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N/S高 初代生徒会長にインタビュー「生徒数2万6000人、日本最大規模の生徒会をどう率いたか?」

N高等学校、S高等学校(以下、N/S高)は合わせて2万6000人(2023年現在)の生徒が通う日本最大の通信制高校です。2022年11月から「生徒自身が決めて本当に実行できる生徒会」をコンセプトに、N/S高合同生徒会が発足しました。桁違いの生徒が参加する生徒会役員選挙、年間1000万円の予算、オンラインスクール独特のプロジェクトなど、初代生徒会長を務めた、石井淳平さんにお話を聞きました。

初代生徒会長を務めた石井淳平さん

生徒会会長は、どのような方法で選出されたのですか?
「生徒会役員は20名で構成されていて、会長、書記、会計のほか、N高とS高の総代表、そして北海道から九州・沖縄までの各地区代表15名がいます。N/S高の生徒は、学年や年齢に関係なく、みんな被選挙権と、一人につき3票の投票権をもっています。
第1期の選挙では、169人の生徒が立候補して、総投票数は1万5269票にも上りました。得票数によって役員や地区代表が選ばれます。生徒会長は最多得票を得た候補者が選ばれるしくみです」

 

選挙では、みなさんユニークな公約を掲げていましたが、石井さんの公約はどのようなものでしたか?
「私の公約は、他の候補者と比べて目立つものではありませんでしたが、生徒会が実質的にゼロからスタートする状況を踏まえ、まずは生徒会の基盤をしっかりと築くことを重視しました。20人の役員と1000万円の予算があるものの、他には何も決まっていない状態でしたので、確固たる基礎を作ることがもっとも重要だと考えました。

石井さんが選挙で配布した公約を掲げたビラ
おそらくトップ当選できたのは選挙活動の効果だと思います。ほかの候補者はインターネットやSNSを活用していましたが、私は実際の選挙キャンペーンのような活動を行いました。赤いタスキとスーツを着て、関東近郊のキャンパスを回り、700枚のビラを配りながら握手やグータッチを交えて演説を行いました。いわゆるドブ板選挙スタイルですね(笑)。このキャンペーンが新鮮で、インパクトがあったため、多くの有権者の目に留まり、投票を集めることができたと思います」


実際の選挙活動の様子

 

N/S高の生徒は全国にいて、なかなか顔を合わせる機会も少ないと聞きます。役員会はオンラインとオフラインのハイブリッドで行われたそうですが、どのように行われていたのですか?
「オンラインとオフライン、それぞれに利点と欠点があると思います。オンライン会議では、どうしても会話が硬く、形式的になりがちです。一方、オンラインだと、空気を読みすぎてしまい、過度な配慮から本音が言えないことがあります。しかし何度かオフラインでの会議を重ねるなかで、直接会って話すことで、より本音が見えやすく、空気感が伝わるようになったと思います。意見が対立していたメンバーでも、直接話すことで共通点を見出せたり、意見が一致することがありました」

生徒会役員合宿の様子

 

役員会で意見の対立があったとき、生徒会長として、どのように対応しましたか?
「自分の意見を強く押し付けることなく、中立的な立場を保ち、対立する意見にも理解を示すことを心がけていました。
とくに、多数決で急いで決定するのではなく、全員が納得するまで議論を続けることを重視していました。意見をぶつけ合い、相互理解を深めた上で妥協点を見つけ、多数決を行う流れを作ることで、より良い決定を目指してきました。いわゆる「熟議」の考え方を重視しました。さまざまな問題点や課題を深く掘り下げ、異なる立場の人々の考えを理解する熟議を通じて最終的な決定を下すことは、政治的にも大切なことです。役員が選挙で選ばれていることを念頭に置き、彼らに投票した有権者に対する敬意を忘れずに、熟議を重んじることを大事にしてきました」

 

1年間の任期を終えて、もっとも苦労したことは何ですか?
「SNS上で言われたさまざまな意見が正直言ってすごく辛かったです。『生徒会ってそもそも必要なの?』というような意見もたくさんありました。役員たちもかなり疲れてしまい、一番大変な時は『もう辞めたい』という役員もおり、ミーティングも重い雰囲気でちょっとピリピリしていた時期もありました。でも諦めずに任期を全うできたことは、みんなにとってすごく大きな経験になったと思いますし、生徒会長としてもとても嬉しかったです」

 

もっとも達成感を感じたことはなんですか?
いろいろありますが個人的には、10月に行われた体育祭です。その前の4月に「磁石祭」という文化祭があって、その時に、どんなイベントをやりたいかって生徒にリアルタイムで投票してもらったんですよ。そこで体育祭をやることに決まったんです。

