Airbnbで相次ぐ差別 シェアリング・エコノミーに息づく闇

    そして、東京オリンピックは大丈夫?

    日本でも急成長する民泊仲介サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」。同社は9月8日、差別防止策を公開した。なぜ対応を迫られたのか?海外で浮上するシェアリング・エコノミーの深い闇とは。

    「俺はニガー(黒人の蔑称)は嫌いだ。だからお前の申込みは無効にする。ここは南部だよ、きみ。別の場所を見つけな。ニガー野郎」

    My friend and classmate here at Kellogg had a hateful and racist encounter with an @Airbnb host.

    シャニ・テイラーさんは5月31日、ケロッグ経営大学院MBAの同級生がこんな人種差別に遭ったとTwitterで明かした。

    憎悪に満ちたホストの言葉。SNS上で瞬く間に非難が高まった。Airbnbのブライアン・チェスキーCEOがツイートで釈明する事態に発展した。

    このホストを永遠に禁止した、という。

    The incident in NC was disturbing and unacceptable. Racism and discrimination have no place on Airbnb. We have permanently banned this host.

    Airbnb報道担当のニック・パパス氏はBuzzFeed Newsの取材に「このような言動は受け入れられない。我々の方針にも我々が信じるものにも反する。安心して過ごせる部屋の用意といったサポートをするため、ゲストに連絡した」と話した

    訴訟も

    Airbnbのホストによる黒人差別問題は根深い。

    グレゴリー・セルデンさんも5月4日、Airbnbで遭った差別をTwitterで暴露した。

    フィラデルフィアのある部屋を予約しようとしたセルデンさん。だが、ホストに「空きがない」と断られた。そこでこんな実験をしてみることにした。

    「トッド」「ジェシー」という名前の白人男性のフェイクアカウントをつくって、同じホストに空き状況を聞いた。すると「予約できる」と返事。

    #AirbnbWhileBlack made a fake profile as a white guy and was accepted immediately.

    公民権法と公正住宅法に違反するとして、セルデンさんはAirbnbを訴えた

    SNSで問題提起

    セルデンさんが使った#AirbnbWhileBlack(黒人がAirbnbを使うとき)というハッシュタグは昨年7月、カーティナ・クリテンデンさんが始めた自身も差別を経験した黒人女性だ。

    #AirbnbWhileBlackを使って、差別が次々と報告されている。

    「プロフィール写真で陸軍の制服を着ている。退役軍人なら差別されることが少ないから」

    「空き表示が出ているのに、予約の問い合わせをしても返事をもらえないことばかり。『差別的』シェアリング・エコノミー」

    代替サイトを起業

    起業家ローハン・ギルクスさんも5月13日、人種差別エピソードをImgurに投稿した。

    My #airbnbwhileblack story: https://t.co/6sqd0TGs5E on @Medium

    ギルクスさんはアイダホ州の友人を訪ねるため、7月1〜5日に友人宅近くの部屋を申し込んだ。だが、満室だと断られてしまう。友人は6月でもいいというので、別日程で予約しようとしたところ、これも断られた。

    不審に思ったギルクスさん。白人の友人に同じ予約を頼んだ。すると「予約可能」という返事をもらえた。

    これで終わらないのが起業家。「Innclusive」という民泊仲介サイトを立ち上げた。「Inn=宿」と「inclusive=多様性の受け入れ」を掛け合わせている。

    In Airbnb's discrimination stumbles, start-ups see an opportunity: https://t.co/VR12vBWbCP #crazymediaday

    ギルクスさんはBuzzFeed Newsの取材に「投稿が注目されて初めてAirbnbから電話があった。Airbnbの対応が早ければ、ここまで至らなかった」などと説明する

    相次ぐ起業

    ラッパーで起業家のステファン・グラントさんも昨年10月、音楽フェスの出演のため、Airbnbを使ってジョージア州の部屋を借りたこぎれいな離れの建物だった。

    庭でフェスの準備をしていると、パトカーがやってきた。「近所の人が俺たちを強盗だと思ったようだぜ」とグラントさんは動画ツイート

    最後には「確認」という名目で勝手に部屋に入ってくる白人まで現れた。

    4. Random neighbor just opens the door on us lol 😭

    ホストが差別したわけではない。だが、この経験を契機に、黒人がもっと安心して旅行できるようにグラントさんは民泊仲介サイト「Noirbnb」を始めることにした。Noirは仏語で「黒」を意味する。

    Since our announcement last month, @Noirbnb is all I've been focused on. Now we're accepting listings! Sign up! 🔑✈️

    差別を暴く論文

    「Airbnbで、黒人特有の名前のゲストは、白人に比べて、16%ほど予約申込みを受け入れられる確率が低い」

    こんな計量経済学の論文を1月、ハーバード経営大学院の准教授らが発表した。

    論文の実験では、名前以外は条件が同じ架空アカウントを20人分作った。黒人と白人に特有の名前が10人ずつで、プロフィール写真は載せなかった。

    全米5都市の約6400部屋で、この架空ゲストたちが予約申し込みをして、受け入れられるかを調べた。結果、黒人が受け入れられたのは42%、白人は50%。差は8パーセンテージポイント、つまり16%あった。

