【シリーズ富士そばの秘密:第1回】お店によって麺が違うって本当ですか?【東京ソバット団】
マニアな人は置いといて、立ち食いそばと聞いて頭に思い浮かべるのは、やっぱり「名代富士そば」でしょう。1970年代の前半から立ち食いそばのチェーン展開を図り、現在の店舗数は122店(海外含む・2016年7月現在)。たいていの駅近くにあるうえ24時間営業のため、一度は食べたことがある人が、ほとんどなのではないでしょうか。
そんな立ち食いそば界の一大メジャーな「名代富士そば」には、これまで多くの噂がささやかれてきました。いわく「24時間営業だから夜中はツユが美味しくない」「実は麺が数種類、存在する」「チェーンなのに店オリジナルのメニューがある」「系列のグループが細かく分かれていて、仲が悪いグループがある」などなど。
今回はそんなさまざまな疑問をぶつけるべく、富士そばグループを統括するダイタンホールディングス株式会社に取材を試みました!
いや~、いざ取材をしてみたら、
面白い話が出てくる出てくる。
というわけで、「シリーズ富士そばの秘密編」は全3回に分けて紹介します。とくとご覧ください。
まず我々がうかがったのは、東京・代々木にあるダイタンホールディングス株式会社。昨年、こちらのオフィスに移ったんですが、それを機にそれまでバラバラにオフィスを構えていた各グループを、ここに集結させたんだとか。
ちなみに7つある店舗経営のグループは以下のとおり。
- ダイタンフード株式会社
- ダイタン企画株式会社
- ダイタン食品株式会社
- 池袋ダイタンフード株式会社
- ダイタンイート株式会社
- ダイタンミール株式会社
- ダイタンキッチン株式会社
それぞれが時に競い合い、時に協力しあって経営しているとのこと。どのお店がどのグループに属しているかは、「富士そば」のホームページに載っているので、興味のある方はどうぞ。
さて、普段の生活とは縁遠いキレイなオフィスにキョドり気味な我々を迎えてくれたのは、池袋ダイタンフード株式会社常務取締役の木村正志さん。
そしてダイタンホールディングス株式会社フィリピン統括マネージャーの工藤寛顕さんのお2人です。よろしくお願いします!
──まずお聞きしたいのが、なぜに7つのグループに分かれているのか、ということなんですが。
もともとはそれぞれが競合し、切磋琢磨できるよう分社したんです。ただ近年は会社の規模も大きくなったので「名代富士そば」のブランドとしての軸を強化するために、それぞれの運営会社を、ここ代々木に集結させたんです。
──経営上の理由から、分けていたんですね。ちなみにグループ同士で敵対しているなんてことは……?
各社独立採算なんで、ライバル意識はあると思いますよ。あと、店舗物件を探してきた人間がそこを運営するというスタイルをとっているんで、例えば渋谷ですぐ近くにある2つの店が、違うグループだということはよくあります。
熱く説明している木村常務。後ろには「名代富士そばの心訓と心条」が……。
──「エリアでグループが分かれているんじゃないんですか?」
違うんですよ。池袋ダイタンフードだからといって、全部、池袋にあるわけじゃないんです。
昔は今よりライバル心は強かったみたいですね。近くの店舗より安い値段で提供していたところもありましたし。
──バチバチの時代もあったんですね!
代々木に集結したことで情報共有も楽になりましたし、スピーディになりましたね。新メニューも共有できますし。
なるほど。店舗ごとのオリジナルメニューが多いのは、それぞれ競合していたからなんですね。納得。
──では次に、麺が複数種類、存在するということは、本当なのでしょうか?
麺は2種類ありますよ。興和物産さんと紀州屋製麺さんのものです。
──2種類ですか! なぜ1つにしないんですか?
大きい理由はリスク回避ですね。1箇所だけにお願いしていると、なにかトラブルがあった時に、手に入らなくなる可能性もありますから。これは削り節もお米も野菜も同じです。複数から仕入れるようにしています。
──「そばの違いはあるんですか?」
どちらもそば粉の配合は同じで、富士そばオリジナルの麺なんですが、比べると色、太さ、なめらかさが若干、違いますね。使っている機械と製造工程の違いで、変わってくるようです。ただ、ほとんどわからないと思いますよ。
むむむ、麺が違うというのは本当でした。
しかし、ほとんどわからないと言われると、違いを確かめたくなってしまうのがそば食いの性。さっそく食べ比べの試食会をお願いしたところ、快くオーケーをいただけたので、ここからはその試食会の模様をレポートします!
「富士そばの麺は2種類」 の噂は本当だった!
ある晴れた夏の日、やってきたのは「名代富士そば 渋谷下田ビル店」。
こちらで先程の工藤さんと、藤井店長の協力のもと「食べ比べ試食会」をやらせていただきました!
お店のテーブルに置かれた2種類の麺箱。
向かって右が興和物産で左が紀州屋製麺のそば!
