十勝岳 有史以降の火山活動

有史以降の火山活動(▲は噴火年を示す)

年代現象活動経過・被害状況等
▲1857(安政4)年 噴火 5月20日(新暦)中央火口丘から噴火:「焼山」周辺硫気活動(松田市太郎)。
6月14日(新暦)「山半腹にして火脈燃立て黒烟天刺上るを見る」(松浦武四郎)。
▲1887(明治20)年 噴火 中央火口丘から噴火。火砕物降下。近傍に降灰(大日方技師)。
1923(大正12)年 溶融硫黄噴出 6月溶融硫黄の沼出現、この頃、丸谷温泉(現在の望岳台付近)の温度上昇、湧出量増加。
8月溶融硫黄7~8m吹き上がる。
▲1925(大正14)年 噴火 12月23日中央火口丘の火口内の大噴(おおぶき)から噴火。鳴動。
▲1926(大正15)年 中規模:水蒸気噴火(泥流発生)→(山体崩壊・泥流発生)→マグマ噴火、水蒸気噴火 中央火口丘から噴火。火砕物降下・泥流→岩屑なだれ・泥流→降下火砕物。

2月中旬頃から大噴(おおぶき)火口からレキ放出。

4月5、6日小噴火:大噴(おおぶき)火口から降灰、中旬には火柱。

5月4~5日鳴動。7日小噴火:火柱、噴石、降灰。新火口形成。
13~14日有感地震:山麓で地震を感じる。 13~17日鳴動・噴煙:13日からの連続的な鳴動は15日に次第におさまるが、噴煙活動活発化。22日鳴動:山麓でも感じる。 大噴(おおぶき)火口からはレキ放出。
5月24日噴火:12:11頃噴火、小規模な泥流発生。14:00頃小規模な鳴動と噴火。 16:18頃噴火、中央火口丘の北西部が破壊され、熱い岩屑なだれが積雪を溶かして大規模な泥流発生(平均速度約60km)、 2カ村(上富良野・美瑛)埋没。死者・行方不明144名、負傷者約200名。建物372棟、家畜68頭、山林耕地被害。 北西に開いたU字型火口形成(450×300m)。噴出物量1.3×104m3、崩壊物量2~4×106m3。 マグマ噴出量は1×103DREm3。(VEI1)

9月8日噴火:16:33頃、噴煙高度4600m、行方不明2名。9日小噴火:15:40頃。10日小噴火:9:37頃、15:48頃、18:50頃。
11~21日小噴火:小噴火を繰り返す。9月の噴火活動で5月24日の崩壊部に楕円形の火口形成(大正火口:130×50m、深さ30m)

