イギリスにとって新時代始まる EU離脱完了

動画説明, イギリスがEUを完全に離脱 ビッグベンの鐘で記念

イギリスの欧州連合(EU)離脱が12月31日深夜に完了し、イギリスにとって新しい時代が始まった。

イギリスは31日午後11時(日本時間1月1日午前8時)をもってEU規則に従うのをやめ、移動や貿易、移民や安全保障の協力関係などに関するEUとの新しい協定が施行された。2016年6月の国民投票で52%がEU離脱を支持したことを機に始まった離脱プロセスが、1年間の移行期間を経て、これで完了した。

2016年の国民投票からブレグジット(イギリスのEU離脱)を推進してきたボリス・ジョンソン英首相は、イギリスが「自由を手にした」と祝い、国民投票から4年半をかけて完了した離脱プロセスが終了した今、イギリスは「EUの友人たちとは違うやり方が自由に選べるし、必要ならばもっと良いやり方ができるようになった」と強調した。

「私たちは自由を手にした。それを最大限に活用するのは、自分たち次第だ」と、ジョンソン首相は新年のあいさつで述べた。

英政府の交渉責任者だったデイヴィッド・フロスト男爵は、イギリスが「再び完全に独立した国になった」とツイートした。与党・保守党のベテラン下院議員、サー・ビル・キャッシュは、「国家主権と民主主義にとっての勝利だ」と喜んだ。

一方で、ブレグジット反対派はEU離脱によって加盟国だったころより国の状態は悪化すると批判。スコットランドを連合王国から分離独立させてEUに再加盟させたいスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相は、「ヨーロッパの皆さん、スコットランドはすぐに戻ります。明かりを消さないで」とツイートした。

エマニュエル・マクロン仏大統領は、イギリスは依然として「友人で同盟国」だと述べた。

イギリスとEUとの貿易や出入国管理の仕組みが変わったことを受けて、今後しばらくはEU域内と取引のある英企業は多少の混乱を経験するかもしれないと、複数の英閣僚が指摘している。

国境や港で物資の通関手続きが手間取り、行列ができるのではないかと懸念されているが、英政府は新しい出入国管理制度の準備は万端だと強調している。

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イギリスは今年1月31日に正式にEUを離脱したが、その後は移行期間として、貿易協定を交渉する間、EUの通商規則に沿って行動していた。FTAによって31日午後11時を最後に、イギリスはEUの単一市場と関税同盟を抜けるが、EUへの輸出で関税がかけられることはない。

移行期間の期限間際まで交渉が続いた自由貿易協定(FTA)は、12月24日に双方が合意。英議会は30日に協定関連法案を可決し、エリザベス女王がこれを裁可して成立した。

新しい貿易協定のもとで、イギリスとEUの間の輸出入は関税ゼロの状態が続く。ただし、国内総生産(GDP)の約8割をサービス産業が占めるイギリスにとって、金融サービスの扱いがまだ不明なため、イギリスからEU圏に移動する人や企業にとっては、事務手続きが増えることになる。

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<解説> ジェシカ・パーカーBBC政治担当編集委員

この瞬間を、非常に前向きに歓迎する人もいる。また、深く憂慮しながら迎える人もいる。

歴史的な変化ではあるものの、その影響がすぐさまはっきりと表れるかどうかは、分野によって異なるかもしれない。たとえば、新しい国境管理が始まる2021年1月1日には、ドーヴァー税関を通る交通量は比較的少ないはずだ。

それでも、かなりの変化が訪れる。貿易、移動、安全保障、移民などについて。

そして今のところは新型コロナウイルスによって社会の大部分が停止しているものの、今後はさらにEU離脱に伴う変化が目にしやすくなっていくかもしれない。

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<解説> カティヤ・アドラー欧州編集長

ブリュッセルでは、ブレグジットそのものを残念に思う気持ちは残るものの、ブレグジットのプロセスが終わったことへの安堵(あんど)がある。

欧州連合は基本的に、ブレグジットはEUとUKを共に弱くすると考えている。

しかしEU側は、今回の離脱は「イギリスよ、さらば」というよりはむしろ「またお会いしましょう」だと思っている。双方にとって、未定のことがあまりに多いからだ。

EUとイギリスはまだ、実務の具体的な詳細について協議する必要がある。たとえば、イギリスの金融サービスは単一市場に参入できるのか。気候変動対策ではどう協力するのか。さらに、今回の新しいFTA自体、5年ごとの再検討が条項として含まれている。