興和物産は麺箱に社名が入っているのでわかりやすいですね。紀州屋の麺箱には「ダイタングループ」と入っていますが、紀州屋製麺と入った麺箱もあるとか。厨房に置いてあることが多いので、ちょいとのぞけば、そのお店がどちらの麺を使っているのかすぐわかりますよ(確認する時はお邪魔にならない程度に)。
よく見ると外見も違います。興和物産がビニールで袋詰めされているのに対し、紀州屋は紙でくるまれています。しかし、この2つのそばが並んだ姿、立ち食いそばマニアにはたまらんでしょう。このまま盗んでしまいたくなります。
さて、近づいてじっくり観察してみましょう。
右が興和物産で左が紀州屋製麺。
紀州屋製麺の方が薄めの色でそばが真っ直ぐなのに対し、興和物産は濃い目の色で若干、ウェーブがかかっています。よく見ると違うものですね~。
粉の配合が同じでも、機械と製造工程が違えば、これだけの差が出るんですね。
ちなみに紀州屋製麺の麺が真っ直ぐなのは、麺を切ったあとに職人さんが手で揃えているからなんだとか。一方の興和物産は機械で行なっているため、丸まった状態になってしまうとのこと。う~む、興味深い!
さてさて、これが茹でるといったいどうなるのか? 実際にもりそば(300円)にしてもらって確かめました。
右が興和物産で左が紀州屋製麺。
これが興和物産。
そして紀州屋製麺。
興和物産のほうが若干、色が濃いかしら? でも光の加減もあるし……すみません、正直よくわかりません。木村さんの言っていた「ほとんどわからないですよ」は、本当でした。
そして、いざ実食! まずは興和物産。
そして紀州屋製麺。
ん?
んん~? んんん~?
わかった! わかりましたよ!
なんというか興和物産の麺は「モグモグッ」とした食感があって、紀州屋製麺は微妙に「ハリコリッ」とした食感があるんですよ。
麺を1本ずつ取って、よく見るとわかるのですが……。
右の興和物産は、麺の角が少しなめらかで、断面はほぼ真四角。それに対し紀州屋製麺は麺の角が立っていて、やや扁平気味。
この形状の差が食感に出ているのか!
味はというと……うん、どちらも変わらず美味しいです。どっちかというと、紀州屋製麺は冷たいので、興和物産は温かいので食べたいかな~。
まぁ、これは並べて食べたからわかる違いであって、単品で出されたらわかりませんよ、ホント。
いやいや、どっちも美味いですよ。しかし、2種類の麺を並べて食べるなんて、考えてみればぜいたくですね。
「名代富士そば」のグループ全体で言うと、興和物産を使っている店舗が6割、紀州屋製麺を使っている店舗が4割とのことです。そしてこのグループだから興和物産、ということはなくて店舗それぞれで違います。配送の関係で、近い店が同じ麺を使っているということはあるようですが……。
また、ダシに使う削り節も、東京の阿部鰹節株式会社と、静岡の小林食品株式会社の2種類を使っていて、これも店舗それぞれで違います。そばとツユの組み合わせで言うと、なんと4通りの味が存在しているんですね(!)。
今回、取材した渋谷近辺でいうと、使っているそばは以下のように分かれています。
- 渋谷下田ビル店(ダイタンフード株式会社) そば:紀州屋製麺 ダシ:安倍鰹節
- 渋谷桜丘店 (ダイタンフード株式会社) そば:紀州屋製麺 ダシ:安部削節
- 渋谷道玄坂店 (ダイタンイート株式会社) そば:紀州屋製麺 ダシ:小林食品
- 渋谷明治通り店(ダイタン食品株式会社) そば:興和物産 ダシ:安部削節
- 渋谷東口店 (池袋ダイタンフード株式会社)そば:興和物産 ダシ:小林食品
図表にしてみると、こうなります。
2つのお店を連食してみれば、その違いがわかるかも?
そして、もりそば2つだけでは物足りないので、こちら渋谷下田ビル店限定の、ネギタ(410円)もいただいちゃいました。
たっぷりのピリ辛白髪ネギにたぬきとワカメ。たぬきがネギの辛味をマイルドにしてくれて、これは美味いですね~。もともとまかないで食べていたものを、限定メニューとして出すようになったとのこと。
通常、「名代富士そば」のたぬきは、丸めのツブツブタイプなのですが、こちらはお店自家製のサラサラタイプ。これがそばとネギによく絡みます。今日は温かいのでいただきましたが、冷でなおかつ温泉卵をトッピングすると、もっといいかも。実は某国民的アイドルグループのIメンバーも食べていたところを過去に目撃されているとか……。
いやはや、チェーンというと、どのお店も同じ味かと思いきや、やっぱり違いはあるんですね。冒頭の取材では、麺の違いだけでなく、いろいろなことも聞いてきましたので、そちらの紹介は、次回やらせていただきます。
それではまた、「富士そば」で会いましょう!
お店情報
住所:渋谷区宇田川町35-6 下田ビル
電話:03-6276-3525(ダイタンフード株式会社)
営業時間:24時間営業
定休日:無休
※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。