが,学部の設置は認可,学部の学科の設置は届出といった形式的な対応とするのではなく,改編前後で授与する学位の種類や対象とする分野に変更があるか否かを勘案して次のような弾力的な取扱いとする。
    • 1  現在授与している学位の種類・分野を変更しない範囲内で組織改編する場合は,学部等大学の基本組織の設置であっても国の認可は不要とし,届出で足りることとする。
      <イメージ例>
      •   同一の学位を授与する昼間・夜間それぞれの学部を昼夜開講制の一つの学部に改組する場合は届出とする。
      •   経済学部の中に経済学科と経営学科があり,経営学科を改組して経営学部を新設する場合は届出とする。
      •   工学部の中に情報関連の学科があり,これらを独立させて情報工学部を新設する場合は届出とする。
      •   理学研究科と工学研究科を統合して理工学研究科を新設する場合は届出とする。
    • 2  新たな種類・分野の学位を授与するための組織改編の場合は,学部の学科の新設であっても認可の対象とする。
      <イメージ例>
      •   医学部の中に既設の医学科とは別に看護学科を新設する場合は,看護学部の設置の場合と同様,認可の対象とする。
      •   既設大学に新たに「法科大学院」を設置する場合は,研究科として設置するか専攻として設置するかを問わず,認可の対象とする。
  • (6)  学位の分野に関しては,現在,各大学がそれぞれの判断で適切な名称を付記しており,今後もこの点に変更はないが,学部等の設置に当たっては,既存の学部等が授与する学位の対象とする分野とは異なる範疇のものか否かによって認可か届出かが分かれることとなる。このため,どのような場合が「新たな分野の学位を授与する場合」に該当するかについて,設置認可の手続上の観点から,指標を定める必要がある。
      この場合,大学の学部等において授与している学位を文学関係,教育学関係,法学関係,経済学関係,理学関係,工学関係,医学関係,歯学関係などのように大括りに分類し,設置の際の認可か届出かの判断基準とすることが,大学の自主的自律的な組織編成を可能とすることから適当であり,具体的な分類については,新しい分野の発展に配慮しつつ,更に検討を進め,本審議会において結論を得る。
  • (7)  私立大学の収容定員は,学科又は課程を単位とし,学部ごとに学則で定めており,その増減に係る学則変更には国の認可が必要とされている。今回,大学の主体性をより重視する方向で,学部等の設置認可を弾力化することとなるが,組織改編に伴う収容定員に係る学則変更を引き続きすべて認可対象とすると,設置認可の弾力化の効果が半減することになる。また,収容定員が減少する場合については国が事前規制を行う必要性に乏しいことなどから,今後引き続き認可対象とするのは大学全体で収容定員が純増する場合のみに限定し,大学全体の定員内における学部等(後述するように,抑制の取扱いを継続することとされた場合の特定分野の学部等を除く)間の定員の増減は当該大学の裁量にゆだねることによって,大学による自律的な組織編成を容易にする。
  • (8)  短期大学及び高等専門学校の学科の新設・改廃については,大学の学部に相当する基本組織として,国の認可を必要とすることを原則とするが,改編前の学科が対象としていた教育の分野を変更しない範囲内で組織改編する場合は,国の認可は不要とし届出で足りることとするなど,4年制大学と同様の取扱いとする。この場合,認可か届出か区分する指標についても,4年制大学の場合に準じて定めるものとする。
  • (9)  以上の基本的な考え方を踏まえ,大学,大学院,短期大学及び高等専門学校に係る国の認可の主な対象は以下の事項とし,認可対象から除外するこれら以外の事項については原則として届出とする。
    •   大学,大学院,短期大学及び高等専門学校の設置・廃止
    •   新たな種類・分野の学位を授与する学部等の設置や従来の教育の分野を変更する短期大学及び高等専門学校の学科の設置
    •   設置者の変更
    •   大学全体の収容定員増に係る学則変更(私立大学等の場合)
  • (10)  なお,以上のような整理の結果,学部等の設置が認可事項となるか届出事項になるかにかかわらず,当該学部等が大学設置基準等の法令に適合していなければならないことは言うまでもないことであり,届出事項となったものについても,届出内容が法令に適合していない場合は,国は変更その他必要な措置が講じられるようにする。