こうした諸々の理由があるため、EUはイギリスとのやりとりは当分終わらないと考えている。

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何が変わるのか

ブレグジット手続きの完了によって、さまざまな分野で影響が出る。その一部はたとえば―――、

  • イギリスとEU加盟国の間の自由な人の移動は終了した。代わりにイギリスは「ポイント制」移民受け入れ制度を導入した
  • イギリスからEUの大部分において、180日間のうち90日より多く滞在したい人は、査証(ビザ)がひつようとなる
  • 免税ショッピングは復活。EUからイギリスに帰国する人は最大で、ビール42リットル、ワイン18リットル、蒸留酒4リットル、たばこ200本を非課税で持ち帰ることができる
  • イギリス移住を希望するEU加盟国の市民(アイルランドを除く)は、世界の他地域の人と同様に、同じ「ポイント制」移民受け入れの対象となる
  • イギリスの警察は、犯罪記録や指紋、指名手配犯などに関するEU全域データベースへの即時アクセス権を失った
  • EU域内の企業と取引をするイングランド、スコットランド、ウェールズの輸出業者は、書類作業が増える

欧州大陸に輸出しているイギリス企業は、ただちに税関申告書を用意しなくてはならない。

一方、欧州大陸からイギリスに入る物品への検査は、今年7月までの6カ月間で段階的に導入される。ただし、酒、たばこ、化学品、規制医薬品についてはすでに、新しい通関手続きの実施が始まった。

イギリスとフランスをつなぐ英仏海峡トンネルを運営する「ユーロトンネル」のジョン・キーフ広報担当によると、イギリスの単一市場離脱に伴う最初の通関手続きは、よどみなく行われたと述べた。「何もかも、午後11時より前と同じように進行している。予想した通り、この時間はとてもとても静かで、トラックもほとんどいない」。

大きい変化はほかにも、イギリスとEUとの紛争調停に欧州司法裁判所が関与しなくなることなどがある。

またイギリスの海域で捕れる漁獲量のうち、イギリスの取り分は徐々に増えていく。

イギリスの他の地域とは異なり、北アイルランドは今後も引き続き、EU規則の多くに従うことになる。EU加盟国アイルランドと北アイルランドの地続きの国境は今後も、ほとんど目に見えない状態が継続する。

さらに英政府は12月30日、イギリスのオンライン小売業者は北アイルランドの利用者に小包を送る際、通関申告書を用意しなくても良いと発表した。

イギリスの備えは

EU離脱完了に伴う大変化に備えて、イギリス国内ではこの2週間、多くの業界が準備を急いできた。しかし、多くの中小企業はまだ十分に用意ができていないと懸念されている。

英政府はフランス、オランダ、ベルギーの各国政府と緊密に連携しながら、国境のインフラを整備してきた。政府報道官は、「国境に必要な仕組みやインフラは整った。イギリスの再出発に向けて準備万端だ」と述べた。

Lorries arriving at the Port of Dover

画像提供, EPA

必要な申告書類が不備な状態で物品を運び、ドーヴァー海峡を渡ろうとする車両は、追い返される恐れがある。また、英ケント州に入る許可のない重量7.5トン超の重量物運搬車(HGV)の運転手は罰金を受ける恐れがある。

パンデミックの影響で1月1日の交通量は通常より少なくなるものの、週明けの4日には増えて、新しい通関体制が試されることになると予想されている。

英政府によると、1月1日に海峡を渡りケント州に入る予定のHGV450台に、通行許可証を発行した。許可証がないままケントに入るHGVは罰金300ポンドの対象になるという。

一方で、イギリスとスペインの両政府は個別の取り決めで、英領ジブラルタルとスペインの間の国境は従来通り開かれた状態を維持すると合意した。