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【緊急解説】 ここが進化した! 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333』IMAX®上映(1/8より) 文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

庵野秀明総監督は初監督作品『トップをねらえ!』以来、アスペクト比を筆頭とする上映フォーマットを重視し続けてきた。
「この状態で鑑賞してほしい」と、映像の理想追求へのこだわりがあるからだ。
そして2021年現在、映画館の品質は格段に向上し、今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、最高の上映環境のひとつにIMAX®が選ばれた。

これに連動するかたちで2012年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』も1月8日からIMAX®上映される。
しかも全カットを2K解像度で再撮影し、IMAX®対応したのだ。
英文タイトルも劇場公開版が『EVANGELION:3.0』、パッケージ版が『同:3.33』、そして今回は『同:3.333』と、バージョンナンバーも更新されている。

では『:Q』のIMAX®版は、何がどう変わったのだろうか? 鑑賞時はどこを楽しめばいいのか?
緊急取材で、ここにその詳細を解説する。

再撮影で向上したディテール表現

アニメ制作における「撮影」とは、作画・仕上げ、CGI、背景美術と各部署で分業された素材を1コマずつ組み上げ、完成映像にする最終工程だ。
PC上のコンポジット(合成)ツールで、フィルタ効果や光、遠近のボケなどの視覚的な処理も撮影で追加する。
だから「再撮影」は単なる解像度だけでなく、画面のルックにも大きく作用する。具体的にどんな方針で取り組んだのか、スタジオカラー デジタル部撮影監督の平林奈々恵氏に話を聞いた。

「撮影は観客が物語に没頭できるよう、違和感なく素材を仕上げる役割です。『:Q』の場合、2012年の『Q:3.0』時点で素材は2Kサイズで作ってあり、撮影で1280×544ピクセルと低解像度にしてからDI(後述)に渡して劇場公開しました。今回はIMAX®で『シン・エヴァ』を公開する意図が先にあり、『:Q』ともシームレスに観てほしいということになって、2048×870と1.6倍の解像度で再撮影することになりました。

当初、庵野さんからは「実写のカメラと映像をイメージした画面に仕上げてみたい」という希望もあって、社内でも撮影表現に精通している吉﨑響さん、山田豊徳さんと私でレンズを通した見た目を意識し、被写界深度を探ったり色の再調整を行いました。
しかし情報量が減って見えたりしたので、解像度を上げるだけにして、気になった部分を修正した感じです。
結果的にはヴンダーの外観など、線が複雑に絡み合ったようなカットが非常にクリアで、全体にパキッとした印象が出たと思います。
コア化した赤い大地も粒子状の動きなど、ディテールの表現力が上がったのも特徴です。

素材やタイムシートはそのままなので、大きな違いはないですが、8年経過していることと、庵野さんの意向で『シン・エヴァ』との段差を減らそうとしたため、細部はいろいろ変わりました。

まずパッと見ですぐ分かるのは、アスカとマリのプラグスーツ。肩から腕が色指定ごと変わったため、データを塗り直しています。
気づきにくい点ではレイのスーツも足の模様が無くなりましたし、13号機の発光部位も変えています。
全体では「瞳の処理」ですね。これはアニメ業界の表現には流行があるので、最新に合わせてハイライトや虹彩などディテールを追加しました。アップだとよく分かると思います。

カメラワークを付け直し、尺が変更になったカットもあります。インテリアプラグ内で人物の横に外が見えるカットでは、モニターのゲージをカラーデジタル部によりCGIで追加していますし、L.C.L.の泡や粒子表現は当時の素材が使えなかったため、出力し直しています。

『シン・エヴァ』につながる“お試し”もいくつかやりました。
たとえばシンジがネルフに奪還されるシークエンスでは、着弾を受けて揺れるマリの映像をモニターに出して、それを庵野さんがiPhoneを手持ちで動かして撮っているんです。
その動画をガイドにして、撮影で最終的なカメラワークを付けました。これがものすごく効果的だったため、『シン・』で多用することになりました。レイアウト上の目盛りやシート上の設計よりも、手で撮ったほうがイメージどおりになるんです。撮影部としても意図がダイレクトに反映できるので、非常に助かりました」

