Ubuntuがクラウドパワーを獲得――「Eucalyptus」採用Amazon EC2のライバル登場

UbuntuはEucalyptusの採用で多数のクラウド構築機能を提供する“クラウド自作キット”となる。

» 2009年07月27日 16時35分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 米国立科学財団の支援を受け、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の大学院生が中心となって開発したプロジェクトからEucalyptus Systemsというベンチャー企業が誕生した。設立されてまだ3カ月の同社が開発したオープンソースの新しいクラウドインフラソフトウェアは、Ubuntu 9.04および次期エディションのUbuntu 9.10の重要なコンポーネントとして採用されることになった。

 Ubuntuは、Debian Linuxをベースとする人気の高いオープンソースOS。英Canonicalの創業者で開発者のマーク・シャトルワース氏によって開発された同OSは、企業のITシステムでの利用が拡大している。Eucalyptus Systemsが開発した「Eucalyptus」は、オンプレミス(社内保有)型のプライベートクラウドやハイブリッドクラウドを開発するためのオープンソースソフトウェアプラットフォームで、既存システムのハードウェア/ソフトウェアインフラをそのまま利用できるという。

 全体的な関係が少し分かりにくいので、個々の項目に分けて説明しよう。

  • Ubuntu 9.10は「Karmic Koala」というニックネームで呼ばれ(Ubuntuのリリースにはすべて動物の名前が付けられる)、現在αテスト中。今年10月に最終版がリリースされる予定だ。
  • Karmic Koalaは、Ubuntuの新しいクラウド構築用パッケージ「Ubuntu Enterprise Cloud」(UEC)用のOSで、同パッケージにはEucalyptusが含まれる。
  • Canonicalは、「Jaunty Jackalope」と呼ばれる現行版のUbuntu 9.04に対応したUECのプレビュー版を4月にリリースした。
  • CanonicalはUbuntu開発全体を指揮しており、そのオープンソースコミュニティーがすべてのUbuntu製品のメンテナーとなっている。

 以上でご理解いただけただろうか。

 EucalyptusはUbuntuに重要な新機能(エンドユーザーによるカスタマイズ機能、セルフサービス型プロビジョニング、レガシーアプリケーションのサポートなど)を追加するほか、データセンター仮想化機能を備える。また、電源コンセントからの不要な電力供給を抑制する自動電力制御機能も提供する。

 このように多数のクラウド構築機能を提供するLinuxディストリビューションはUbuntuが最初だ。これはかつてなく“クラウド自作キット”に近い製品だといえる。

 「Eucalyptusは、わずか2、3分で自社のサーバにインストールできる。そのAPIはAmazon EC2によく似ている」――Eucalyptus Systemsの共同創業者でCTO(最高技術責任者)を務めるUCSBのコンピュータ科学担当教授リッチ・ウォルスキー氏は、カリフォルニア州サンノゼで開催された「OSCON 2009」カンファレンスの休憩時間に行われた米eWEEKの取材でこのように語った。

 このため、EucalyptusにAmazonのWeb Services API(EC2、S3、EBS)が含まれ、XenサーバとKVM(カーネルベースの仮想マシン)サーバのサポートが組み込まれているのも驚くことではない。「6つのステップでクラウドシステムを構築することができる」とウォルスキー氏は話す。

 言い換えれば、既存のAmazon EC2開発環境を利用した経験があるクラウドコンピューティング開発者は、その気になればEucalyptusに容易に移行できるということだ。

 大規模システムでのEucalyptusの利用例としては、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のプロジェクトがある。同研究所では現在、コンピューティングとストレージの能力を刷新するためにEucalyptusの導入を進めている。製薬大手のEli Lillyも早期導入企業の1社であり、同社では新しいコンピューティングおよびストレージ向けクラウドの構築にEucalyptusを利用している。

研究プロジェクトから生まれた新企業

 ウォルスキー氏とウッディー・ロリンズCEOは、Benchmark CapitalとBV CapitalからシリーズAファンドとして550万ドルの資金を確保した直後の4月にEucalyptus Systemsを設立した。Eucalyptusソフトウェアは、膨大な科学計算処理を実行するために、パブリッククラウドサービスを利用して国立科学財団の2台のスーパーコンピュータをリンクするための研究プロジェクトの一環として開発された。

 Canonicalでクラウド戦略の責任者を務めるサイモン・ウォードリー氏は7月23日、OSCONでの基調講演で「企業はUbuntuとEucalyptusのようなセルフサービス型ITインフラを利用してプライベートクラウドを構築することにより、サーバ利用の最適化、データセンターの効率改善、電力・冷却・ストレージコストの削減を実現できる」と述べた。

 「Ubuntuはこのようなシステムを提供する最初のLinuxディストリビューションであり、Ubuntu Enterprise Cloud Servicesは企業がこのような環境を構築し、最大限の効率を実現するのに役立つ」(ウォードリー氏)

 Canonicalでは、Eucalyptusを使えばプライベート型社内クラウドの配備とテストを行うことができるため、EucalyptusはAmazonのEC2(Elastic Compute Cloud)APIと直接競合するという事実を認めている。

 シャトルワース氏は、Ubuntuユーザーのメーリングリストに投稿したKarmic Koalaの説明の中で「Eucalyptusプロジェクトは、企業が自社のデータセンターのハードウェア上でEC2スタイルのクラウドを構築することを可能にする。Karmic Koalaリリースでは、これらのクラウドが活躍し、ユーザーのニーズに応じてリソース割り当てを動的に拡大・縮小できるようになる」と述べている。

 「賢いKoalaは、エネルギーを節約する最善の方法はスリープすることだと知っており、最近ではサーバもサスペンドとレジュームが可能になっている。真昼の熱気が漂う時間帯にはスリープさせることによってサーバのエネルギー消費をほぼゼロに抑え、処理すべき仕事があるときにはスリープから復帰させる機能を備えたクラウドコンピューティング環境を構築できれば、素晴らしいのではないだろうか」とシャトルワース氏は記している。

 「仕事が何もないときにエネルギーを消費する必要はない。このような機能をきちんと実現できれば、Koalaは景気回復にも貢献するだろう」(同氏)

 Eucalyptusの詳細はこちら。Ubuntuの詳細はこちらだ。

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