2  設置審査の抑制方針の見直し

(1)  高等教育全体の規模に関して,これまで大都市部における設置の在り方を含め大学設置に係る審査については抑制的に取り扱ってきており,このことが大学の質の確保を図る面にも寄与してきたと考えられる。しかし,平成13年12月の総合規制改革会議第1次答申でも指摘されているように,高等教育の柔軟な発展や競争を制約する可能性もあることから,こうした方針の見直しが求められているところである。

(2)  大学,学部等の設置に関する審査に当たっては,現在,特定の分野を除いて抑制的に対応する方針が採られているが,大学が社会のニーズや学問の発展に柔軟に対応でき,また,大学間の自由な競争を促進するため,今後は抑制方針を基本的には撤廃することとする。
  なお,医師,歯科医師,獣医師,教員及び船舶職員の養成に係る大学,学部等については,過去の高等教育計画において計画的な人材養成が必要とされた分野のうちおおむね必要とされる整備を既に達成したこと,及び,それらの分野についての人材需給に関する政策的要請があることから,現在は全く新増設等を認可していない。このような規模や分野に関する現在の規制を残すことについては,大学の質の保証のために実施するものである設置認可制度の改善の趣旨を徹底する観点からは問題があるが,それぞれの分野における政策展開に密接な関連を有するものであるため,設置認可制度の改善の観点のみから,これらの取扱いを変更することは困難と考えられる。こうした例外分野の取扱いについては,今後,高等教育のグランドデザインの一環として高等教育における人材養成の在り方を検討する中で更に検討する。

(3)  首都圏,近畿圏,中部圏における工業(場)等制限区域・準制限区域内の大学の設置等について抑制的に取り扱っているが,大都市部における大学の自由な発展を阻害している等の批判があり,本年7月に工業(場)等制限法も廃止されたことを踏まえ,抑制方針を撤廃することとする。

(4)  なお,こうした抑制方針を撤廃するに当たっては,大都市部における過当競争や地域間格差の拡大などから,教育条件の低下や学生の不安感の増大などを招くおそれもある。このことを踏まえ,例えば各大学における学生定員管理の厳格化を図る等これらの点に配慮した施策の検討が求められ,これらの点についても高等教育のグランドデザインを別途検討する中で検討する。

3  設置審査に係る基準の見直し

  現在,大学設置審査の際に適用されている基準は,大学設置基準等の法令のほか,大学設置・学校法人審議会の審査基準や内規など様々な形式によって規定されている。今回,これらの基準が設置審査の最低基準であるとの観点に立って,それぞれの規定の必要性を吟味し,整理を図るとともに,こうした様々な基準の一覧性を高め,明確化を図る観点から,設置審査に係る基準を原則として告示以上の法令で規定することが必要である。

4  校地に係る基準の見直し

  これら設置審査に係る基準のうち,大学設置基準等で定められている校地面積基準(校地が校舎の基準面積の3倍以上)及び校地の自己所有比率規制(原則として基準面積の2分の1以上が自己所有)については,土地利用の現状を踏まえた見直しが求められている。これらの基準は学生等の多様な活動を可能にするとともに学校法人の資産確保の面で一定の役割を果たしていることから,一定の数量的な基準は必要と考えられ,例えば,校地面積基準を校舎面積と連動しない形で定めたり,合理的な理由があれば基準の緩和を認めたりするなどの方法により,新たな数量基準を設定することとする。

第3章  第三者評価制度の導入

1  現在の第三者評価

  より客観的で透明性の高い第三者評価を実施し,その評価結果を大学の教育研究活動の一層の改善に反映させるため,平成12年度に大学評価・学位授与機構が創設され,現在,今後の評価の本格的実施に向けて,国立大学等を対象に,各大学が行う自己点検・評価を基に試行的に評価を実施している。また,財団法人大学基準協会をはじめ様々な機関がそれぞれの観点から評価を実施している。

