米上院の弾劾裁判はどういう仕組み トランプ氏に弾劾決議

Composite image of Chuck Schumer, Donald Trump and Mitch McConnell

画像提供, Getty Images

画像説明, 民主党のチャック・シューマー上院院内総務(左)と、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(左)が、弾劾裁判の中心的役割を果たす

米下院本会議の弾劾決議可決を受けて、ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾手続きは、上院へと舞台を移すことになった。そこではどういう顔ぶれが中心となり、どういう展開が予想されるのか。

個人的利益のために来年の大統領選に外国政府の介入を招いたとして権力乱用があったと、野党・民主党が多数を占める下院に認定され、かつその権力乱用についての下院調査を妨害したとして議会妨害についても弾劾訴追されたトランプ氏を、与党・共和党が多数占める上院はどう裁くのか。

トランプ氏は自分は何も問題になる行動はしていないと反論し、弾劾調査を「やらせ」の「魔女狩り」だと罵倒している。18日の下院本会議で次々に弾劾に反対して発言した共和党の下院議員たちも、口々に弾劾は「トランプ外しの結論ありき」の民主党による「やらせ」の「いかさま」だと非難した。

<関連記事>

なぜ弾劾裁判に至ったのか

合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。

憲法の第1条第2節第5項は、下院が「弾劾の権限を専有する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

これを受けて下院は18日、権力乱用と議会妨害の2項目について大統領を弾劾訴追した。

下院民主党による弾劾調査は、情報機関の匿名告発者が今年9月に、トランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告したことを機に始まった

ホワイトハウスが公表した通話記録によると、トランプ氏は7月25日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話で、来年の大統領選で対立候補になるかもしれない民主党のジョー・バイデン前副大統領とその息子について捜査するよう働きかけていた。

民主党が進めた調査で複数の関係者が証言したところによると、トランプ氏は政敵に対する捜査要求と引き換えに、すでに米議会が承認していたウクライナへの軍事援助4億ドルの凍結解除を提示したほか、ホワイトハウスでの首脳会談の実現を提示したとされている。下院本会議をこれを権力乱用と認めて、大統領を弾劾訴追した。

下院民主党が今年9月に、トランプ氏がウクライナ大統領に何を働きかけたのか調査を開始すると、トランプ氏はホワイトハウス関係者の証言を次々と阻止した。下院本会議はこれを、議会妨害と認めて、大統領を弾劾訴追した。

上院の弾劾権限とは

弾劾に関する合衆国憲法の規定はあいまいで、第1条第2節第5項では下院が「弾劾の権限を専有する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

そして、憲法は第1条第3節第6項で、「上院はすべての弾劾を審判する権限を専有する」と規定している。さらに同項は、「合衆国大統領が審判される場合には、最高裁判所長官が議長となる。何人といえども、出席議員の3分の2の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない」とも定めている。

1868年2月に始まった当時のアンドリュー・ジョンソン大統領に対するものがアメリカ建国史上、大統領への初の弾劾裁判となり、この時に定まった手続きがその後も総則として引き継がれている。しかし、究極的には、今回の弾劾裁判で証拠や証人をどう扱うか、審理の期間や弁論をどうするかなどを決めるのは、共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務と、民主党のチャック・シューマー上院院内総務ということになる。

多数党の上院トップとして、最終的な決定権はマコネル議員にある。しかし、民主党が共和党穏健派に同調を求めて働きかけることに成功すれば、マコネル氏の選択肢は限られる可能性もある。

マコネル氏は下院採決に先立ち、フォックス・ニュースで自分は弾劾裁判において中立に行動しない、できる限りホワイトハウスと連携・協調すると言明し、民主党から強く批判されている。

裁判手続きの変更はどの段階でも可能で、過半数の支持が得られれば認められる。裁判では、下院やホワイトハウスから検事や弁護人として代表がそれぞれ出席するほか、認められれば証人も出席し、発言する。その後、上院は丸1日かけて審理し、有罪を認めるか採決する。

最終的な有罪判断には上院3分の2の賛成が必要。現在の上院は定数100議席のうち、53対47で共和党が多数を占めるため、トランプ氏は無罪となる可能性が極めて高いとみられている。