    筆者らは「差別は、より規制されているオフライン市場では減ったが、オンライン市場では逆に現れ、続いている」「Airbnbの設計は広範囲な差別を可能にしてしまう」と指摘する。

    オンラインプラットフォームはデータ分析で差別を見つけやすいはずで、特性を生かした監査をすべきだと提案する。

    差別を許すビジネスモデル

    Airbnbで差別防止が難しいのは、そのビジネスモデルに要因がある。ホストはAirbnbの社員ではない。もちろん米公正住宅法はこうした差別から消費者を守るためにある。だが、ビジネスではなく、個人の行動にどう適用するか。課題が残る。

    LGBT差別

    差別は人種に限られない。

    バディー・フィッシャーさん(写真左)はゲイ。8月にテキサス州で開かれるLGBTパレードに参加するため、Airbnbで部屋を予約しようとした。

    だが、部屋のホストからはこんな返事。

    「LGBTの人はお断り。人類の敵は支持しません。すいませんね」

    フィッシャーさんはBuzzFeed Newsに「こんなあからさまな差別を受けたのは初めて」と明かした。Airbnbに勤める友人を通じて報告すると、同社から「このホストはブロックした」と謝罪されたという

    「13歳の息子を不安にさせたくない」。こんな理由で、トランスジェンダーのシャディ・ペトスキーさんもAirbnbでの宿泊を拒否された。「ホテルの方が安心できます。規制があるから、問題は起きないでしょう」とBuzzFeed Newsに話す。

    シェア・エコノミーと差別

    差別はAirbnbにとどまらない。シェアリング・エコノミー共通の問題だ。オーストラリアのUberで6月4日、レズビアンのカップルが運転手から差別発言を浴び、脅される事件が起きた

    ルーシー・トーマスさんはパートナーと食事から帰宅しようと、Uberに乗った。

    車中、運転手が「ホモ」と暴言を吐き続け、自宅前に到着してもドアを閉じたまま。トーマスさんはBuzzFeed Newsに「非常に怖かった」と話す。最後に運転手はドアを開け、降りなければ引きずり下ろすと脅した。

    トーマスさんは録音した会話をツイートして問題を指摘した。Uberの広報はBuzzFeed Newsに「運転手の登録を抹消した」と話した。

    運転手はUberの社員ではない。Uberは客と運転手を仲介するIT企業だ。

    Airbnbは差別防止策を発表

    AirbnbのチェスキーCEOは9月8日、「問題への対処が遅かった。申し訳ない」と謝罪。外部識者に頼んだ32ページの差別対策レポートを発表した。

    例えば、10月から「Open Doors(オープンドア)」を始める。差別のため予約ができなかったユーザーに、代わりの部屋を探して案内するサービスだ。

    2017年1月までに、ホストの承認なしにその場で予約できる「今すぐ予約」機能も100万件まで広げる。

    疑問視する声も

    だが、この防止策への批判もある。

    自身も起業家で旅行関連のサイトを立ち上げたジョア・スピアマンさんは「個人的に何度も差別に遭った。『今すぐ予約』でも1回はあった」と指摘した

    「ジョアというアフリカ系の名前で、アフロヘアと濃い肌色のプロフィール写真なので、なぜ差別されるのかと驚きはしない」

    「『オープンドア』は、差別する可能性のあるホストを適正に制裁するのではなく、ゲストに白旗をあげてAirbnbの助けを得なさいと言っている。これでは『公正』の問題を『平等』にすり替えている」

    左が「平等」、右が「公正」。

    経済学者らも注文を付ける

    「差別の状況が社内のデータベース内に隠されたまま。外部から評価するのが難しい」

    「オンライン市場に現れた差別は、数十年に渡る規制や取締りによってオフライン市場で培ってきた成果を崩しつつある」

    差別経験なし?

    先の起業家スピアマンさんは、こんな指摘もしている。

    「白人男性らが起こした白人ばかりの企業なら『プロフィール写真が表すのはユーザーのアイデンティティの一部だけだ』という考えに陥りやすいでしょう。なぜなら、あなたたちは、写真が必要なプラットフォームで起こる巧妙な人種差別や蔑視を経験することは少ないでしょうから」

    ソフトウェアエンジニアのレスリー・マイリーさんも同様の指摘をする。マイリーさんは黒人でTwitterを辞め、Slackに移った。

    「Twitterが嫌がらせに対処するのがヘタだったのは、Twitterを設計し、立ち上げた人たちは嫌がらせを受けたことがないからです。これはAirbnbにも当てはまると思います」

    Twitterのジャック・ドーシーCEOは白人男性。同社管理職の72%が白人、78%が男性だ。

    東京五輪 日本は?

    東京五輪を4年後に控えた日本。日本のAirbnbは2015年、外国人130万人が利用したという。田邉泰之・代表取締役は9月15日、記者らを前に「前年比5倍、伸び率は世界一です」と胸を張った。

    差別対策はどうしているのだろうか? BuzzFeed Newsの取材に広報がメールで答えた。

    「我々は世界中の全てのホストに対し、あらゆる人々へ敬意と平等の精神を持っておもてなしをしていただくことを期待しています。日本では差別は非常に稀ですが、日本のコミュニティとも連携していく予定です」