「かた焼きそば」を偏愛するミュージシャンに聞いた、食べるべき名店と意外すぎる由来【ただいま約350食】

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バリバリと食べ続けて現在約350食目

中華料理店に行けば、焼きそば、中華丼などと並んで親しまれる「かた焼きそば」。パリパリの揚げ麺に、さまざまな具材が混ざったあんが掛かり、とろみと香ばしい風味が交わるボリューミーなメニューだ。

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▲バリバリとした食感の揚げ麺とトロトロあんかけのコントラストがたまらない

 

この「かた焼きそば」に執着し続け、誰よりも愛する男がいる。

自身のInstagramにも載せているその数、現在約350皿目……。

 
 
 
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「かた焼きそば研究家」を名乗るミュージシャン、MARUOSA氏(写真下)に、その奥深い魅力と知られざる歴史をバリバリッと語っていただいた。  

 

話す人:MARUOSAさん

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クラブミュージックのいちジャンル「ブレイクコア」の国内第一人者。唯一無二のエクストリームな作風は、国境を超えたファンを生み、世界20カ国のツアーを行うまでの実力と知名度だ。最近では人気ストリートブラント「Supreme」への音源提供が話題となった。またスケートシング・小山田圭吾・高木完率いる「NOMARS」の3代目ボーカリストでもある。(Photo:©Yuco Nakamura)

 

▲MARUOSA氏が音源を手がけた動画「Sekintani La Norihiro  x Supreme」

 

おじいちゃんが教えてくれた思い出の味

──まずはなぜここまでかた焼きそばに取り憑かれてしまったのか、教えてもらえますか。

 

MARUOSA:もともと実家が大阪の桃谷で、当時は下町で町工場が多い地域でした。祖父が町工場を経営していて、幼稚園の頃に手伝っていたんですよ。仕事が終わったらご褒美で中華料理屋に連れて行ってくれて、その時におじいちゃんに「これがうまいよ」と教えてもらったメニューがかた焼きそばなんです。ちゃんとした料理なんだけれど、お菓子っぽさもある不思議な美味しさにハマったのが一回目の衝撃でした。

 

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MARUOSA:それから、大人になるまでかた焼きそばを忘れていて。上京後にぶらっと入った中華料理屋で、おじいちゃんのことを思い出して久しぶりに注文しました。20年振りに食べた瞬間、ほんまにカミナリに打たれたような感覚になって、美味しさとおじいちゃんの思い出が重なってしまい、僕はかた焼きそばを食べ続けなければいけないという使命感が生まれてしまって。それが6年前くらいで、そこからかた焼きそば研究の道に足を踏み入れたんです。

 

──そこから研究家としてどのような活動を?

 

MARUOSA:周りに詳しい人もいないので、まずは数をこなして「食べ歩くこと」、そして「文献を調べること」。これが活動の二本柱ですね。歴史も知らないとならないので調べていくうちにルーツにも触れました。また食べ歩きの投稿などの活動が噂になり、ラジオやテレビ、雑誌に出たりしましたね。

 

──MARUOSAさんのグシャッとしたハードコアな音楽性と共通する部分がありそうですね(笑)。

 

MARUOSA:音のバリバリっとした感触や渾然一体としたカオスな感じとかですかね。無意識でそうなっているのかも(笑)。

 

麺とあんかけのバリエーションもさまざま

──6年前から始めて約350皿。すべて違うお店を回られていますが、どういった種類がありますか?

 

MARUOSA:まず、麺でいうと、太麺か細麺で分かれますよね。で、揚げ具合は、ライトに揚げてるかガッツリと揚げてるか。それと、その場で揚げているのと、工場で揚げているのと、あとは作り置きか。

 

──それと、あんかけのバリエーション。

 

MARUOSA:ですね。あんかけの味は、オイスターソース系と塩味に分かれます。前者は中国出身の店主のお店、後者は町中華や日本人の店主がやられているお店の場合が多いですね。

 

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──麺とあんの組み合わせの種類はいろいろあるようですが、世の中で割合が多いのはどういった感じなんでしょう。

 

MARUOSA:あんはオイスターが若干多く、麺は中から細麺が多いですね。具に関しては、一般的に白菜を使っていますが、なかにはキャベツもあります。あと、キクラゲが入っているかで、だいぶ味が変わるんですよね。キクラゲは下処理をちゃんとしてないと全然食えたもんじゃなくなるので、重要な具材のひとつです。また、変わり種ではミートボール(肉団子)が意外とうまかった。それと調味料では、一般的にはお酢ですが、意外と合うのが黒胡椒。びっくりしたのがレモンの絞り汁もすごい合うんですよね。

 

──MARUOSAさんご自身の一番の好みは?