磁石祭 ひろゆきさんとのディベート

体育館を借りて開催されて、めちゃくちゃ盛り上がりました。通信制高校だから、体を動かす機会がなかなかないんですけど、体育祭ではみんな本当に楽しそうに動いてました。競技はドッジボールや徒競走、リレー、大玉転がしなど、体育祭らしい定番のものがたくさんありました。私は運営側だったので、参加できなかったのはちょっと残念でしたけど、みんなの楽しそうな姿を見ているだけでも、すごくうれしかったです」

 

第二期の生徒会がスタートしていますが、かれらに伝えたいことはなんですか?
「第二期生徒会に伝えたいことが3つあります。
1つ目は、「信なくば立たず」という論語の言葉です。これはすごく大事だと思っていて、生徒会の信頼がなければ何も成り立たないんですよね。最初はみんなから信用されてなかったかもしれないけど、信頼を得るためには日々の行動が重要です。N/S高の生徒会は、生徒だけでなく、教職員や外部の方々とも関わるので、信頼される振る舞いが大切です。
2つ目は、「天下をもって公をなす」というこれも中国の古典の言葉です。これは、政治や生徒会はみんなのためにあるってことを意味しています。生徒会には大きな予算がもっていますが、自分たちがやりたいことに使うのではなくて、みんなのために使うべきです。それが生徒会の本質です。
3つ目は、とくに生徒会長に伝えたいことですが、何があっても動じないこと。先ほど話したように生徒会に批判が集まり、生徒会長としての役割に悩んでいた時、学園外の活動で野田元総理と話す機会がありました。そのときに「リーダーは何があっても動じず、正しいと信じる道を突き進むことが大事だ。」といっていただき、とても励まされました。組織の大将たるリーダーが弱気になってしまうとそのもとで働く人たちは不安になってしまいます。大変な時であるからこそリーダーは動じずに進むべき道筋を示していくことが大事です。2期目以降もいろいろ困難なことがあると思いますが、生徒会長には、この言葉を送りたいと思います」

 

N/S高の生徒数、26000人は、ちょっとした市町村の人口に匹敵します。石井さんは政治家を志されているそうですが、実際の政治や民主主義と比較して、生徒会で学んだことはありますか?
「選挙が終わると、どうしても関心が薄れがちだと感じています。第1期の選挙では1万5269票が集まり、多くの生徒が投票しましたが、その後の意見や関心は減少してしまいました。民主主義では、選挙がすべてのように思われがちですが、選挙後も政治に関心を持ち続けることが大切だと思います。
生徒会では、選挙後に意見箱や公募企画を設けましたが、第三者委員会や有識者会議のようなシステムはまだ整っていません。実際の政治にはそういったシステムがあり、もっと民意を反映させるためには、そういったしくみが必要だと感じています。
参政権を使ったからといって、それで終わりではなく、継続的な関心と意見の表明が大事です。そして政治家は厳しい意見も含め、さまざまな声を聞くことが重要だと思います。これが民主主義の本質だと思っていて、生徒会も実際の政治も同じです」

 

NS高のような基本的にオンラインでつながっているコミュニティで、それがどのように実現されるのか、とても興味があります。
「そうですね、通信制高校ならではの難しさはあります。2万6000人の生徒が世界中に散らばっているため、通常の学校のような生徒総会で意思決定するプロセスが難しいんです。一般的に生徒総会は、生徒数の3分の2の参加で成立するそうです。本校にあてはめると、1万7000人の生徒が参加する必要があります。これは実際にはかなり難しいです。
私個人としては、生徒総会や役員の罷免などの規約を設けたいと思っていましたが、実現するのは困難でした。ただし将来的には、技術的な課題を含めて解決できるのではないかと思います」

 

N/S高の政治部では現役の政治家を招いて、特別講義をおこなっているそうですが、どのような刺激を受けていますか?
「この9月には麻生太郎さんに来ていただき、ほかにも泉健太さんや馬場伸幸さん、玉木雄一郎さんも講義に来てくれました。過去には安倍晋三元首相や菅義偉元首相も来校してくれました。

麻生太郎氏による特別講義

以前は、学校に政治家を招くのはあまり好まれない風潮があったことは知っています。でも、実際に政治家と直接話すことで、テレビで見るイメージとは違う、政治のリアルを感じることができるんです。それが、政治への関心を深めるきっかけになっていると思います。
私は政治部という部活動に所属していて、若者の政治参加や、主権者教育について活動していますが、授業で教わることや教科書に書いてあることだけじゃなく、実際に政治家との対話を通して、政治の現実に触れることはとても面白いし、刺激を受けています。これこそが主権者教育につながるし、若者の投票率向上という点でも、すごく重要な役割を果たしていると感じています」

【了】

インタビュー・構成/篠宮祐介(教育図書編集部)

 

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