2  新たな第三者評価制度の導入

  • (1)  国による事前規制を最小限のものとし,設置後の大学の組織運営や教育研究活動などの状況を定期的に評価する体制を整備するとの観点から,様々な第三者評価機関が活動を展開している現状を踏まえ,国の関与は謙抑的としつつこれらの機関を可能な限り活用し得る新たな評価システムを整備し,大学の自主性・自律性に配慮しながらその教育研究の質の維持向上を図っていくことが必要である。
  • (2)  このため,大学の教育研究活動等の状況について,様々な第三者評価機関のうち国の認証を受けた機関(認証評価機関)が,自ら定める評価の基準に基づき大学を定期的に評価し,その基準を満たすものかどうかについて社会に向けて明らかにすることにより,社会による評価を受けるとともに,評価結果を踏まえて大学が自ら改善を図ることを促す制度を導入する。  その際,大学の理念や特色は多様であるため,各々の評価機関が個性輝く大学づくりを推進する評価の在り方に配慮するとともに,様々な第三者評価機関がそれぞれの特質を生かして評価を実施することにより,大学がその活動に応じて多元的に評価を受けられるようにすることが重要である。
  • (3)  また,大学の質の向上については,大学が自らの教育研究活動や,組織運営の在り方などについて,不断に自己点検・評価し,その結果に基づき更なる改善方策を探るなど,企画立案,実施,評価,反映といった教育研究活動の改善のための循環過程を自らのうちに構築していくことが当然必要であるが,これに加え第三者としての認証評価機関により,定期的に評価を受けて,その評価結果やこれに対する社会の反応を踏まえて大学が自らの改善につなげるという,言わば「社会」を意識したプロセスも,これらの教育研究の改善のための循環過程の一環として導入することが必要である。
  • (4)  なお,認証評価機関による評価は,それぞれの評価機関が独自に定める基準に基づいて,大学の質の保証と教育研究活動の改善のために行うものであり,仮に評価機関の定める一定の基準に達せず,適格認定されなかった場合でも,当該大学はそのこと自体を理由として国から行政処分を課されることとなるものではない。

3  機関別第三者評価

  大学全体を組織体として評価する,いわゆる機関別第三者評価については,大学の質の維持向上のために各大学が自ら定期的に受け,その結果を大学の改善に役立てていくことが重要であることから,各大学は認証評価機関による評価を受けるものとする。
  大学は,第三者評価の推進に関する強い社会的要請にかんがみ,自己点検・評価に加えて,より客観性・透明性の高い認証評価機関による第三者評価を受けることにより,その教育研究の質の向上を図る責任を有している。これらの評価は本来,大学が自発的に受けるべきものであるが,自らの教育研究の質を向上させるために定期的に第三者評価を受ける責任を有することを制度上明確にしていくことが必要である。
  また,その場合,第三者評価機関の認証制度を導入することについては,第三者評価機関が社会に信頼される評価を行い得る枠組みを備えた機関であるかどうかを確認するものであり,第三者評価を社会的・国際的に通用する制度として育てていく上で必要と考える。
  なお,我が国では機関別第三者評価を実施する機関が必ずしも十分育成されておらず,現在,その整備充実に向けた努力が関係方面で進められているという状況にかんがみ,評価の実施スケジュールについては第三者評価機関の整備充実の状況や評価に対する大学側の準備状況を考慮して定めることが必要である。

4  専門分野別第三者評価

  大学の専門性を様々な分野ごとに評価する,いわゆる専門分野別第三者評価についても,例えば日本技術者教育認定機構(JABEE)が行っているように,将来的には多様な分野で行われることが必要である。しかし,現在直ちに多くの分野で専門分野別第三者評価が実施できる状況にはないところであり,認証評価機関による評価の義務付けは,当面,第三者評価の導入に対する必要性が特に強い法科大学院等の専門職大学院から開始することとする。

5  機関認証基準

  • (1)  国は,認証評価機関の認証に係る一定の基準(機関認証基準)を示し,認証申請のあった機関のうちこの基準を満たすものを認証する。
  • (2)  機関認証基準としては,例えば以下の事項を定めることが考えられる。
    •   大学評価のための適切な基準を定めていること
    •   適切な評価が実施できる体制が整備されていること
    •   定期的に評価を実施すること
    •   評価結果について一般に公表すること
    •   評価結果に係る不服申立て制度を整備していること

6  大学評価・学位授与機構の評価の対象

  大学評価・学位授与機構は,当分の間,私立大学に係る評価を行わないものとすることとされているが,同機構がこれまで蓄積してきた評価に係る能力,機能等を私立大学においても活用できるよう,同機構による評価を受けることを希望する私立大学についてはこれを可能にすることが適当である。

