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HPVワクチン薬害主張の論文撤回に反論 筆者らが会見「実験手法に問題はない」

研究者から批判されている点について、明確な説明はなかった。

HPVワクチンの薬害仮説「HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)」の仕組みを明らかにするとされたマウス実験の論文が掲載誌から撤回された問題で、筆者らが22日、反論会見を開いた。

マウスの実験デザインに深く関わった横浜市立大学名誉教授の黒岩義之氏らが、一方的な論文撤回だと不満を表明。「HANSの臨床実態を動物実験で再現するために行ったスタンダードな方法であり、問題はない」と述べた。

ただ、欠陥があると研究者から批判されているデータの解釈や図表の問題点については、「動物実験の限界」「あとでデータを確認する」などと述べるにとどまり、明確な説明はなされなかった。

【撤回を報じた記事はこちら】HPVワクチン薬害説を支える論文撤回 英科学誌が「不適切」と判断した2つの理由

撤回理由は不適切な実験手法

まず、会見に至る流れを振り返っておこう。

実験では、HPVワクチンと百日咳毒素を投与したマウスと対照群を比較した。投与したマウスでは、運動機能や反射の異常など神経学的な症状が観察され、脳の視床下部に損傷がみられたとしている。

これは「HANS」の症状と重なるとし、筆者らはこの実験データは、HPVワクチン接種で人がHANSを発症する可能性を示唆したと結論づけている。

この論文は2016年5月5日にサイエンティフィック・リポーツに投稿され、この分野に精通した第三者の研究者の評価(査読)を経た上で、2016年11月11日に掲載された。

ところが、世界中の研究者から実験手法や解釈の問題を指摘され、2018年5月11日に同誌は「大量のHPVワクチンと百日咳毒素の同時投与は、HPVワクチンが単独で神経学的な損傷を与えることを判定するためには適切な手法ではない」として、撤回を発表した。

筆者らは撤回に同意しておらず、会見で反論した。以上が一連の流れだ。

「通常の量では1万匹に投与しても反応が起きない」と反論

会見に出席したのは、黒岩氏の他に、HANS提唱者の難病治療研究振興財団理事長・西岡久寿樹氏、フジ虎ノ門整形外科病院小児難病リウマチセンター長の横田俊平氏ら5人。筆頭筆者の東京医科大学医学総合研究所講師・荒谷聡子氏と責任筆者の同研究所教授・中島利博氏は出席しなかった。

論文に対しては主に2つの疑義が示されていた。

  1. HPVワクチンが脳内に入って視床下部に与える影響を調べるのに、他の毒素も入れたらその影響を排除できない
  2. HPVワクチンの成分が問題ではなく、濃度が濃過ぎるから異常が起きた可能性を否定できない


これに対し黒岩氏らは「HANSはおそらく視床下部に病変がある自己免疫性の脳症だと臨床的に言えるため、そのモデル動物を作るために条件を揃えた」と説明した。その上でこう語った。

「実験に使ったHPVワクチンは人に通常使う量の約54倍だが、製薬会社の毒性試験で使った量を参考にそこからさらに3割減らして使っており過剰とは言えない。HANSの頻度は1000人に一人ぐらいの稀な病態であり、通常のHPVワクチン投与量では1万匹のマウスに投与しても何も起きないだろう。動物実験なので、まず病変が起こりやすい条件を作ることが必要だった」

つまり、筆者らが普段、臨床で診ているという「HANS」の病態に近いマウスモデルを作るために、「免疫感受性の高いマウスを使い、かつ百日咳毒素で脳に薬液が入りやすいように脳血液関門を緩めた状態で、臨床の54倍の投与量を用いて、反応が増幅された状態で観察した」と説明した。

だが、その特殊な条件を積み重ねて観察したマウスの状態が、なぜ通常量しか接種しない人間の女性の症状と重ねられるのかという根本的な問いに対しては、「動物実験の限界」と述べるに止まった。

また、黒岩氏らは、百日咳毒素で人工的に脳の関門を開いたのと同様に、「HANS」を発症する女性は脳の関門が弱く薬剤が入りやすい特徴を持つと推測したが、「そのリスクの見分けかたや原因はわからない」と曖昧な説明に終始した。

実験手法、病理写真の不備などは?

マウス実験では、薬剤の影響判定にバイアスをかけないようにするために、どの薬剤をうったかはマウスの病理学検査をする研究者にはわからないようにするのが基本だ。論文にはそのような手法を用いたかについては触れられていないが、「病理学の教授がどの薬液を投与したのかはわからない状態で評価した」と答えた。

さらに、脳に損傷があったと裏付けるために論文に掲載している脳の病理画像は異常があったように見えないと複数の研究者から指摘されている点について、「担当した教授にあとで確認する」として会見の場では答えられなかった。

査読、撤回までの手続きの問題は?

一方、この論文については、論文掲載の可否を事前に評価する査読の甘さや撤回の経緯の不透明さも指摘されている。

西岡氏らによると、査読者は3人で、筆者らが推薦した人物ではなかった。

投稿後、査読者からは実験マウスの数を増やすことなどを指示され、追加試験の結果を加えた上で2016年10月24日に掲載が決まった。

同年11月11日に掲載されたが、世界中の研究者から論文の不備について指摘が寄せられた。

これを受けて、翌月、サイエンティフィック・リポーツ編集部から、脳に異常が起きたことを裏付けるために、脳室の縮小を示す具体的な数値や脳細胞のアポトーシス(細胞の自死)の数などを示すようにコメントが寄せられ、全てに回答した。

そのデータを追加した訂正論文に差し替える提案に同意したが、訂正論文は掲載されないまま昨年9月2日に突然、編集部から撤回の提案があったという。筆者ら全員が論文撤回に同意しない旨を伝えたが、5月11日に撤回が公表された。

黒岩氏は「訂正論文を出すと合意していたのに、一方的な撤回の決定は不満だ」と話し、西岡氏らは「向こうに撤回の権利がある以上、抗議しても意味がないので別の論文誌に再投稿して日の目を見るようにしたい」と話している。

論文の欠陥を指摘し、撤回の要求を同誌に送っていた研究者グループの一人、北海道大学産婦人科特任講師のシャロン・ハンリー氏は会見の説明を聞いて、以下のようにコメントした。

「百日咳毒素で脳血液関門を人工的に開いて起きた症状は、HP Vワクチン接種後に少女に起きたことを説明したことにはならない。会見で筆者らは実験手法を正当化する説明はできていなかった。そもそも毒性試験はワクチンの開発の最初の段階で行われており、このような症状が出ないことは既に明らかになっている」

「肝心なのは、HPVワクチンがこれらの症状を引き起こしたかどうかだ。残念ながら、この会見や彼らの論文ではそれは示されず、会見でも事例紹介ばかりに終始していたようだ」

【撤回を報じた記事はこちら】HPVワクチン薬害説を支える論文撤回 英科学誌が「不適切」と判断した2つの理由