霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: P10
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ポスター発表
類人猿にも妊娠出産痕があるのか~類人猿における骨盤の耳状面前溝~
*久世 濃子*五十嵐 由里子
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抄録

ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。妊娠時に仙腸関節をつなぐ靭帯がゆるみ、出産時に軟骨が破壊されることで、妊娠出産経験のある女性で特徴的な圧痕が形成される、と言われている。直立二足歩行に適応して骨盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒトは難産になった、と言われている。妊娠出産痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女性特有の形態的特徴であると考えられてきた。しかし、妊娠出産痕と異なるタイプの圧痕は、男性や未経産の女性でも見られ、その形成要因は明らかではない。またヒト以外での種で、耳状面前下部に圧痕があるかどうかを確かめた報告はない。そこで本研究では、圧痕がヒトに特有な形質なのか否かを明らかにし、圧痕の形成要因について新たな知見を得ることを目的とした。博物館等に収蔵されていた動物園由来で妊娠出産等の履歴がわかる大型類人猿3属(ゴリラ:7個体、チンパンジー:15個体、オランウータン:10個体、合計33個体)の耳状面前下部を観察し、圧痕の有無や、その形状を調べた。その結果、ゴリラとチンパンジーの雌雄で、耳状面前下部に圧痕がある個体が観察され、特にゴリラでの溝の出現頻度は71%と高かった(チンパンジー40%、オランウータン20%)。またゴリラの経産雌1個体とチンパンジーの経産雌3個体で、ヒトの妊娠出産痕に近い、不規則な形の圧痕が観察された。以上より、耳状面前下部の圧痕はヒト特有のものではなく、大型類人猿に共有される形質であることが初めて明らかになった。大きな体で体幹を垂直にした姿勢をとることが多い、大型類人猿の形態や運動様式が、骨盤に負荷をかけることで圧痕が生じている可能性がある。今後はさらにサンプル数を増やし、圧痕の形成要因等について考察を深めることを計画している。

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© 2014 日本霊長類学会
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