水素は, アンモニア合成, メタノール合成, 石油化学などの多くの工業プロセスで使用される重要な製品である。現在の米国および世界での水素の消費量はそれぞれ250億 kcal および4,030億 kcal である。エネルギー分野においては, 現在のところ水素はそれほど重要な役割を果たしていないが, 今後は石油精製工業や合成燃料の製造などにおける水素の間接的利用, また燃料電池などにおける水素の直接的利用によりその需要は急速に増大するものと予想される。このようなエネルギー分野での水素の需要の伸びにより, 次の45年間にわたる全世界の水素の需要は15~20倍に増加するものと予測される。現在, 水素はほとんど天然ガスやナフサなどの水蒸気改質により製造されているが, 天然ガスや石油の価格が将来高騰すると予想されるので, 将来の水素需要は石炭のガス化によってまかなわれると予想される。
炭化水素の水蒸気改質法では,
Fig. 1に示した工程により97~98%純度の水素が得られ, また,
Fig. 2のように圧力切換吸着 (Pressure Swing Adsorption; PSA) を採用すると99.99%純度の水素が安価に得られる。
次に,
テキサコ
法石炭ガス化プロセス (TCGP) による石炭からの水素製造工程を以下に説明する。
Figs. 3, 4に二つの異なった型のガス化炉を示してあり,
Figs. 5, 6にはそれぞれのガス化炉を用いた水素製造の全工程を示してある。原料石炭は粉砕し, 水と混合して石炭スラリーとする。スラリーは耐火レンガ張りの反応器に送入され, ここで水素と一酸化炭素に富んだ合成ガスを生成する。
Fig. 3のガス化炉は放射廃熱ボイラーによる部分熱回収を行う方式であり,
Fig. 4のガス化炉は水による急冷を直接行う方式である。ガス化炉からの高温(1,370°F) の合成ガスは高圧スチーム (
Fig. 5), あるいは低圧スチーム(
Fig. 6) の発生により冷却され, その後カーボンスクラバーで粒子状物質を除かれさらに精製部門に送られる。熱および水を除去した後の合成ガスの組成は
Table 1に示す通りである。ガス化炉からの高温スラグは冷却された後, ロックホッパーシステムを通って除去される。粒子状物質除去後の合成ガスは, その中のCOを水性ガスシフト反応によりCO
2とH
2に変換される。シフト反応後のガス中のCO
2とH
2Sは酸性ガス除去プロセスにより除去され, さらにPSA法により精製される。
Figs. 5, 6に示した二つの異なった冷却方式は, ガス化炉周辺の熱回収の最適化を検討するために, 熱効率, 装置コスト, 運転コスト, 水蒸気/乾ガス比の調整の必要性を考慮して選択した。
Fig. 5の方式では, 放射廃熱ボイラーにより高圧スチームを発生し, 次いでシフト反応部の下方で低圧スチームを発生する。
Fig. 6の方式では, 放射ボイラーを使用せず低圧スチームの形でのみ熱除去される。前者の方が熱効率は高いが, 放射ボイラーが高価であるため後者の方が低コストである。二つの方式を使用した場合のガス化炉およびシフト反応部の周辺の全水蒸気収支 (
Table 2) からわかるように, 放射ボイラーによる冷却方式ではかなりの量の高圧スチーム (20.3kg/cm
2) が発生し, これはプロセスタービンやタービン発電機を運転するのに使用できる。一方, 完全急冷方式では低圧スチームだけを発生するが, この低圧スチームの有効利用と同時に高い熱効率を達成するためには, 低圧水蒸気タービンおよびタービン発電機を使用する必要がある。高馬力範囲で使われている低圧タービンの例は
Table 3に示してある。石炭のガス化に適用するのに適した定格馬力での高圧タービンおよび低圧タービンを比較すると (
Table 4), 低圧タービンは高圧タービンに比べて蒸気消費量が大きく熱効率が低いことがわかる。
Table 5では, 放射ボイラーと高圧タービンを使用する方式および完全急冷方式と低圧タービンを使用する方式のコストおよび発生電力を比較しているが, これから後者の方が約1億5,000万ドル低コストであることがわかる。
最後に, 9,680 MTPDの石炭を30.7MMKg•cal/day(10.6MMSCMD) の水素に変換するための基本のTCGP構成単位を使用した商業規模の水素製造プラントを設計して, 石炭ガス化による水素製造の経済的可能性を検討した。プラントは,
Fig. 4に示したような完全急冷方式のガス化炉10基とすべての補助付帯システム, さらに装置の運転に必要な用役を含めた総合設備であり, また, それ自身の電力を発生することもでき, 排水処理施設も備えている。
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