IMAX®上映にするための最終調整

上映の発表があったとき、「なぜ2K再撮影なのか、IMAX®対応なら4Kではないのか」という反応が散見された。
この件は2010年を過ぎるころ(つまり『:破』と『:Q』の間の時期)、劇場上映環境が急激にフィルムから完全デジタルに転換した事情が背景にある。
そして劇場のスクリーンにかけるために、制作側の完成マスターを明度・色彩など微調整(グレーディング)した上でDCP(Digital Cinema Package)に変換する作業が必要となったのだった。
IMAX®用に『Q:3.333』もこの作業をやり直している。この件に関しては、DI(Digital Intermediate)プロデューサー、カラーグレーダーの齋藤精二氏にお話をうかがった。

「アナログ時代、ネガフィルムからポジフィルムという上映用の焼きつけ作業をするときにフィルムタイミングという色調整作業がありました。現像所に入りたての頃、1997年の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』もそのプロセスで仕上げられています。実際の劇場にかけたのと同じ条件にして、明るさや色の濃淡など細かくコントロールする役割です。
それは制作側が脳でイメージした色とスクリーンはズレが生じるものなので、そのマッチングをする作業で、経験則を積んだ職人の世界になると思います。
デジタル化以後、カラーマネジメントという考え方は、出版で先行しました。女性のワンピースが淡いパステル色だったら雑誌上でも正確に再現したい。
インクの微妙な色のずれで変わるわけですから、そこを調整する作業で、劇場のスクリーンの場合も同様です。

現在、デジタルシネマでも放送でも信号の国際規格が完備されています。まずその設定にして基準をロックして調整するのが第一歩です。カラーさんも同じ規格対応のモニターで作業していますから、基準は共通ですし、インフラとしては進化しています。
また、弊社のプロジェクタールームにカラーさんのモニタを持込み、実際のスクリーニングとのマッチングを確認して万全の体制で作業に臨んで頂きました。

『Q:3.333』に関しては、やはりIMAX®対応が前提です。IMAX®の場合、映像以外にも劇場の箱の高さやレイアウトを含め、ライセンスのために規格化されていまして、劇場ごとの差がほぼありません。
その点で、本当にクリエイターが意図した通りの色、音で鑑賞いただけるのが最大のメリットです。

解像度に関しては、カラーさんでフル2Kに上げていますので、ラージフォーマットに耐えられるクオリティになったマスターデータの作成が可能になりました。日本からはDIでその大元になる映像ファイルを作り、これを送ると先方で2Kから4Kにアップコンバートしてくれるのです。
これには、拡大しても画質劣化しないよう、非常に優秀なアルゴリズムが採用されているので、ボケたり無理やり大きくした感じは出ません。

DI作業を補足すると、カットによってインナーエリアを少し暗くしたり、黒を締めたりという最終調整をしています。
映画はカットが繋がって全体を観たときに初めて分かることも多々あるので、そこで客観的に判断し、「もっとパンチを強めにしてみては?」など提案するのが自分の仕事です。
たとえばバトルが連続したシーンで、個々の映像の印象がフラットだと機体の重量感やスケール感が出なかったりするので、そういう部分の調整ですね。
その客観性がもっとも重要で、その点ではこれまでの作品で信頼を重ねられたのかなと。

劇場のメリットは、テレビやスマートフォンよりもカラースペースという色の種類が多いこともあります。技術的にはスクリーンプロジェクションだと12bit、テレビは8bitという大きな差があります。
色鉛筆をイメージしてもらえるといいと思います。赤と黄色があって間にオレンジがあるかどうか、色の数が少ないと赤と黄色だけになってしまうわけです。
間のレンジも表現できるのが、デジタルシネマのメリットですね。

自分も観客としてIMAX®の劇場に行きます。自分が調整した印象と違っていたことは無いので、ぜひ今回もIMAX®で楽しんでいただければと思います」

2007年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』以来、『新劇場版』シリーズはデジタル革命による映像の進歩とともに進化を遂げてきた。
技術が更新されるたび、その映像表現力は向上し、言葉にならないエリアで観客を楽しませてくれた。
今回の『Q:3.333』IMAX®上映は、単なる拡大版ではなく、その最新形態に相当する変化を遂げている。

IMAX®劇場へ足を運べば、クリエイターたちの精神性とダイレクトにつながるような、激烈なる映像体験が楽しめる。そしてその興奮を胸に抱きつつ、シームレスに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の最終ステージへと、ぜひ突入していただきたい。

 


■『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333 YOU CAN (NOT) REDO.』
1月8日(金)〜22日(金)期間限定IMAX®上映
上映劇場はこちら
※1/8~1/22「Q:3.333」IMAX上映あり と記載の劇場

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