記憶は一時的な情報の保持を担っている短期記憶
と,より長い期間にわたる情報の保持を担っている長期
記憶
に大別することができる。日々の生活において
記憶
を利用する際には短期
記憶と長期記憶
の情報を統合・処理しており,この過程を経ることによって状況に則した意思決定を行っている。
先行研究は短期
記憶や長期記憶
の性質を個別に調べたものが殆どであり,短期
記憶と長期記憶
の相互作用を検討したものは見当たらない。そこで我々は短期
記憶課題と長期記憶
課題,条件弁別課題の3つの課題を1頭のサルに訓練した。本研究ではブロックデザインを用いた。6つの視覚刺激を用い,2つの刺激セットに3つずつ分けた。刺激セット1は短期
記憶
課題1と長期
記憶
課題に,刺激セット2は短期
記憶
課題2と条件弁別課題に使用した。短期
記憶
課題1・2は遅延見本合わせ課題であり,1~1.5秒前に提示された視覚刺激を覚えておく必要がある。長期
記憶
課題は視覚刺激の組み合わせにより刺激間の優劣関係が決まっており,見本視覚刺激は提示されない。条件弁別課題は長期
記憶
課題とは異なり,ブロック内では視覚刺激の組み合わせ1つのみが提示され視覚刺激間の優劣関係は不変であるが,ブロックが変わると同じ視覚刺激の組み合わせでも視覚刺激間の優劣関係が変わる。短期
記憶課題と長期記憶
課題で提示される視覚刺激は試行ごとに無作為に決定され,条件弁別課題で提示される視覚刺激の組み合わせと優劣関係はブロックごとに無作為に決定される。
サルにこれらの課題を行わせた結果,学習過程における短期
記憶
課題1の視覚刺激選好性と長期
記憶
課題の視覚刺激選好性の推移は非常によく一致していた。一方で短期
記憶
課題1と短期
記憶
課題2の視覚刺激選好性の推移は全く異なっていた。短期
記憶
課題1と長期
記憶
課題の使用視覚刺激は同一であることから,今回の結果は短期
記憶と長期記憶
の相互作用が起こっていることを示唆している。
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