主な式典におけるおことば(平成21年)

天皇陛下のおことば

第171回国会開会式
平成21年1月5日(月)(国会議事堂)

本日,第171回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

国会が,永年にわたり,国民生活の安定と向上,世界の平和と繁栄のため,たゆみない努力を続けていることを,うれしく思います。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分に果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

戦傷病者特別援護法制定45周年並びに財団法人日本傷痍軍人会創立55周年記念式典
平成21年1月21日(水)(日本武道館)

本日,戦傷病者特別援護法制定45周年並びに日本傷痍軍人会創立55周年記念式典が行われるに当たり,全国から集まられた皆さんと一堂に会し,深い感慨を覚えます。

一昨日,私どもは,戦傷病者とその家族の労苦を伝える史料館しょうけい館を訪れ,国のために尽くす中,戦火に傷つき,あるいは病に冒された戦傷病者の苦難に改めて深く思いを致しました。皆さんが戦中戦後の厳しい状況から,その後様々に変動を重ねた時代を通し,互いに,また,家族と手を携え,幾多の困難を乗り越えながら,我が国の安寧と繁栄のために貢献してこられたことを,心からねぎらいたく思います。戦傷病者とその家族が歩んできた歴史が,決して忘れられることなく,皆さんの平和を願う思いと共に,将来に語り継がれていくよう切に希望してやみません。

また,この機会に,戦傷病者と苦楽を共にし,援護のための努力をたゆみなく続けてきた関係者に対し,深く感謝の意を表します。

どうか,体を大切にし,励まし助け合って,今後とも元気に過ごされるよう願っております。

財団法人結核予防会創立70周年記念第60回結核予防全国大会
平成21年3月18日(水)(ホテルニューオータニ)

財団法人結核予防会創立70周年記念第60回結核予防全国大会式典に当たり,日ごろ,結核予防事業に尽くされている関係者と一堂に会することを喜ばしく思います。

結核予防会が創立された70年前,結核は国内で著しくまん延し,国民病とも呼ばれていました。その猛威から人々を救うことを使命としてこの会は設立されました。しかし,そのころは特効薬もなく,結核を患っていた人々の不安と苦しみ,医療に従事していた人々の労苦は,今日では想像することも難しいようなものであったと思います。

戦後,ストレプトマイシンを始めとする特効薬の開発やレントゲン検査などの診断技術の普及により,結核をめぐる状況は,急速に改善されました。私自身,かつてストレプトマイシンやヒドラジッドなどの新薬の恩恵に浴したものの一人です。そして,結核予防会を始めとする多くの関係者が,協力して結核予防を推進し,その結果,結核による死者の数は著しく減少しました。また,その過程で培われた経験や知識をいかして,世界の国々の結核対策支援にも尽力してきました。こうした関係者の努力に対し,深く敬意を表します。

しかし,近年,国内において,新しい問題が生じています。患者の高齢化が進み,また,都市部を中心に,若い人々や社会的,経済的に弱い立場にある人々の間で,感染者が目立っています。さらに,治療が難しいとされる多剤耐性結核も見られ,それぞれに適切な対応が求められています。一方,世界においても,結核は,エイズやマラリアと並ぶ深刻な感染症であり,開発途上国を中心として,毎年,多くの人々が亡くなっています。今日,このような結核の現状を認識し,結核予防の重要性に人々が理解を深めることは極めて大切なことと思います。

本大会を契機として,関係者が一層力を合わせ結核予防事業に取り組み,人々の健康のために力を尽くされることを願い,式典に寄せる言葉といたします。

(結核予防会式典に際しての天皇陛下のお言葉についての皇室医務主管補足説明)

本18日開催された財団法人結核予防会創立70周年記念第60回結核予防全国大会式典に際して,天皇陛下は,お言葉の中で,「私自身,かつてストレプトマイシンやヒドラジッドなどの新薬の恩恵に浴したものの一人です。」と述べられましたが,これに関する事実関係は,次の通りです。

昭和28年12月,20歳のお誕生日の直前に,結核の診断がなされ,以後,ストレプトマイシンやヒドラジッドなどの投薬が続けられ,昭和32年9月に至り,ほとんど御治癒との判断がなされました。

国賓 シンガポール大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐
平成21年5月11日(月)(宮殿)

この度,シンガポール共和国大統領ナザン閣下が,令夫人と共に,国賓として我が国を御訪問になりましたことに対し,心から歓迎の意を表します。ここに,今夕を共に過ごしますことを,誠に喜ばしく思います。

私どもは貴国と我が国との外交関係樹立40周年に当たる2006年,国賓として貴国を訪問し,大統領閣下並びに令夫人より手厚いおもてなしを頂きました。本日,再びお目にかかり,3年前の貴国訪問を振り返り,ここに改めて深く感謝の意を表します。

私どもがシンガポールを初めて訪問いたしましたのは,1970年のことで,貴国の独立後間もない時でありました。当時のヨセフ・イスラク大統領御夫妻を訪問し,リー・クァンユー首相御夫妻には晩餐会に招いていただきました。その時,建設途上にあったジュロン工業地帯に日本のソテツの苗を二人で植えましたが,先年貴国を訪れたとき,日本庭園で立派に育っているそのソテツを見ることができたことはうれしいことでした。

