トップアイドル神崎美月に憧れて、生徒全員がアイドルの「スターライト学園」に入学した星宮いちごと、親友の霧矢あおい。二人をはじめとする新人アイドルたちの熱いアイドル活動を描いたアニメ「アイカツ!」

女児をメインターゲットにした作品ではあるものの、世代を問わず大人気。2012年10月に始まった1stシーズンに続き、2013年10月からは2ndシーズンが放送中で、2014年12月13日(土)には「劇場版アイカツ!」も公開されます。
2ndシーズンもクライマックス直前の今、アニメ「アイカツ!」の中心人物である木村隆一監督と、シリーズ構成・脚本の加藤陽一さんに、企画のスタートから今後の展開まで熱く語って頂きました。

ウェットになり過ぎず、ポジティブ感を保つ

―――「アイカツ!」はバンダイのカードゲームがベースになっている作品ですが、お二人が今作の企画に関わったのは、いつ頃ですか?
木村 企画に関わったのは、加藤さんの方が全然先ですよね。
加藤 2010年くらいからゲームの企画自体は始まっていて。その企画を通す上で、ゲームに連動したアニメを作るとしたらどういう形ならできるのか、といった事をバンダイさんと一緒に考えました。
その後、ゲーム作りが始まってからは参加していなくて。1年くらい後、監督と一緒にアニメの現場へ入った感じです。
木村 僕のところに話が来たのは2012年になってからで、かなりギリギリの感じでした。
―――作品の設定は、ゲームの方でかなり固まっていたのでしょうか?
木村 世界観のようなものだけで、物語についてはほとんど決まっていませんでした。
加藤 (前に)僕が参加していた段階でスターライト学園とか、アイカツシステムとか、「芸能人はカードが命」という言葉とかを決めていて。それを、もう一回、監督といじりはじめた感じですね。

―――アニメについて、木村監督は最初にどのような方針を考えられたのですか?
木村 スポ根をやりたいというオーダーがあって。ゲームの方で、トップアイドルの美月といちごの設定は漠然と決まっていたんです。その世界観とキャラクターから考えていくと、自然と「エースをねらえ」のお蝶夫人と岡ひろみのような関係性をベースにするのが良いかなと。そこからどう味付けしていくかという感じでした。
―――その味付けの方向性としては?
木村 僕としては、コメディにしたいという事が一番軸にありました。震災の翌年だったので暗い作品にはしたくなかったんです。
加藤さんも良いですねと言ってくれて。その事以外は、作りながら考えていった感じです。
加藤 本当に時間もなかったですからね。いちごたちは真剣にやっているんだけど、それを見ている方は面白い、というのも考えていた事ではありました。
木村 そうですね。
加藤 僕が「アイカツ!」で初めて監督とご一緒して、どんな監督なのかを分かっていく過程の中、すごく印象に残っている事があって。
1話で、美月のライブを観て感動したいちごがベッドの中でライブの事を思い出し、涙が一粒こぼれるというシーンを書いたんですね。でも、監督は涙は流さない方が良いんじゃないかと。そこはかなり話し合って、最終的に泣かない事にしたんです。あのシーンでのジャッジは、あまりウェットにはならず、明るいポジティブ感を保つというシリーズを通しての方向性の基点になってると思います。今も「アイカツ!」では、泣くって特別な事ですからね。
木村 ベースがコメディなので極力ウェットな要素は排除したくて。
困難に対して前向きにぶつかっていくキャラクターを前面に押し出せる作品にしたいという意図で、そうしてもらった感じです。泣く事のハードルを上げておいて、泣く時にはより印象的に見せたいという理由もありました。

