【背景と目的】
次期学習指導要領(2022年より実施)高等学校「家庭基礎」の内容に「消費者の権利と責任を自覚して行動できるよう消費生活の現状と課題、消費行動における意思決定や契約の重要性、消費者保護の仕組みについて理解するとともに、生活情報を適切に収集・整理できること」と記されており、教育内容の主な改善事項として「多様な契約、消費者の権利と責任、消費者保護の仕組み(公民、家庭) 」といった消費者教育の充実があげられている。
悪質
商法
はIT技術の進歩なども相まって新しい手口も次々と発生して多様化している。悪質
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による被害を防ぐためにも、一人ひとりが知識を身につけるだけではなく、「怪しい」と気づく感覚を養う必要があると考える。そこで、生徒自身が「だます側」の視点に立ってシナリオを自作するロールプレイの手法を取り入れた実践を計画し授業を行った。
本研究は、ロールプレイのシナリオ作成を通してだます側の心理を理解する活動を行うことで悪質
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に気づく感覚を養うとができたか、またシナリオ作成や発表の過程が能動的な学習として機能したかについて、有効性を明らかにすることを目的とした。
【実践】
2016年11月に大阪府内の公立高校(総合学科)の家庭基礎の授業(1年次必修科目・7クラス)において、生徒自身がシナリオを自作する悪質
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に関するロールプレイの実践を3時間行った。
(1時間目)…概要の説明とチーム分け
(2時間目)…「自分たちがだまされそうな設定」の検討とシナリ
オ作成
(3時間目)…ロールプレイ発表会と学習のまとめ
【調査】
実践前には事前アンケートを行い、(1)悪質
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に関する予備知識 (2)本人や身近な人の悪質
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被害の有無 (3)自分自身が今後悪質
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の被害に遭うと思うか (4)家庭科の授業やグループ活動についての意識 について調査した。
実践後には事後アンケートを行い、(1)学習した上で、自分自身が今後悪質
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の被害に遭うか (2)ロールプレイを取り入れた授業の感想 について調査した。
また、ロールプレイにおける設定や発表内容についてビデオ撮影を行い、シナリオを回収してデータとして収集した。
【結果】
「あなたは今後、悪質
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の被害にあうと思いますか? 」という設問を事前、事後両方のアンケートで問うたところ、「わからない」の選択肢を選んだ者が59%から48%に減少した。この結果は、学習を通してリアルな場面を学ぶことで自分のこととして考えることができた証であると考えられる。自由記述欄では「悪質
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なんかにだまされないと思っていたけれど、ちょっとの金額だとつい買ってしまいそうだと思った」「発表を見て、だまされているという感じがしなくて怖かった」などの記述がみられた。また、「グループで相談することによって発表内容が良くなったか?」「悪質
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の手口を理解することができたか?」「この授業は楽しかったですか?」という設問では肯定的な回答が多くみられた。生徒が能動的に学習に取組から悪質
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に対する知識を習得するだけではなく、どのようなプロセスで被害に遭うかという感覚についても養うことができたのではないかと考える。
【引用文献】
文部科学省.(2018).高等学校学習指導要領
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