私どもは1970年の最初の訪問以来,一泊の立ち寄りを含め,貴国を3回訪れておりますが,貴国が国民のたゆまぬ努力により,時と共に美しく豊かな国に発展してきていることに対し,深い敬意を表するものであります。

我が国が経済連携協定を結んだ最初の国が貴国であったことが示すように,これまで両国は,緊密な友好協力関係を発展させてまいりました。この両国の関係は,政治,経済にとどまらず,国民同士の文化交流を含む幅広いものになっており,また,地域の様々な問題や,地球規模の諸課題について,両国が相携えて対処することが,今日ますます重要になってきております。

今回の御訪問の機会に,こうした両国間の協力関係が,ますます強化されることを願っております。

大統領閣下並びに令夫人には,東京御滞在の後,京都や広島を御訪問になり,我が国の歴史や文化に接していただくと聞いております。幸いに新緑のさわやかな季節でもあります。御滞在が快適で,有意義なものとなりますよう期待しております。

ここに杯を挙げて,大統領閣下並びに令夫人の御健勝とシンガポール国民の幸せを祈ります。

シンガポール大統領閣下のご答辞

横浜開港150周年記念式典
平成21年5月31日(日)(パシフィコ横浜)

横浜開港150周年に当たり,国内外の多数の参加者と共にこの記念式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

我が国は,17世紀半ば近くから200年余にわたり,鎖国政策を続けてきましたが,アメリカのペリー提督の率いる艦隊が開国を求めて来航したことにより,1854年日米和親条約が結ばれ,我が国は開国に向かって歩み始めました。4年後,我が国は,アメリカ,オランダ,ロシア,イギリス,フランスの5か国との間に修好通商条約を結び,横浜はこの条約に基づき,翌年開港されました。開港前の横浜は,戸数百戸ほどの半農半漁の寒村でありましたが,開港後には,先進的な産業や文化を積極的に吸収しようとする人々が日本の各地から移り住み,外国人と接し,様々な知識を得,それを国内各地に伝え,我が国の発展に大きく寄与しました。また開国後の我が国を支えてきた重要な産物,生糸,お茶,蚕種の輸出にも,この横浜港が大きくかかわってきています。この地が我が国のために果たした役割には誠に大きなものがありました。

なお,横浜の開港以来の歴史においては,関東大震災や先の大戦における横浜大空襲など,幾度かの苦難がありましたが,その都度人々が相携えて困難を乗り越え,今日の横浜を築いてきました。こうした過去の歩みに対し,この機会に深く敬意を表します。

今日,我が国は,国際社会の一員として,諸外国と友好関係を深めております。今後とも,関係者の努力により,横浜が,我が国と各国との間の交流を活発化するために,一層大きな役割を果たしていくことを願い,お祝いの言葉といたします。

全国戦没者追悼式
平成21年8月15日(土)(日本武道館)

本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。

終戦以来既に64年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。

ここに歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

更生保護制度施行60周年記念全国大会
平成21年9月8日(火)(東京国際フォーラム)

本日,更生保護制度施行60周年記念全国大会が行われるに当たり,日ごろ,更生保護事業に尽くされている皆さんと一堂に会することを誠に喜ばしく思います。

我が国の更生保護事業は,保護司,更生保護施設,更生保護女性会,BBS会,協力雇用主など,多くの民間篤志家の努力によって支えられてきました。人々が安全に暮らせる社会を目指し,過ちを犯してしまった人々の社会復帰に力を尽くされている皆さんの御苦労には,計り知れないものがあることと察しております。今日,国民が享受している生活は,皆さんのこのような昼夜を分かたぬ献身的な働きがあってのことであることを忘れてはならないと思います。ここに,本日の表彰受賞者を始め,長年にわたって更生保護の仕事に携わってきた多くの関係者に深く敬意を表します。

近年の困難な経済状況や高齢化の進展など,更生保護の仕事に携わる皆さんにも様々な困難があることと思いますが,それぞれの貴重な経験をいかし,力を合わせてこの制度の一層の充実を図り,過ちを犯した人々も社会で有意義な日々を送ることができるよう願い,大会に寄せる言葉といたします。

第172回国会開会式
平成21年9月18日(金)(国会議事堂)

本日,第172回国会の開会式に臨み,衆議院議員総選挙による新議員を迎え,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

ここに,国会が,国権の最高機関として,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,その使命を十分に果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

第173回国会開会式
平成21年10月26日(月)(国会議事堂)

本日,第173回国会の開会式に臨み,全国民を代表する皆さんと一堂に会することは,私の深く喜びとするところであります。

ここに,国会が,当面する内外の諸問題に対処するに当たり,国権の最高機関として,その使命を十分に果たし,国民の信託にこたえることを切に希望します。

天皇陛下御在位20年記念式典
平成21年11月12日(木)(国立劇場)