12月10日小噴火:小泥流あり。17日噴煙:小黒煙。25日噴煙:黒煙(噴煙高度500m)。
▲1927(昭和2)年 水蒸気噴火 1~4月及び6~9月度々小噴火、または黒煙。
▲1928(昭和3)年 噴火
1月16日噴煙。
3月5日噴煙・降灰。
5月23日噴煙:黒煙。
水蒸気噴火 12月4日鳴動と共に噴火(大正の活動、最後の噴火)。噴火場所は大正火口。
1936(昭和11)年 溶融硫黄流出 2月から秋にかけ硫黄流出
1947(昭和22)年 噴気 旧噴火口の噴気孔増加。
▲1952(昭和27)年 水蒸気噴火 8月17日昭和火口形成(30m×15m)。火口内の噴気孔直径50cm。18日0時頃に噴気孔が出現した可能性が挙げられている。
▲1954(昭和29)年 水蒸気噴火 9月昭和火口小爆発。大正火口硫黄流出。
▲1956(昭和31)年 水蒸気噴火 6月昭和火口小爆発。
1957(昭和32)年 噴気孔生成 2月昭和火口に新噴気孔出現。
▲1958(昭和33)年 水蒸気噴火 10月4日昭和火口小爆発。昭和火口内に新噴気孔(58-1)出現。
▲1959(昭和34)年 水蒸気噴火 8、11月昭和火口58-1噴気孔小爆発。11月小規模泥流。
▲1961(昭和36)年 噴気
6~7月大正火口噴気活動活発、硫黄自然発火。
水蒸気噴火 8月14日旧噴火口で弱い水蒸気爆発があり、ヌッカクシ富良野川の河水が灰色に濁った(会田氏による)。
▲1962(昭和37)年 中規模:水蒸気噴火、マグマ噴火 3~6月火砕物降下。大正火口噴気活動活発化。
5~6月有感地震が始まり、次第に多くなる。
6月29日噴火:22:40頃、中央火口丘南側湯沼付近から噴火。噴石により大正火口縁の硫黄鉱山事務所を破壊。 死者5名、負傷者11名。翌30日2:45頃から噴火。火山弾、火山灰を多量に噴出、噴煙12000m。 降灰は知床、南千島方面、爆発音190kmに達する。火柱を伴う噴火は7月5日頃まで続いた。 この噴火によりグラウンド火口南西壁沿いに62-0、62-1、62-2、62-3火口を生じ、62-2火口のまわりにスコリア丘を形成。
総噴出物量7.1×107m3、マグマ噴出量は0.028DREkm3。(VEI3)
1968(昭和43)年 地震、噴煙 5、12月地震群発:十勝沖地震(5月16日:M7.9)後、火山性地震群発。5月62-2火口の噴煙増加。
1969(昭和44)年 地震 1~8月地震群発:月地震回数は3月に最高となり、3344回(有感地震2回)、4月以降地震活動次第に沈静化。
1971(昭和46)年 噴気 6月昭和火口、活動停止。
1974(昭和49)年 噴気 5~7月62-1火口の噴気活動再開、活発化。
1975(昭和50)年 噴気 62-1火口の噴煙鎮静化。
1983(昭和58)年 地震 2、5月地震群発。9月62-1火口東壁の変色域拡大。
1984(昭和59)年 噴気 6~9月62-1火口の噴気活動活発化、噴気温度300℃以上。9月同壁475℃。
▲1985(昭和60)年 泥噴出
熱泥水噴出:5月29日62-1火口東壁から高さ約5mの熱泥水を噴出。長径10mの凹地(85-1火孔)形成。
水蒸気噴火 ごく小規模な噴火:6月19日62-1火口から灰黒色噴煙、付近に微量の降灰。 6月19~22日赤熱現象:62-1火口で赤熱現象(硫黄の自然発火)。9月1日火山性微動。
1986(昭和61)年 地震、火山性微動 8月31日有感地震:白金温泉震度1。10月温度上昇:62-1火口東壁で最高温度529℃。 12月3日有感地震:白金温泉震度1。
12月20日火山性微動。
1987(昭和62)年 火山性微動 2、3、7、8月微動発生。
▲1988(昭和63)年 地震、火山性微動、火砕流、火砕サージ、泥流 2、6月十勝岳温泉で震度1~2、震源は旧噴火口のごく浅い所。
9月地震群発:下旬から地震増加。
10月4日火山性微動。
10月有感地震。
11月有感地震:最大震度3。
12月10、11、13、14、15日ごく小規模な噴火:62-2火口から噴火。
12月16日噴火:62-2火口から小噴火。爆発音、爆発地震(白金温泉で震度3)を伴う。南東約80kmまで降灰。
12月18、19日小噴火:火柱、火砕サージ、小規模泥流、東北東約150kmまで降灰。
12月24日小噴火:火柱、火砕サージ。
12月25日小噴火:火柱、火山雷、噴石、火砕サージ、小規模火砕流、小規模泥流。