 

MARUOSA:若いときはゴリゴリの太麺、オイスターでパンチの効いた味が好きでしたが、最近は塩味寄りの方ですかね。麺の太さは、中〜太くらいが自分の理想で、できれば注文が入ってから揚げてほしい。まぁ、そもそもあんの混ぜ具合でバリバリ麺を好みの柔らかさに調節できるのが、魅力のひとつではあるんですけども。でも、食べ歩いてると、いろいろオリジナリティ溢れるものもあって面白いですよ。

 

──というと?

 

MARUOSA:たとえば目玉焼きが乗っているやつとか(笑)。紅生姜と一緒に。それ、焼きそばじゃんって。あとは伊達巻きが乗っていたり。ここまでくると味は二の次ですが……。チャレンジ精神は買いますね! 

  

【首都圏の名店紹介】美味しいかた焼きそばはここにある!

それでは、食べ歩いた経験を元に、おすすめの店をいくつか教えていただこう。

 

日本最古? のレシピを出す横浜山手「奇珍」

MARUOSA:まずは奇珍楼(奇珍と表記される場合もアリ)。とにかく歴史が古いんです、ここは。1918年創業で大正当時からかた焼きそばを作っていたそうで、これが現存する中で一番古いレシピなんじゃないかなと。錦糸卵が乗っていて、麺は細麺でぎりぎり焦げていないクリスピーで苦味のある大人の味です。仕事も丁寧で気品もあって、これぞクラシックですね。駅から若干離れてるんですけど行く価値はありますよ。 

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オイスターソースに太麺が絡む五反田 「亜細亜 (アジア) 」 

MARUOSA:老舗広東料理の、まさに王道のかた焼そばが食べれます。具材、あん、麺、どれをとっても非の打ち所がない仕上がりなので「都内で美味しいかた焼そばを食べたい」と言われたら、まずこの店が頭に浮かびますね。山手線・五反田駅から店舗が見えるくらいアクセス抜群なのも高ポイントです。

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▲「亜細亜」の五目かた焼きそば(1,300円)

twitter.com

 

おそらく都内最安値の六本木「七番  

MARUOSA:手頃な価格で食べるなら絶対ここです。カウンターのみで昼だけ営業なんですけど、全部のメニューが500円で、かた焼きそばももちろん500円。都内で一番安いかもしれないですね。麺は中太麺、具は4種くらいの、シンプルなあんです。毎日食べても飽きないぐらいのシンプル・イズ・ベストなかた焼きそばですね。

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裏メニューがある「麗郷 渋谷

MARUOSA:台湾料理の店でメニューに書いていないんですよ。代わりに、あんかけ焼きそばのような柔らかい麺がメニューにあったので、注文の時に「麺を揚げてもらえますか?」とお願いしたら希望どおりにやってくれて。お店で揚げたての麺を使ってるので、メッチャうまいですよ。ここのかた焼きそばは渋谷の中では一番好きですね。

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──かた焼きそばのために特別なオーダーをしてみたんですね。

 

MARUOSA:トライしてみたんですよ。ここで行けるんだと味をしめて、あんかけ焼きそばがある他のお店でも注文しています。断られたこともありますが確率は半々ですね。マニュアル化されていないお店なら可能性は高いです。 

  

日本全国にも珠玉の名店が……

──研究家として、東京以外も食べ歩いているんですよね。地域ごとに違いってあるんですか?

 

MARUOSA:地域ごとに呼び方も変わっていて、大阪では「フライ麺」、名古屋では「バリそば」。名古屋は店によって「さらバリ」ってメニューに書いてあったり。山口には「バリそば」という同じ名前で、皿うどんとかた焼きそばの中間みたいな郷土料理があって、こっちはとろみが緩めな大皿料理です。あと個人的な見解なんですが、メニューに「かたい焼きそば」って書いてる中華料理屋はうまいんですよね。古い町中華に多いんですよ。

 

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──首都圏以外にも、かなりの数の名店がありそう。

 

MARUOSA:もちろん、いっぱいあります。本当に絞っていうと、鹿児島の「山形屋」、三重の「不二屋」、長野の「いむらや」。この3店は、かた焼きそばを名物として出しているんですよ。ぼくの中で「日本三大かた焼きそば」って呼んでます。

 

──名物にまでなってるんですか、へぇー。

 

MARUOSA:実はこの日本三大かた焼そばには一つ謎があって。なぜか3店とも示し合わせたかのように「焼きそば(やきそば)」という名称でかた焼そばを提供しているんです。どういう経緯でそう名乗るようになったのか、このあたりも今後調査していきたいです。

 

──それぞれどんなお店なんでしょう。

 

MARUOSA:まず「山形屋」は百貨店なんですよね。鹿児島のソウルフードというか、地元の老若男女に愛される味ですね。

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山形屋のあふれるかた焼きそば愛。このノートは通販で販売中

shop.yamakataya.co.jp

 