即位二十年に当たり,政府並びに国の内外の多くの人々から寄せられた祝意に対し,深く感謝します。

今年こんねんは平成生まれの人が成人に達した年で,スポーツその他の分野でも,既に平成生まれの人々の活躍が見られるようになりました。20年という時の流れを思い,深い感慨を覚えます。ここに即位以来の日々を顧み,私どもを,支え続けてくれた国民に心から謝意を表します。

この20年,様々なことがありました。とりわけ平成7年の阪神・淡路大震災を始めとし,地震やそれに伴う津波,噴火,豪雨等,自然災害が幾度にもわたり我が国を襲い,多くの人命が失われたことを忘れることはできません。改めて犠牲者を追悼し,被災した人々の苦労を思い,復興のために尽力してきた地域の人々,それを全国各地より支援した人々の労をねぎらいたく思います。

即位以来,国内各地を訪問することに努め,15年ですべての都道府県を訪れることができました。国と国民の姿を知り,国民と気持ちを分かち合うことを,大切なことであると考えてきました。それぞれの地域で,高齢化を始めとして様々な課題に対応を迫られていることが察せられましたが,訪れた地域はいずれもそれぞれに美しく,容易でない状況の中でも,人々が助け合い,自分たちの住む地域を少しでも向上させようと努力している姿を頼もしく見てきました。これからも,皇后と共に,各地に住む人々の生活に心を寄せていくつもりです。

先の戦争が終わって64年がたち,昨今は国民の4人に3人が戦後生まれの人となりました。この戦争においては,310万人の日本人の命が失われ,また外国人の命も多く失われました。その後の日本の復興は,戦後を支えた人々の計り知れぬ苦労により成し遂げられたものです。今日の日本がこのような大きな犠牲の上に築かれたことを忘れることなく,これを戦後生まれの人々に正しく伝えていくことが,これからの国の歩みにとり,大切なことではないかと考えます。

この20年間に国外で起こったこととして忘れられないのはベルリンの壁の崩壊です。即位の年に起こったこの事件に連なる一連の動きにより,ソビエト連邦からロシアを含む15か国が独立し,それまでは外部からうかがい知ることのできなかったこれらの地域の実情や歴史的事実が明らかになりました。より透明な世界が築かれていくことに深い喜びを持ったことが思い起こされます。しかし,その後の世界は人々の待ち望んだような平和なものとはならず,今も各地域で紛争が絶えず,多くの人命が失われているのは誠に残念なことです。世界の人々が,共に平和と繁栄を享受できるようになることを目指して,すべての国が協力して努力を積み重ねることが大切であると思います。

今日,我が国は様々な課題に直面しています。このような中で,人々が互いにきずなを大切にし,叡智えいち)を結集し,相携えて努力することにより,忍耐強く困難を克服していけるよう切に願っています。

平成2年の即位礼の日は,穏やかな天候に恵まれ,式後,赤坂御所に戻るころ,午後の日差しが,国会議事堂を美しくあかね色に染めていた光景を思い出します。あの日沿道で受けた国民の祝福は,この長い年月ねんげつ,常に私どもの支えでした。即位二十年に当たり,これまで多くの人々から寄せられた様々な善意を顧み,改めて自分の在り方と務めに思いを致します。

ここに,今日の式典をこのように催されたことに対し,厚く感謝の意を表し,国の繁栄と国民の幸せを祈ります。

国立障害者リハビリテーションセンター及び国立職業リハビリテーションセンター創立30周年記念式典
平成21年12月7日(月)(国立障害者リハビリテーションセンター)

国立障害者リハビリテーションセンター並びに国立職業リハビリテーションセンター創立30周年に当たり,関係者一同と共に,記念式典に臨むことを誠に喜ばしく思います。

この2つのセンターは,30年前,身体に障害のある人々が社会の一員として自立できるよう,医療から職業訓練,就労支援までを一貫して行うことを目的として設立されました。近年は,身体の障害に限らず,広く障害のある人々を受け入れる施設として,様々な新しい試みにも取り組んでいると聞いております。障害者の自立と社会参加のために力を尽くしてきたセンター職員を始め,多くの関係者のたゆみない努力に対し,ここに深く敬意を表します。

30年間に両センターを利用した人々の数は1万人を超え,就職している人々もかなりの数に達していると聞いています。経済情勢が厳しい状況にある今日,ここを巣立った人々のことが案じられますが,それぞれセンターでの様々な経験をいかし,幸せな日々を過ごされるよう祈っています。

今日,障害者に対する国民の理解と関心はますます深まってきており,障害者が社会で意欲的に活動できる環境をつくるよう多くの人々が尽力していることを非常に心強く思っています。科学技術の著しい進歩は障害者に対する医療を充実させ,障害者の活動の領域を広げることに大きく貢献しています。様々な分野の人々が協力して研究開発にいそしみ,障害者の福祉の向上と社会参加に資するよう期待しています。

創立30周年を迎えた両センターが,ますます高齢化する社会への対応を念頭に置き,それぞれの機能を一層充実させ,我が国において大きな役割を果たしていくことを願い,お祝いの言葉といたします。