12月30日小噴火:爆発音、爆発地震(吹上温泉で震度1)。
▲1988~89(昭和63~平成元)年 12月10日~3月5日 小規模:水蒸気噴火、マグマ水蒸気噴火 火砕物降下→火砕サージ・火砕流・火砕物降下、泥流。
総噴出物量は7.4×105m3。マグマ噴出量は5×104DREm3。(VEI1)
▲1989(平成元)年
1月1日~3月5日
火砕流、火砕サージ、泥流、地震、火山性微動 17回の噴火があった。火柱、火砕サージ、火砕流、噴石、泥流、火映、降灰140km (まとめると1988年12月~1989年3月に発生した水蒸気噴火とマグマ水蒸気噴火は計28回であった)。 1月13、21日ハーモニック微動。
6~8月地震群発。
7月火山性微動。
12月火山性微動。
1990(平成2)年 火山性微動 1、2、6月火山性微動発生。
1991(平成3)年 火山性微動 2月火山性微動発生。
1992(平成4)年 地震 3月17日有感地震:白金温泉の一部で震度1。
1994(平成6)年 火山性微動 4月火山性微動発生。
1995(平成7)年 地震、火山性微動 7~12月地震増加、8月火山性微動。
1996(平成8)年 地震 5、6月地震増加。
1997(平成9)年 地震、噴気、火山性微動 5月地震増加。
6月の現地観測で振子沢噴気孔群の温度上昇。
9月には噴気活動再開(1993年以来)。
1、2、3、5、9、10月火山性微動発生。
1998(平成10)年 地震、噴気、泥噴出、火口が明るく見える現象、火山性微動 4月17日空振を伴う火山性地震発生。その後実施した上空からの観測で表面現象の痕跡は確認されなかった。
6~8月地震増加。6月23~24日現地観測により、62-2火口北西側内壁に新噴気孔形成。噴気孔温度414℃(赤外放射温度計、 測定距離約40m)。62-3火口で噴気活動再開(1992年9月以来)。62-0火口、62-1火口、振子沢噴気孔群で地温上昇、 地熱域・変色域が拡大。
9月火山ガス:山麓で広葉樹葉枯れ。 9月29日熱泥水噴出:62-2火口底に高さ約2mの熱泥水噴出、西側内壁に新噴気孔形成。熱泥水は10月5日にも確認。
10月9日高感度カメラにより62-2火口付近が夜間明るく見える現象を観測。以降時々観測される。
10月12日噴煙活動活発化:62-2火口から黒灰色の噴煙を2回噴出。
10月13日62-2火口の熱泥水停止を確認。熱泥水噴出箇所は直径約5mの窪地となり、中心部から白色噴煙を勢いよく噴出。 62-2火口北西側内壁の噴気孔温度460℃。
1、2、5、7、9月微動発生。
1999(平成11)年 地震 5月27日空振を伴う火山性地震を観測。波源は62-2火口付近と推定。表面現象なし。
2000(平成)12)年 火山性微動、噴気、地震、泥噴出 1月1日約18分間の火山性微動を観測。
2月24日地熱活動:遠望観測で前十勝の北西斜面に新たな噴気を確認。
6月21、25日有感地震:21日11:09、現地観測中の気象庁職員が震度1程度の揺れを感じた(山麓では無感)。 25日白金温泉で有感。
7月23日熱泥水噴出:62-2火口底で熱泥水噴出を確認。北西側内壁の噴気孔温度507℃。
2002(平成14)年 火山性微動 1、3、5、9月に火山性微動発生。
2003(平成15)年 火山性微動 2月8日規模のやや大きな火山性微動を観測(継続時間約37分)、その後6月中旬までに6回の微動が観測されたが、 規模は次第に小さくなった。いずれも表面現象等に異常は認められなかった。
▲2004(平成16)年 水蒸気噴火 2月25~26日ごく小規模な噴火。
4月19日62-2火口から火山灰混じりの有色噴煙、振幅の小さな火山性微動も発生。 4月9、12日にも振幅小さな火山性微動が発生。
11月火山性微動発生。
2005(平成17)年 火山性微動 6、7、9月火山性微動発生。
2006(平成18)年 火山性微動、地殻変動 2月火山性微動発生
山体浅部の局所的な膨張を示す変動を観測、以降継続。
2007(平成19)年 火山性微動 7月火山性微動発生。
2008(平成20)年 火山性微動 6、7月火山性微動発生。
2009(平成21)年 火山性微動 4、5、7、10月火山性微動発生。
2010(平成22)年 噴気、火山性微動 5月以降大正火口の噴気量やや増加。
2、5、7月火山性微動発生。
2011(平成23)年 火山性微動 1、2、8、11月火山性微動発生。
