本稿では、史料に基づきながら、中国における工業設計行政の始まりとみられる「中国工業美術協会」の設立経緯を整理・考察した。協会設立の社会的・時代的背景、経済的背景と照らし合わせながら、1970年代後半における中国の工業設計の事情を考察した。それらは次のように要約される。(1)中国の工業設計行政は、1978年の「中国工業美術協会」の設立を契機に始まっている。「工業設計」は「工業美術」の概念として把握され、〓小平が提唱する「改革開放」と軌を一にして展開された。(2)当時の活動のほとんどは、中央政府「軽工業部」の指導のもとで行われた。(3)設立後の約10年間は、イベントなどの開催は特段行われることなく、「大会」形式で、主に組織の結成に精力が注がれた。関連業界、関係政府部署などでは工業設計に関する一定程度の意識共有がなされていたが、工業設計振興の方向は一途に先進諸国の模倣の域を出るものではなかった。(4)しかしながら、「中国工業美術協会」の創設はその後の中国における工業設計行政の始点であり、その歴史的意義は計り知れない。
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