動画説明, ビギナー向けに解説 弾劾調査とトランプ氏

キーパーソンは

憲法は、「大統領が審判される場合には、最高裁判所長官が議長となる」と定めているため、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官がこれにあたる。しかし、実質的には上院議員が判事と陪審員を兼ねることになる。

ロバーツ長官は、弾劾裁判の進行があらかじめ決まった手続きに従うよう采配するのが主な役目だ。しかし、最終的な採決が同数タイになった場合はロバーツ長官が決定権を持つ。

民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、下院から検事役として民主党議員団を選任する。この下院議員たちが「弾劾管理人」として、上院で弾劾の「起訴事実」を弁論する。米メディアは、この下院議員団には弾劾調査を主導した情報委員会のアダム・シフ委員長や、司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長が含まれるのが通例だと伝えている。

1998年に当時のビル・クリントン大統領(民主党)について下院が弾劾決議を可決した後、当時は野党で下院多数党だった共和党は、13人の「弾劾管理人」を上院の弾劾裁判に送りこんだ。現在、トランプ氏を強烈に擁護しているリンジー・グレアム上院議員も、その1人だった。

上院議員は質問できるのか

上院議員は証人や弁護人に質問できるが、質問内容はロバーツ長官に書面で提出しなくてはならない。

証人は、上院本会議の審理に出席するとは限らない。上院のいずれかの委員会を前に証言した際の録画が、弾劾裁判中に再生されることもあり得る。

民主党は、複数のホワイトハウス関係者の証言を要求している。ミック・マルヴェイニー大統領首席補佐官代行や、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)などだ。

しかし、共和党が即決裁判で済まそうとした場合、証人なしで審理を終える可能性もある。ただし、トランプ氏自身は、バイデン前副大統領と、そもそも自分について告発した情報機関関係者の出廷を要求している。

マコネル院内総務は17日に上院本会議で、弾劾裁判における上院の役割は「判事および陪審員として審理を聞くことであり、事実関係の調査を一からやり直すことではない」と発言し、スピード採決につなげたい意向を示した。

「検察側の証人リストをどうしようか、陪審員がブレーンストーミングを始める必要はない」とマコネル氏は述べた。

クリントン元大統領の弾劾裁判では、証人は出席しなかった。

トランプ氏は証言するのか

トランプ氏が自ら上院本会議の審理に出席するのは、本人が望めば可能だ。しかし実際には、ホワイトハウスのパット・シポローニ法律顧問が代弁者になる可能性が高い。

シポローニ顧問は、民主党の弾劾管理人と同様、証人を尋問し、冒頭陳述と最終弁論の機会が与えられる。

米報道によると、トランプ氏は下院の弾劾調査で自分を擁護し続けた共和党のジム・ジョーダン議員(オハイオ州)やジョン・ラトクリフ議員(テキサス州)を弁護団として、上院に送り込む可能性もある。

バイデン親子は証言するのか

それは、マコネル上院院内総務がどのような形式を選ぶかによる。トランプ大統領はバイデン親子の出廷と証言を要求しているが、共和党内ではそうすべきかどうか議論が続いているという。

バイデン前副大統領は、トランプ氏の要求は自分にかけられた疑いから「世間の目をそらす」ためだと反発。米公共ラジオNPRに対して、「これはいかにもトランプ流のやり口だ」と述べ、「大事なことから目を逸らさせる」ための戦術には応じないと話した。

いつまでかかるのか

下院が弾劾決議を上院に上程した後、上院は日曜を除き最終採決まで毎日、本会議で審理しなくてはならない。

ペロシ下院議長がいつ決議を上院に送るのか、様々な観測が飛び交っているが、民主党のシューマー上院院内総務は仮の日程表を明らかにし、審理には126時間かかるだろうと見通しを示している。

それによると、次のような進行になる。

12月18日――下院が弾劾決議を可決

1月6日――上院の弾劾裁判開始。審理の手続きについてルールなどを最終決定

1月7日――上院議員が陪審員として宣誓。ロバーツ最高裁長官が議長として宣誓

1月9日――検察役の下院議員とホワイトハウス弁護団が、それぞれ24時間以内に陳述を提出

弾劾裁判は数週間かかる見通しだが、実際にどれだけかかるかは不透明だ。2020年大統領選の民主党予備選が2月上旬に始まるため、民主党としてはそれまでに終わらせたい考えだ。