2020年10月20日、米司法省は、米11州の司法当局と共同してワシントンDC連邦地方裁判所に、グーグル社をシャーマン法違反を理由として提訴した。訴状は、グーグル社が、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場における独占事業者であり、同社の行為が、シャーマン法第2条に違反して独占を維持したと訴えている。
EUでは、2018年7月18日に欧州委員会が、グーグル社のアンドロイドOSに関するビジネスモデル(本件訴訟と共通ないし類似する部分がある)に対して違反決定を下し、巨額の制裁金を課している。欧州委員会の違反決定書は、同社が、アンドロイドOS市場、アンドロイドのアプリ・ストア市場、一般検索サービス市場において、独占事業者であり、グーグルの複数の行為が、欧州連合運営条約第102条に違反して支配的地位の濫用を構成し、一般検索サービス市場における同社の支配的地位を維持・強化するものであると認定した。
EU決定では、アップル社のiOSを別市場であるとして視野外に置き、もっぱらアンドロイドOS市場における支配性を認定して、抱き合わせの要件に基づいて違反決定を下した。対して、米司法省の訴えは、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場を市場画定することによって、アップル社との協定を含む、グーグル社が事業者らと結ぶ諸協定が、同社のライバルとなる検索エンジンが参入する機会を否定したこと、ライバルとなる検索エンジンが広告によって収益を獲得する機会を否定したことを違反行為としている。米司法省は、アップル社のiOS端末においてもグーグル検索が独占的にプリインストールされていたことを違反の構成事実としているが、この点は、EU決定ではiOSを除いて市場を画定したため争点とされておらず、米司法省による訴えとEU決定とを比較するうえでの大きな相違点であると指摘することができる。
裁判は提訴後2年半を経た現在(2023年9月)も繋属中であり、判決には至っていない。したがって、訴状掲記の各行為は認定されたわけではなく、あくまで原告(米司法省)側の主張事実であるのにとどまる。本稿では、グーグル社のどのような行為が訴因として主張されているのかを訴状に沿って概観し、それに即して本件訴訟に係る反競争行為に関する論点を整理することとしたい。
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