挿入歌「カレンダーガール」の再生数が5000回以上

―――1stシーズン全体の構成は、早い段階で終盤まで決まっていたのですか?
木村 全然決まってなかったです(笑)。
加藤 最後が決まったのは、放送が始まって半年くらい経ってからですよね。でも一応、1クール目は計画があって。真面目な話から始まって、ここまでコメディにできますよという範囲を作っておきたかった。
それが崖上りの回や斧の回ですね。
―――いちごがトップデザイナーに会うため、何十メートルもある崖をよじ登る第9話。友達にクリスマスツリーを見せてあげるため、雪山の大木を斧で切り倒す第12話。どちらも「これもアイカツ(アイドル活動)なのか?」と驚いた回です。監督は加藤さんの脚本を読んだ時、どのような感想を?
木村 正直、僕は「どうしようかな……」って思ったんですけど(笑)。
加藤 ははは(笑)。
木村 あの頃は本当にスケジュールに追われていたから、一瞬一瞬で判断をする必要があったんですよ。だから、「加藤さんが書いてきてくれてるんだからいいかな。きっと、いけるだろう」と信じて。
加藤 ありがとうございます。ちなみに(斧の回は)ちゃんとシナリオにも「サンライズ立ちをするいちご」って書いてあるんですよ。
―――完璧な「サンライズ立ち」(サンライズのロボットアニメの決めポーズ)でした!
加藤 それと、12話を書いた時から、いつか、この斧のシーンを見て、いちごに憧れている後輩の子を出せたら良いなと思っていたんです。
―――2ndシーズンからの新キャラクター大空あかりは、まさにそうですね。 
加藤 はい。でも、本当にできるとは思ってなかった。長く続いてきたんだなと実感します。
―――第48話では、いちごのお母さんも一緒に、あの崖を登っていて驚きました。
加藤 あれも、いつかやろうと思ってました。
木村 加藤さんが絶対にやりたいと言っていて(笑)。元々、お母さんといちごのお話の回だったので、じゃあ、二人で登るだろうね、と。
―――では、1stシーズンの最後、美月との対戦を終えたいちごがアメリカへ旅立つという展開は、どのような形で決まったのですか?
加藤 春くらいになって、最後を具体的にどうしようか考えてる時、監督から……。
木村 どこかへ留学するとか、海外へ行くとかにしちゃおうかという話をしましたね。
―――なぜ、そのような発想を?
木村 一つは、いちごがまだ美月には勝てないだろうという物語上の理由です。それに、いちごも美月との勝負の事だけじゃなくて、親友のあおいとの関係とか、自分のアイドルとしての行く末みたいな事をいろいろ考えるだろうなと思って。だったら、これから本当に美月と勝負をしていくためにも、一人で武者修行をするんじゃないかなと。
加藤 監督のアイデアを聞いて、すごく良いなと思いました。2年目の頭、スターライト学園がピンチの時、いちごが帰ってくるっていうところまでセットでしたよね。
―――仲間のピンチに主人公が帰還するのは、少年物っぽい展開ですよね。
木村 僕の中では「あしたのジョー」のイメージでした。
加藤 良いなと思ったもう一つの理由は、1stシーズンの最後をお見送りのシーンで盛り上げて終われる事。そこで、「カレンダーガール」(1stエンディングテーマ)をフルで流しながら感動的なシーンにして、あおいも泣かせちゃおうと決めたんです。当時、移動中の車でずっと「カレンダーガール」を聞きながら、「このフレーズの時はこういうシーンで……」と考えていたのですが、あとで再生回数を見たら5000回超えてました(笑)。
―――5000回!?
木村 何時間になるんだっていう(笑)。

