【多職種連携教育とファシリテーター】
医療と福祉が融合し、患者のニーズが多様化している現在、理学療法を含む医療職には
専門職
としての専門性に加え、他の職種との連携を構築できる能力が求められている.学校内で実施される多職種連携教育(Interprofessional Education: IPE)は、若い学年を対象とし机上の演習を中心にしたものから、臨床実習を経験した学年を対象とし実際の症例あるいは模擬症例を扱うものまで、学年(カリキュラム)の進行に応じていくつかのステージに分かれるが、このいずれのステージにあっても、IPEの成功の鍵はファシリテーターの存在にあるといえる.
【ファシリテーターの役割】
学校内で実施されるIPEでは、教員がファシリテーターとしての任を担うことが多い.これはそれぞれの教員が有する専門教育においての「指導力」を連携教育へそのまま流用できるという楽観的な希望に基づいている.しかし、多職種の学生からなるグループでの集団力学は同じ学科の学生からなるグループよりもさらに複雑で、またカリキュラムの進行によっても変化する.このような特徴をもつグループにおけるファシリテーターには、特定の専門の知識を授けるための「指導力」とは異なる能力が要求され、教員が機能するファシリテーターとなるためには事前の十分なトレーニングが必要となる.
【ファシリテーターの育成とサポート】
我が国に先行する英国では、ファシリテーターとして、教員の範囲を超えて、臨床現場での指導者や地域の開業医、さらには医学のバックグラウンドを持たない教育者や大学院生などが採用されているケースもみられる.さらに、数校にわたる大規模なIPEを実施しているいくつかの大学では、そのファシリテーター達は広い地域に散らばっており、情報共有の障害が起こりやすい.
このような状況でもファシリテーターとして機能を維持するために、既にフィールドにて活動しているファシリテーターへの情報提供やサポートのためのインターネットテクノロジーを活用したシステムや、経験の少ないファシリテーターのためのファシリテーターともいうべき育成システムをつくるなどさまざまな試みがなされている.
【先行する英国での情報収集】
現在、本大学では選択科目として八学科の最終学年の学生からなる小グループをつくり、「総合ゼミ」という形で、学内での連携教育の最終段階を実施しているが、さらに近い将来に学生全員が参加する必修科目へと変更する計画を持っている.その実現のためには連携教育のファシリテーターの育成が、その数と能力の両面で必要条件となっている.2008年12月に、特にファシリテーターの育成と支持のシステムの理解を目的として、多職種連携教育の経験の深い英国の大学数校を訪問する.本学会では、この報告とともに日本の医療職におけるファシリテータ育成システムについて議論を深めたい.
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