反芻動物の血糖維持機構におけるグルココルチコイド (GC) の役割を明らかにするために, 副腎摘出 (ADX) ヒツジを用いて飼料給与条件下および絶食条件下での実験を行なった. まず, 実験1ではADXによる術後の影響を除くために, ADX後3カ月以上経過した個体を用い, GCを投与したGC処理ADX群と無処理ADX群に分け, 血糖値を経日的に調べてみた. つぎに, 実験2では絶食条件下において正常群, GC処理ADX群および無処理ADX群の3群間で血糖値を比較した. さらに, 実験3では絶食条件下で低血糖症状を示したADXヒツジに対するグルコースおよびGC投与の効果について検討した. 1) 飼料給与条件下では, 無処理ADX群の血糖値はGC処理ADX群の90%の値を維持した. 2) 絶食条件下では無処理ADX群の血糖値は絶食3日目に絶食前値の半分近くの水準である31±4mg/100m
lに低下した. 一方, GC処理ADX群および正常群では, 絶食3日目の血糖値がそれぞれ55±3mg/100m
lおよび49±3mg/100m
lであり, 両群とも絶食前値の80%以上の水準を維持した. 13頭の無処理ADX群は絶食15日目までにすべて低血糖症状を示し, そのうち1頭は低血糖による昏睡死をした. 一方, GC処理ADX群および正常群では絶食期間中, 低血糖症状を示す個体は観察されなかった. 3) 絶食条件下で低血糖症状を示したADXヒツジでは, グルコース補給によって急激かつ明瞭に低血糖症状からの回復が認められたが, その後再び低血糖症状を示した. 一方, これらADXヒツジへのGC投与は, 血糖値の持続的上昇と低血糖症状からの回復に効果があった. 以上の結果から, グルココルチコイドは絶食条件下におけるヒツジの血糖維持に必須の要因であることが明らかになった.
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