「アイカツ!」らしさができた瞬間

―――最終回の翌週からは2ndシーズンが始まるわけですが、それでも1stシーズンの締めとして、しっかりと盛り上げたかった?
木村 もちろん。ここで終わるくらいの気持ちで、きっちり締めたいと思っていました。
加藤 2年目は決まっていましたが、気持ち的には、あそこを決められなければ先は無いってくらいの感じで。1年目を、良かったと思ってもらえるものにしなきゃ絶対に駄目だと思っていました。
―――1stシーズンの全50話を作って行く中、「この作品、いけるぞ!」と思われた瞬間、手応えのあったエピソードなどを教えて下さい。
木村 いくつかあるのですが、加藤さんとの関係だと、崖上りの回(第9話)ですね。僕と加藤さんの中のいろいろなものが擦り合わさった感触があって。
加藤 そうですね。(トップデザイナーの)天羽さんと、いちごのやり取りとかも。
木村 あのあたりも良かった。全部ひっくるめて「アイカツ!」らしさができた瞬間かなって気はしています。あと、他にも作品の中で大きいなと思っているのは、いちごと美月が一緒にステージに上がる話(第16話と第17話)。あそこまでは、観ている人もただのコメディだと思っていたふしもあるんですけど。けっこうシリアスな事をやっても、みんな素直に受け止めてもらえた。
加藤 熱い回でしたよね。
木村 いちごが初めて涙を見せるシーンもあって。それも、そこまで我慢してたのが、ちゃんと効いたなって。あの回を受け止めてもらえた事で、すごくいける感じがしました。
―――感動的な話でも楽しんでもらえるぞ、という手応えがあった?
木村 はい。コメディもできるし、真面目な事もできるなと。
―――加藤さんはどうですか?
加藤 僕もやっぱり監督と一緒の回ですね。その他では、ちょっと長いタームで考えると、1stシーズンの最後を4話連続で書かせて頂いて。あそこでまた手応えを感じられた事がシリーズを続けていく上ではすごく大きかったです。
―――美月が倒れて、伝説のアイドル・マスカレードが復活。いちごと美月の頂上対決も決着がつく。怒濤の展開でしたね。
木村 いろいろと設定を作ったわりには拾いきれてないものもあったので、最後の方にギューと詰め込みました。
加藤 4話あって良かったです。
―――いちごのお母さんがマスカレードのミヤだった事も明かされますね。
加藤 マスカレードの正体をいちごが知ったら、めちゃくちゃビックリして面白いに違いない。そんな風に、観ている人に楽しみにしていて欲しいとは、最初の頃から思っていて。最後にネタバレをしようとは考えていました。どこかでカッコ良くステージに上げたいとも思っていたので、その時が良いなと。
―――2ndシーズンからは、ドリームアカデミーというライバル校が登場します。
木村 ライバルの学校を作りたいというのはゲーム側からのアイデアです。じゃあ、そこからどうしようかという話をしました。
―――すごく「アイカツ!」らしいなと思ったポイントなのですが。2ndシーズンはいちごたちスターライト学園のアイドルと、音城セイラたちドリームアカデミーのアイドルで、NO.1アイドル学校の座を争うような対決が続くのかなと思ったら……。
木村 わりと早く仲良くなりますよね(笑)。
―――実は学園長同士もすごく仲良しですし。ギスギスするような、ライバルとの覇権争いにはならないんだなと。
木村 1年間やってきて、そういう風に戦うのは「アイカツ!」の方向性としては無いなという感じになっていたので。学校自体がもっている性質も違いますし、お互いの出会いによって新しいものが生まれてくる。そういった話にできないかなと最初から話していました。
加藤 お互いを蹴落とすのではなく、違いを認め合うライバルという感じですね。
(丸本大輔)
後編に続く

この冬、「アイカツ!」がついにスクリーンデビュー!

「劇場版アイカツ!」
2014年12月13日(土)冬休みロードショー

大人気作「アイカツ!」がオールスターキャストによる完全オリジナルストーリーで、劇場アニメ化! 8月9日(土)には、「劇場版オリジナルアイカツ! カード」付の前売り券も発売! 詳細は映画公式サイトで。

企画・原作:サンライズ 原案:バンダイ
総監督:木村隆一 監督:矢野雄一郎 脚本:加藤陽一 キャラクターデザイン:やぐちひろこ 副監督:小山田桂子
アニメーション制作:サンライズ 製作:「劇場版アイカツ!」製作委員会(サンライズ バンダイ 東映 ハピネット 電通 テレビ東京)
配給:東映
映画公式サイト:http://www.aikatsu-movie.net/

「アイカツ!」1stシーズン Blu-ray BOX 1(2014年11月5日発売予定)

「アイカツ!」1stシーズン Blu-ray BOX 2(2015年2月3日発売予定)