7  認証評価機関に対する支援

  現在,第三者評価機関の整備充実に向けての取組が関係各方面で行われているところであるが,第三者評価機関の果たす役割の重要性にかんがみ,その取組を支援し,円滑な業務の実施に資するため,認証評価機関に対する国の支援方策について検討する必要がある。

8  国際的な質の保証の情報ネットワークの構築等

  e-Learningなど情報通信技術等を用いて国境を越えて提供される高等教育サービスが一層流通する時代が到来しつつあることを見据え,大学の質についての国際的な保証システムを構築していく必要がある。例えば,大学の質の保証に係る国際的な情報ネットワークの構築等に関する検討の必要性に留意することが重要である。

第4章  法令違反状態の大学に対する是正措置

  • (1)  今後の国公私立大学の教育研究における質の維持向上は,新たに導入する第三者評価制度及びその評価結果なども踏まえた各大学における改善についての自発的な取組が基本となるが,法令違反の状態に陥った大学に対しては,国としても是正措置を講じられるようにしていく必要がある。
  • (2)  違法状態の大学に対する国の措置としては,行政指導以外には,現行法令上,大学自体の閉鎖を命ずる,いわゆる閉鎖命令と,大学における法令違反の是正を命ずる,いわゆる変更命令があるが,これらの発動に至る前の,大学の自主性・自律性を踏まえた緩やかな改善措置についての規定が整備されていない。
      さらに,変更命令は私立大学に対しては適用除外とされており,国が違法状態にある私立大学に対して是正措置を行おうとすれば,閉鎖命令という最終的な措置を発動するしか法的手段はない。
  • (3)  このため,違法状態にある大学に対しては,緩やかな措置から段階的に是正を求めるべく,新たに改善勧告制度を導入するとともに,私立大学についても変更命令を可能とし,閉鎖命令に至る事前の措置を規定する。
  • (4)  なお,閉鎖命令は大学の全体を対象とする措置であり,学部等大学の中の特定組織を対象とする措置については現行法令上規定されていない。このため,大学の中の一部の学部等における違法状態をもって大学自体が閉鎖されるという事態を招くことのないよう,違法状態にある特定組織のみを対象とした設置認可の取消等の規定を整備する。
  • (5)  以上のことを整理すると,違法状態にある大学に対する是正は,原則として,1改善勧告,2変更命令,3特定組織のみを対象とした認可取消等の措置,4大学の閉鎖命令,といった段階を踏まえながら行うこととなる。
      なお,これらの措置はあくまで法令違反の場合のみに発動することとするとともに,特に私立大学に変更命令等を行う場合は,事前に大学設置・学校法人審議会の意見を聴くものとする。

第5章  おわりに

  • (1)  今後の大学における教育研究の質の確保は,これまで述べてきた種々の方策を一体として実施することによって初めて可能になるものであり,大学の質の保証に係る総合的なシステムを早期に確立することが求められる。また,今回の改革はこれまでの大学の在り方に大きな影響を与えるものであるため,新たなシステムの実施に当たっては,大学関係者に対し,その趣旨,制度の内容等についてあらかじめ十分周知し,質の向上に対する大学関係者の理解と自主的な努力を促していくことが必要である。
  • (2)  なお,このことに関連し,大学による情報提供を一層促進することが求められる。大学は公共的な機関であり,今回の改革によって一層大学の自主的・自律的な取組が可能になることを踏まえ,社会的責務として大学情報を可能な限り社会に提供していくことが必要である。情報を社会に提供することによって大学が社会から評価を受け,必要な改善を図ることにより大学の質の向上に資することとなる。教育研究活動や財務関係の状況,認証評価機関による評価結果など大学の情報を積極的に提供することについては,大学が社会の信頼・支持を得るために不可欠なものとして,これに取り組んでいくことが期待される。
  • (3)  高等教育の今後の在り方や全体規模などについては,高等教育のグランドデザインの一環として検討する。
      また,大学の存続や学生に対する教育機会の提供が困難になった場合,学生が学習を継続して行うことができるよう,就学機会を確保するための方策等についても併せ検討する。

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)