2012(平成24)年 火口が明るく見える現象、火山性微動 6月30日:夜間に大正火口が高感度カメラで明るく見える現象が発生し、7月4日の夜間まで継続。 原因は高温の火山ガス噴出や硫黄の燃焼等によると推定。7月1日に実施した上空からの観測で噴出物の痕跡なし。 同日実施したガス観測でやや多量のSO2(約600t/day)観測。SO2放出量は次第に低下。
1、7月火山性微動発生。
地震 12月2日:一時的に地震増加。13:37の地震で白金温泉地区及び十勝岳温泉地区、13:49の地震では白金温泉地区で、 それぞれ震度1に相当する揺れがあったと推定。
2014(平成26)年 地殻変動、火山性微動、地震 7~11月山体浅部の膨張、9月火山性微動、12月62-2火口付近のごく浅い所で地震増加、11月以降常時微動の振幅レベルが間欠的に増大。
2015(平成27)年 地震、地殻変動、熱 4~7月62-2火口付近のごく浅い所で地震増加。7月14日旧噴火口付近のマグニチュード1.0の地震により吹上温泉地区で震度1に相当する揺れがあったと推定。
5~7月山体浅部の膨張、62-2火口南縁と振子沢噴気孔群の間で亀裂。
6月以降、振子沢噴気孔群で地熱域拡大、前十勝で列状噴気。62-2火口底に湯だまり出現。
2017(平成29)年 泥水噴出、熱、地震、地殻変動 6月62-2火口底で熱泥水確認。7月グラウンド火口付近で地震増加。7月7日02時24分のマグニチュード2.0の地震により、十勝岳温泉地区で震度1に相当する揺れがあったと推定。9月振子沢噴気孔群の噴気温度上昇(最高503℃、表面がコークス状)1。 2006年以降見られていた山体浅部の膨張を示す変動は秋頃からほぼ停滞。
2018(平成30)年 地震、火山性微動、地殻変動 5月29日以降、62-2火口付近のごく浅い所で一時的な地震増加や火山性微動発生、山体浅部のごくわずかな地殻変動を時折観測。
2019(令和元)年 地震、地殻変動 11月1日~5日62-2火口方向が上下する傾斜変動を観測、同時期に62-2火口付近のごく浅い所で地震増加。
2020(令和2)年 微弱な火映、地震、地殻変動 1月20日~21日62-2火口付近のごく浅い所で一時的な地震増加及び火山性微動と同時に62-2火口方向が上がる傾斜変動を観測、その後反転し3月初め頃まで継続。2月26日振幅の大きな地震発生、27日一時的な地震増加。6月7日~19日62-2火口で微弱な火映を観測、火口内に明瞭な高温域出現(約400℃)。9月14日火山性微動と同時に62-2火口方向が上下する傾斜変動を観測。
2021(令和3)年 噴煙、微弱な火映、熱、地震、地殻変動 春以降、62-2火口の噴煙は高い状態が継続。4月7日~13日62-2火口で微弱な火映を観測、8月7日グラウンド火口付近でマグニチュード2.2の地震。8月前十勝西側の植物枯死域拡大、9月前十勝北西側の斜面上に複数の噴気と地熱域を確認。8~9月前十勝西側の植物枯死域拡大を確認。山体浅部の収縮を示す変動を観測(以降、継続)。
2022(令和4)年 7月62-2火口及び振子沢噴気孔群で高温ガス噴出、溶融硫黄流出を確認。
2023(令和5)年 地震・火山性微動、地殻変動 7月4日火山性微動、7月4~7日及び21日62-2火口付近で地震増加。2021年以降継続していた山体浅部の収縮を示す変動は2023年夏頃にほぼ停滞。二酸化硫黄放出量は3月が1日あたり1,000トン、8月が1日あたり500トン。

日本活火山総覧(第4版)(気象庁編、2013)による。
噴火イベントの年代、噴火場所、噴火様式等については、(国研)産業技術総合研究所の活火山データベース(工藤・星住, 2006)を参考に、文献の追記を行った。
なお、噴出物量については、降下火砕物、火砕流、火砕サージ、溶岩流、溶岩ドーム等を加えた重量(単位は「ton」)またはマグマ噴出量(DRE km3)で記載しています。また、噴出物量が既知である場合については、産業技術総合研究所作成の活火山データベースから参照し、VEI(火山爆発指数)も付しています。詳しくはこちらを参照してください。
【引用文献】
1.気象庁(2018)第140回火山噴火予知連絡会資料(北海道立総合研究機構地質研究所)



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