1.はじめに 無人航空機(UAV)は,自然環境調査,災害対応,各種産業などの多様な分野で利用可能性が高まっている.近年は,革新的な機能を持った無人航空機が次々と登場し,その喧伝を見ていると,
操縦
者(あるいは利用者,以下まとめて
操縦
者とよぶ)は,あたかも特別な努力なしに,無人航空機を利用し,その成果を得られるような錯覚すら覚える.しかしながら,ここであらためて指摘するまでもなく,無人航空機が如何に高性能化しようとも墜落する可能性はあり,最終的な危険回避の操作は
操縦
者の判断に委ねられる.この点では,どの分野で無人航空機を利用する場合でも同様である.運航中の事故を避け,安全運航を維持し,社会における信頼を高めるための努力は,これからの無人航空機の活用普及や発展の基盤として必要不可欠である.そして,これを実現するためには,
操縦
者に対する
操縦
訓練をはじめとした、適切な教育体系を提供する必要がある.なお,本稿では現時点で無人航空機の代名詞的な存在となっているマルチコプター機の
操縦
を対象に検討を進める. 2.基礎的な
操縦
技術の獲得と維持の必要性 著者の経験から,新規に無人航空機の導入を検討している方の多くが,「どの機体を購入するか」という視点のみで進めている例が多いと感じる.しかし、実際に運航を行っていくには,何よりもまず基礎的な
操縦
技能の獲得が必要である.このためには,広くて安全で,航空法に抵触しない
操縦
練習場所の継続的な確保,保険の加入,運航体制(事故時の連絡体制)の構築,使用者が複数の場合は運航ルールの制定など,機体を購入することよりもはるかに重要な課題が山積しており、まずはこれらの解決に目処をつける必要である.無人航空機の導入は,ちょっとした一大事業と考えるのがよい. 無人航空機を安全に運航するには,言うでもなく,「細心の注意を払い,安全を心がけて利用しましょう」といった具体性に欠ける合言葉だけでは不十分である.運航中に墜落させないこと,緊急時に安全に不時着させること,事故を起こさないことを前提とした
操縦技能と関連知識を操縦
者が獲得し,維持できるようにするための仕組みづくりが必要となる.具体的には,基礎的な
操縦
訓練課目の設定と訓練方法,機体の整備点検の方法,組織としての運航管理など,安全運航の総体的な体制構築に関する具体的な方法について,ノウハウを明文化し,不足している部分は開発し,これらの情報を共有し,
操縦
者に対して広く実践・教育していくことが必要であると考える.さらに,現在の急速な無人航空機の普及に対して,無人航空機に関する知識・技術の普及,および教育機会の提供が追いついていないように感じられる.学習意欲のある良心的な
操縦
者が,身近に良い師がいない場合でも,安全な運航を行うために必要な基本
操縦
技術を,独学で学ぶことができる環境の提供も急務であるといえる. 3.直近の目的と最終的なゴール 本取り組みでは,筆者の試案による無人航空機の基本
操縦
訓練課目について,
操縦経験がゼロの被験者数名に対して継続的に操縦
訓練を実施し,最終的には各被験者が独力で業務での運航ができるまでの
操縦
技能の獲得を目指す.その過程で,技能の向上の度合いや,
操縦
に対する自信,不安要素などをヒアリングする.さらに,強風や障害物への接近,バッテリー電圧低下などの,様々な緊急操作を必要とするシチュエーションを用意し,対処能力を高める訓練を実施する訓練も行いたい.直近の目的は,これらの取り組みを通して,無人航空機の基本
操縦
訓練に必要な課目を精査し,訓練体系を作り上げていくことである.最終的なゴールとしては,無人航空機の運航に必要な基礎
操縦
技能,および運航に関する知識も含めて,誰もが,どこでも,系統的に学習し,技能を維持することができる体系を構築することを目指したい. そのようにして得られたノウハウは,例えばCC by 4.0国際のようなライセンスで社会的に共有し,無人航空機の安全運航の基盤づくりと,安全文化の醸成に貢献していきたい. 参考文献 ・内山庄一郎(2015)小型無人機の航空安全を目指した運用の実践:第3回高解像度地形情報シンポジウム.1-91. http://topography.csis.u-tokyo.ac.jp/odsm/ ・国土交通省 東北地方整備局 東北技術事務所(2016) UAV安全飛行技術資料【運航前点検編】(暫定版) http://www.thr.mlit.go.jp/tougi/kensetsu/hozen/uav.html
抄録全体を表示