MARUOSA:三重の「不二屋」は歴史のある味で、通販もできるんでぜひその歴史を味わってほしいですね。

www.e-228.com

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──鹿児島三重ときて、もうひとつが長野

 

MARUOSA:「いむらや」は、長野に行く機会がなくて、残念ながら僕はまだ食べていない店ですね。地元のチェーン店でいくつかあるようです。 

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──にしても名物にまでなっているとは、知りませんでした。

 

MARUOSA:そうだ、京都にも大好きなお店がひとつあります。河原町の「マルシン飯店」。ここは上品な塩味でおすすめなんです。かた焼きそば自体ボリューミーなイメージですけど、ここのは味がさっぱりしているせいか、案外ペロっとイケちゃうんですよね。

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かた焼きそばと皿うどんの違いは?

──ところで「かた焼きそば」と「皿うどん」は、同じものだと思われがちですが……。

 

MARUOSA:きましたね、その質問。まず発祥が違うんです。皿うどんは、ちゃんぽんが元になっています。福建省出身の中国人が長崎に渡って、中国人留学生のために安くてお腹いっぱいになって栄養になるものとして、最初にちゃんぽんが生まれたんです。でも、ちゃんぽんはスープと麺と具があって結構重いので出前用には向かない、そこで皿うどんが生まれたんです。

 

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──なるほど。見た目が似ていますが、発祥が違うんですね。

 

MARUOSA:一方、研究した結果、かた焼そばはアメリカ式の広東料理ではないかという仮説に至りました。 

 

──えええっ! てっきり中国か日本かと。

 

MARUOSA:歴史を調べてみると、アヘン戦争に破れて貧困に陥った中国人が、出稼ぎのためにゴールドラッシュで沸くアメリカに渡るんです。やがて、一攫千金を目指した中国人が集まってチャイナタウンができる。その第一号がサンフランシスコにあって、なかでも広東人が多かったそうです。

 

──まさかゴールドラッシュが関係あるとは……。

 

MARUOSA:アメリカ人と中国人は味のセンスが違っていて、アメリカ人はどうしてもインパクトのある食感や味付けを好むらしいんですね。それで、アメリカ人が物珍しさでチャイナタウンの中華料理屋に行って、自分たちの口に合うようにしてほしいと無茶な注文を出したと。そういったアレンジを重ねていった結果、かた焼きそばが生まれたんじゃないかという説があるんです。そうしたことがこの文献にも書いてありました。

 

 

──研究のためにわざわざ洋書も読んでいるんですか!

 

MARUOSA:チャプスイchop sueyは、アメリカで流行った中華料理のメニュー名。日本でいう広東料理の「あんかけの五目うま煮」のことで、ブームになったんですよ。中華丼のようなアレンジのひとつとして、かた焼きそばが生まれたんじゃないかと。揚げ麺になったのは、保存もできて回転率を上げるから。それで麺のアレンジができたんじゃないかと言われてますね。

 

中国人はかた焼きそばを知らない

──アメリカから日本に輸入された時期っていつ頃なんでしょうね。

 

MARUOSA:はっきりは分かりませんが、当時「銀座アスター」の創業者が中華料理屋を開店する前に、貿易商の仕事でサンフランシスコに渡って中華料理を食べているんです。それに衝撃を受けて、日本に帰って昭和元年にお店を作ったと。

 

──そこですでにかた焼きそばが作られたいた?

 

MARUOSA:銀座アスターの創業当時のポスターに「アメリカ式中華料理」という名前を掲げてオープンして、おそらくそこにラインアップされていたのではと推測しています。チャプスイを食べて、似たようなものを出していたんじゃないかと。ただ、アスターの創業当時のメニューを探したんですが見つからず……。経営陣はおそらく史実を把握しているでしょうけどもね。

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──となると、かた焼きそばは中国大陸には存在しない?

 

MARUOSA:中国人は知らないんですよね。北京の知人にうちの街にはないと言われました。チャプスイの原型となる料理は広東省にありましたが、かた焼きそばという料理はなかったですね。ただの五目うま煮で、ご飯も麺もない炒めものです。

 

──てっきり中華料理だと思っていました。これからも、かた焼きそば研究は続けていかれるのでしょうか。

 

MARUOSA:そのつもりです。かた焼きそばがメニューにある店は、都内だけで1000店舗あるのでまだぜんぜん回れていないし。ネットで検索して一店一店調べて店舗数を数えたんですよ。あくまで音楽が本業ですが、かた焼きそば研究もやっていきたいと思っています!

 

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 ▲MARUOSA氏の食べ歩いた足跡。壮観な眺めだ……

 

書いた人:高岡謙太郎

高岡謙太郎

オンラインや雑誌で音楽・カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。

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