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東電HDの原子力事業分社化も選択肢、他社との協業で収益力強化

  • 福島第一の廃炉費用は年数千億規模に拡大も-従来800億円
  • 国民負担でなく東電改革でねん出するのが望ましい:伊藤委員長

経済産業省は25日、東京電力ホールディングスの経営改革の在り方を議論する「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)を開催し、福島第一原子力発電所関連以外の原発事業を持ち株会社から分社化することを提案した。会合に出席した各委員は、他社との協業によって収益力を強化する案も選択肢の一つとの考えで一致した。

  同委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院商学研究科特任教授)は会合後、記者団に対し「原子力事業を切り出す選択肢があると各委員で確認した」と話した。柏崎刈羽原発を中心とする東電の原発事業で他社との協業を考える場合、膨らむ廃炉や賠償の費用をまかなうために、他社と共同出資する会社からどの程度資金を吸い上げるか整理する必要があるとの考えを示した。

  東電HDは7月に発表した経営方針で、原発の安全性や生産性向上に向けて積極的なアライアンス体制を構築するとの考えを示していた。このときの資料には「グループ内子会社再編は当然のこと、原子力事業者間の提携も視野に入れて体制再構築を図る」と明記しており、今回の東電委での議論をこれを踏まえたものになる。

  委員会で配布された資料では、デブリと呼ばれる溶け落ちて堆積した燃料の取り出し費用が増加していることから、現在は年800億円程度と見積もっている福島第一原発の廃炉費用が、年数千億円程度に膨らむ可能性があることも示された。伊藤氏は「国民負担を増やすのではなく、費用負担を上回る東電改革益でねん出するのが望ましい」と述べ、国民負担に頼らない制度の設計を政府に求めた。また費用増加後も原発は安価な電源とみなすことができるかを再検証するよう指示した。

JERAの利益、配当か投資か

  伊藤氏が指示した制度設計は、廃炉費用がどの程度膨らむか、改革によって東電HDがどの程度利益を生み出せるかに左右される。

  例えば、先行して中部電力と共同で設立した火力燃料調達会社JERA(ジェラ)は、統合による競争力の強化で純利益を2016年度の200億円から30年度には14倍の2800億円に拡大する目標を掲げている。伊藤氏は、JERAの利益のどの程度を親会社への配当と成長のための投資に配分するのかについては、同社の競争力を削がないようなバランスを検討する必要があると述べた。JERAの新規株式公開(IPO)による資金回収についても「将来そういった道もあり得る」と述べた。

  JERA広報担当の澤木敦生氏は同社発足時から売り込み案件が多く「市況環境も弱いので優良な投資機会が沢山ある」とし、同社の資金需要は高くなるとの見通しを示した。投資による企業価値向上が重要との考えから「資金需要が一巡した後に配当を開始したい」と述べた。

  原発の発電コストについては経産省が14年に1キロワット時当たり10.1円と、他の電源に比べて安いとの試算結果をまとめている。事故対応費用が1兆円増えても発電コストに与える影響は同0.1円以下にとどまり、原発の優位性は保たれる。

  一方で、新規制基準への対応や司法判断などで原発の再稼働に時間がかかっており、原発事故以降の稼働率は想定の70%に達していない。経産省電力ガス事業部の畠山陽二郎政策課長は、「稼働率をどう置くのかは難しい議論」と述べ、発電コスト再検証時に現状の稼働率を反映するのかについての明言を避けた。
  

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