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「ワクチンを打つと入院確率が3倍になるとWHOが認めた」鳩山元首相のツイートを専門家が否定。河野太郎氏は「ワクチンデマ」と批判

拡散しているのは鳩山由紀夫・元首相のツイート。しかしWHOはこうした発表を一切しておらず、イギリスからの報告などでは、むしろ、3回目接種においては「打った人のほうが打たない人よりも3倍以上入院する確率が『低い』」ことが明らかになっている。

鳩山由紀夫元首相がTwitter上で、医師に聞いた話として、「WHOがワクチンを打った人の方が打たない人より3倍入院する確率が高いことを認めた」という情報を発信した。

しかし、これは誤った情報だ。WHOはこうした発表を一切しておらず、イギリスからの報告などでは、むしろ、3回目接種においては「打った人のほうが打たない人よりも3倍以上入院する確率が『低い』」ことが明らかになっている。

同じツイートで鳩山氏は「ファイザーは大量のデータを削除」ともしているが、これも根拠不明だ。BuzzFeed Newsが専門家グループ「こびナビ」とファクトチェックを実施した。

拡散しているのは、鳩山元首相の7月13日の以下のようなツイートだ。

白澤卓二先生のお話を聞いて驚愕した。WHOがワクチンを打った人の方が打たない人より3倍入院する確率が高いことを認めたとのこと。ファイザーは大量のデータを消したとの内部告発も発表された。今までワクチン利権は聞いていたが、陰謀論と切り捨てられるようなものではないことが明らかになった。

ツイートは2万7000リツイート、5万いいねを集める(8月12日現在)など、拡散。中国の駐大阪総領事も「アメリカ産ワクチンは最初から怪しかった」などと引用リツイートし、反応するなど注目を集めた。

しかし、WHOが「ワクチンを打った人の方が打たない人より3倍入院する確率が高いことを認めた」内容の発表はなく、ファイザー社における「大量データ削除」という内部告発に関する大手メディアの記事なども存在しない。

こうしたことから、発信内容を疑問視する指摘が相次いだ。元ワクチン担当相の河野太郎・デジタル相も「元首相がワクチンデマを流していた。いったい何が起きたんだろう」とツイートしている。

いったい、どのような根拠に基づいた発信なのか。BuzzFeed Newsは鳩山氏とツイートで名前に言及があった白澤卓二医師に、2つの情報の根拠や見解を取材した。

鳩山氏は「WHOのHP、2022.6.1付けのBreakNewsをご参照下さい。白澤先生にも確認済です」とだけメールで回答。

しかしBuzzFeed Newsが確認した範囲で、WHOサイト上には、そのような資料は存在しなかった。Webアーカイブを検索してもそのようなページがあった形跡はない。そこで、追加で文書の題名やURLなどを問い合わせたが、回答は得られていない。

一方、白澤医師側からは「お引き受けの方向で検討をいたしておりましたが、現在、診療が立て込んでおりますため、あいにく叶わぬ状況でございます」と返答があった。

専門家の見解は正反対

実際、鳩山氏が指摘するような情報や、それに近い情報はあるのだろうか。

日米の専門家でつくるプロジェクト「こびナビ」はBuzzFeed Newsの取材に対し、まず「入院確率が3倍になる」という言説について「鳩山氏のツイート内容のような事実は認知しておりません」と回答。

「ワクチンをうった人とうたない人とで入院するリスクがどのように変化するか、これは世界中から、信頼できる研究報告がなされています」としたうえで、実際は「真逆」のデータが存在するとも指摘した。

「英国からの報告では、ワクチンの入院予防効果は、3回目接種から105日以降で、18~64歳で70%程度、65歳以上で80%強であることが明らかになっています。つまり、『うった人の方がうたない人より3倍以上入院する確率が低い』のが事実です」

未接種者と3回接種者を比べたときに、70〜80%の入院を予防できるということは、逆に20〜30%の入院は予防できていないことではある。つまり、接種したほうが「3倍以上入院する確率が『低い』」という結論を導き出すことができるということだ。

ここで言及されている英国保健安全保障庁の調査や、医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文によると、オミクロンに対する効果や、小児においても同様の結果が出ているという。

「3回目接種後の入院予防効果は、オミクロンBA.1とBA.2に対しても70%以上保たれていたことが報告されています。また、5-11歳の小児においても、ワクチン2回接種による重症化予防効果は82.7%であることが報告されています」

「疫学調査などの結果を見て、その研究デザインや、結果の数字が持つ意味を理解せずに『単純な比較』などをして、ワクチンを接種した人の方が接種していない人よりも感染しやすい、入院しやすいといった誤った解釈をする人がいます。特に、感染症に関する疫学データの正しい理解には専門的な知識と訓練が求められるため、素人解釈には注意が必要です」

内部告発は存在するのか?

鳩山氏のツイートには「ファイザーは大量のデータを消したとの内部告発も発表された」とする内容も含まれている。

しかし、こうした内部告発について、報道機関の記事データベース「G-search」などで調べても大手メディアの報道は見当たらない。こびナビの専門家も「我々の知る限り存在しません」としている。

ファイザー社をめぐっては医学雑誌『BMJ』に2021年11月、内部告発が掲載されている。これは同社の「データの大量削除」に関するものではなく、ワクチンの治験を実際に運用したVentavia社の問題点を示したものだ。

「具体的には、スタッフが治験参加者の体調変化の観察を怠っていた、プロトコルに逸脱があったのが適切に報告されていなかった、ワクチンの温度が適切に管理されていなかったなどです」

「治験の管理に一部問題があったことは事実であるものの、現時点でファイザー社のワクチンの有効性、安全性、品質に特段の懸念が生じるものではありません」

こびナビの専門家はこう述べたうえで、ワクチンが米国FDAや日本のPMDAによって治験データの信頼性を確認したうえで審査・承認され、その後世界中で使用されるなかで有効性や安全性が改めて確認されていると指摘した。

なお、ファイザー社の日本法人はBuzzFeed Newsの取材に、「データの大量削除」に関する鳩山氏のツイートを把握しているとし、「ワクチンに関する公開可能な情報については、最新のプレスリリース内にて公表しております」「FDAが公表していること以上にお応えすることはいたしかねます」とだけコメントした。

「情報の正確性に注意を」

ワクチンをめぐっては、当初から有効性や安全性(言及の仕方によっては危険性)をめぐるさまざまな誤情報が拡散してきた。

そういった言説に対して科学的に正確な情報発信に務めてきた「こびナビ」の専門家は、鳩山氏の今回のような発信について、以下のように見解を示した。

「国民の命・健康と生活に関わる情報については特に、情報の真偽と発信が及ぼす影響について、発信者も十分に注意することが大切であり、元首相のように影響の大きな人物は自らの発する情報の正確性には十分注意してほしいと思います」

「情報ソースも重要であり、信頼性の低い情報源や意図を持った情報提供者などは避けていただき、特に、専門家の共通認識や通説と異なる言説を主張する場合には、複数の専門家からのアドバイスを受け、明確な根拠を提示し、何重にも慎重に発信することをお願いしたいと思います」


監修:こびナビ事務局長・黑川友哉、副代表・木下喬弘、代表・岡田玲緒奈


BuzzFeedは新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。関連記事は特集ページから。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

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  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。