米バイデン政権、ロシアのガス管会社への制裁を解除

The Fortuna, pipe-laying ship working on the Nord Stream project

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画像説明, 海底パイプラインの建設作業に当たる船舶

アメリカ政府は、ロシアが欧州への天然ガス輸送に向けて建造しているパイプライン「ノルド・ストリーム2」の事業会社に対する経済制裁を解除した。国務省が19日に連邦議会に出した、対ロシア制裁に関する報告書で明らかになった。

また、この会社のマティアス・ワーニヒ最高経営責任者(CEO)に対する制裁も解除した。ワーニヒ氏は東ドイツ時代に情報機関職員だった経歴を持ち、ウラジミール・プーチン大統領とも親しいという。

ノルド・ストリーム2は、バルト海底を経由してロシア産天然ガスをドイツに直接運び込むもの。これまで天然ガスの経由地として利益を得ていたウクライナやポーランドを通過しないため、ロシアにとっては地政学的に有利となる一方、欧州の分断につながるとの指摘も出ている。

制裁解除が「アメリカの国益に」

国務省の報告書は、事業会社ノルド・ストリーム2・AGとワーニヒCEOが制裁に値する活動に関与していたと指摘した。その半面、制裁解除はアメリカの国益になると結論付けている。

一方で、パイプライン建設に携わった船舶4隻を新たに制裁対象とした。しかし、これでは建設を阻止するには不十分だとの指摘も出ている。

ジョー・バイデン大統領は、総事業費110億ドルとされるこの計画に反対していた。アンソニー・ブリンケン国務長官も就任前の公聴会で、ノルド・ストリーム2の完成を「あらゆる手を使って阻止する決意」を表明していた。

パイプラインは計画の95%がすでに完成している。

Nord Stream pipelines from Russia
画像説明, ノルド・ストリーム敷設計画 黄色い点線が、現在建設が進んでいるノルド・ストリーム2のパイプライン

各国の反応は?

19日にはブリンケン長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、アイスランドで開かれた北極評議会で会談した。

ラブロフ外相は、ロシアとアメリカには「大きな違い」があるとした上で、「利益が重なる分野では」協力すべきだと述べた。

ブリンケン長官は、バイデン大統領が「予測可能で安定した対ロ関係を望んでいる」と話した。

このほか、ロシア高官からは制裁解除が米ロの関係改善の一歩になると期待感を示す発言が相次いだ。

Anthony Blinken (left) and Sergei Lavrov, Reykjavik, 19 May 2021

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画像説明, アメリカのブリンケン国務長官(左)とロシアのラブロフ外相 (アイスランド、19日撮影)

ドイツ政府も、バイデン政権による「建設的な一歩」だとして、制裁解除を歓迎した。

ハイコ・マース外相は記者団に対し、「ドイツはアメリカの重要な、将来的にも信頼できるパートナーだという表明だ」と話した。

一方、ウクライナの国営ガス会社「ナフトガス」のユリイ・ウィトレンコCEOは、ノルド・ストリームはロシアの「最も危険な地政学的プロジェクト」だと批判。ウクライナ政府はアメリカに、制裁を再び科すよう求めるだろうと述べた。

アメリカでは与野党から批判

今回の決定についてアメリカでは、与党・民主党内からも批判が出ている。

連邦上院のボブ・メネンデス外交委員長は声明で、「政権はばんそうこうを引き剥がし、制裁解除を取りやめ、議会で決定された制裁と共に前進すべきだ」と述べた。

また、「きょうの決定が、ロシアの欧州侵略に対するアメリカの戦略にどのように寄与するのか」分からないと話した。

同委員会のジム・リーシュ委員(共和党)も、制裁解除は「プーチンへの手土産で、米ロ首脳会談におけるアメリカの立場を弱くするだけだ」と指摘した。

同じく共和党のマイケル・マコール上院議員も、「もしプーチン政権がこのパイプラインを完成させれば、それはバイデン政権が許したからだ」と述べた。

バイデン政権はかねて、ドナルド・トランプ前大統領の政策との違いを明確に示そうとしており、「ロシアの侵略的行為を前にして、やりたい放題を許す」ようなことはないと強調してる。

しかしアナリストらは、欧州の同盟国との友好関係を築くにあたり、ノルド・ストリーム2に関わるドイツとの関係を脅かしたくなかったのではないかとみている。

バイデン氏は今年1月の就任直後、気候変動対策のためとして、カナダとアメリカ間の「キーストーンXLパイプライン」の敷設に対する大統領の許可を取り消し、批判を浴びた。

このプロジェクトでは、数万人規模の雇用創出が見込まれていた。