紅海で船舶に「最大規模の攻撃」、米英軍がフーシ派ミサイルなど撃墜 軍事行動を示唆

シー・ヴァイパー対空ミサイルを発射するイギリス海軍の駆逐艦「ダイヤモンド」の画像(英国防省提供)

画像提供, UK Ministry of Defence

画像説明, シー・ヴァイパー対空ミサイルを発射するイギリス海軍の駆逐艦「ダイヤモンド」の画像(英国防省提供)

イエメンの武装組織フーシ派による船舶への攻撃が続いている紅海で9日夜、米英軍がドローン(無人機)18機と複数のミサイルを撃墜した。米英軍はフーシ派が紅海の海運に対して過去最大規模の攻撃を仕掛けたとし、両国が軍事行動に出る可能性を示唆した。

米中央軍の発表によると、現地時間9日午後9時15分ごろ、イエメンのフーシ派支配地域からイラン製の一方向攻撃ドローンと対艦巡航ミサイル、対艦弾道ミサイルが発射された。

米海軍の航空母艦「アイゼンハワー」から発進した戦闘機や、米海軍のミサイル駆逐艦「グレーヴリー」、「ラブーン」、「メイソン」、英海軍の駆逐艦「ダイヤモンド」が対応し、無人機18機と対艦巡航ミサイル2発、対艦弾道ミサイル1発を撃墜したという。

英駆逐艦「ダイヤモンド」はシー・ヴァイパー対空ミサイル」などで無人機7機を撃墜したと、防衛当局筋は述べた。

負傷者や被害は報告されていない。

フーシ派による紅海上での商船への攻撃は、昨年11月19日以降で26回目。

米中央軍は、フーシ派のこのような攻撃には「結果」が伴うと警告した。イギリスのグラント・シャップス国防相は、フーシ派が拠点とするイエメンで攻撃を行う可能性について問われると、「今後にご注目を」と答えた。

イスラエル支援の米船舶を狙ったと

フーシ派はイランから支援を受けている。イランが同様に支援するイスラム組織ハマスとイスラエルがガザ地区で戦争状態にあるため、フーシ派はイスラエルと関係のある船を紅海で標的にしていると繰り返し主張している。

9日の攻撃についてフーシ派は、イスラエルに支援を提供するアメリカの船を狙ったとしている。

フーシ派の報道官ヤフヤ・アル・サレア氏は、「大量の弾道ミサイルと海上用ミサイル、ドローン」を使った作戦を実行したことを認めた。

「シオニスト国家(イスラエル)に支援を提供するアメリカの船舶を標的にしたものだ」

「この作戦は、アメリカの敵対勢力による我が海軍部隊に対する不誠実な攻撃への初動対応として実施された」と、同報道官は付け加えた。これは、米海軍が昨年12月31日に、紅海でコンテナ船に乗り込もうとしたフーシ派のボート3隻を沈没させたことを指している。米海軍の攻撃でボートの乗組員は死亡した。

同報道官は、「我が国や市民、国家を防衛する正当な権利の一部として、すべての敵対的脅威に適切に対処することをためらわない」とも述べた。

また、フーシ派は(イスラエルによるガザ地区への)侵略行為が終わり、同地区の封鎖が解かれるまでは、紅海とアラビア海でイスラエル船や、イスラエル占領下のパレスチナ自治区に向かう船の航行を阻止」し続けると繰り返した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長の報道官は、こうした事態が国際貿易や環境、人命にもたらすリスクや、「中東におけるより広範な紛争のエスカレートを起こすリスク」を「非常に懸念している」と述べた。

国連安全保障理事会は10日、フーシ派による紅海の海運を標的とした攻撃の停止を求める決議案を採択した。

英海軍の駆逐艦「ダイヤモンド」(2020年10月14日撮影)

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画像説明, 英海軍の駆逐艦「ダイヤモンド」と米海軍の艦船3隻がフーシ派の無人機やミサイルを撃墜した。画像は駆逐艦「ダイヤモンド」(2020年10月14日撮影)

「必要な行動をとる」と英国防相

シャップス英国防相は10日朝の声明で、イギリスとその同盟国は、「これらの違法な攻撃は完全に容認できないものであり、これらが続くのであれば、フーシ派がその結果について責任を負うことになると、以前から明確にしている」と述べた。

そして、「我々は罪のない人々の命と世界経済を守るために、必要な行動をとる」と付け加えた。

シャップス氏はその後のテレビインタビューで、イランが「同地域で起きている大半の悪いことの背後にいる」とし、海運への攻撃をやめなければ「結果」が伴うと、イスラム共和国(イラン)とフーシ派に警告した。

イエメン国内のフーシ派の標的、あるいはイラン国内の標的に対して西側が軍事行動を起こす可能性はあるかと問われると、「詳細は言えないが、我々が発表した共同声明は、こうした攻撃が止まらなければ行動を起こすことになるという、非常に明確な道筋を示すものだ。そのため、私に言える最も簡単な言葉は、『今後にご注目を』ではないかと思う」と、シャップス氏は答えた。

アメリカは昨年12月に、同海域の海運保護のための「プロスペリティ・ガーディアン(繁栄の守護者)」作戦を開始した。これにはイギリス、アメリカ、オーストラリア、バーレーン、ベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ニュージーランド、韓国、シンガポールが参加しており、1週間前に声明を発表した。シャップス氏の発言はその声明に言及したもの。

参加国はフーシ派の攻撃について、「世界で最も重要な水路の一つにおける、国際貿易の基盤となっている航行の自由への直接的な脅威」だとしている。

紅海周辺の地図

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官も、今回の出来事を明確に非難した。

中東歴訪中のブリンケン氏はバーレーンの空港で記者団に応対した際、アメリカが行動を起こす時期に来ているのかと、BBCのアンソニー・ザーカー北米担当編集委員から問われた。

ブリンケン氏はアメリカの軍事行動を「予告」したくはないと答えつつ、この4日間、同地域での侵略行為をやめるようフーシ派に警告してきたと述べた。

フーシ派はこうした要求に応じないだけでなく、9日の攻撃は特にアメリカの船を標的にしたものだったと主張している。

ブリンケン氏は詳細は明かさなかったが、同氏がバーレーンで語った「結果」と「対応」という言葉が結果として軍事力の行使に結びつかないことは、ますます考えにくくなっていると、ザーカー北米担当編集委員は指摘する。

紅海はスエズ運河を経由して地中海とつながっている、欧州とアジアを結ぶ最短航路。国際海上貿易の15%近くが紅海を通過する。

紅海での攻撃により懸念されるのは、燃料価格の高騰とサプライチェーンへの影響だ。

国際海運会議所によると、現在は世界のコンテナ船の20%が紅海を避け、アフリカ南部から喜望峰を回るはるかに長い航路を使っている。