豪最高裁、ヴァチカン元高官に逆転無罪 児童性的虐待で服役中
オーストラリアの最高裁判所は7日、未成年者に対する性的暴行の罪に問われた、ローマ教皇庁前財務長官のジョージ・ペル枢機卿(78)に逆転無罪を言い渡した。収監されていたペル氏は釈放された。
ペル氏は、性的暴行で有罪判決を受けて収監されたカトリック教会の聖職者としては最高位だった。ローマ教皇の最側近の1人で、事件はカトリック教会を大きく揺るがした。
最高裁はこの日、下級審の有罪判決を破棄し、禁錮刑の即時中止を言い渡した。裁判官7人は全員一致で、陪審はすべての証拠を十分に検討しなかったと結論づけた。
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判決は、「陪審は証拠を全体的に合理的に取り扱ったが、上告人の有罪を疑うべきだった」とした。
オーストラリア国籍のペル氏は、2017年6月に警察により嫌疑がかけられて以降、無実を主張してきた。ペル氏はこの日、刑務所を出る前の声明で、「深刻な不正義の中でも一貫して無実を訴えてきた」と述べた。
「1人の証言に頼り過ぎ」
メルボルン地裁の陪審は2018年12月、ペル氏が1990年代半ばにメルボルンの聖パトリック大聖堂で聖歌隊の13歳の少年2人を性的に虐待したとして、有罪評決を出していた。1件の性器挿入と、4件のわいせつ行為などがあったとした。
同地裁は昨年3月、6年の禁錮刑を言い渡した。
裁判では、被害を訴えた1人が法廷で証言したほか、数十人が証拠を提供した。被害者とされたもう1人は2014年、薬物の過剰摂取で亡くなっている。
ペル氏は、陪審は1人の証言を重視し過ぎだと主張。ヴィクトリア州最高裁に控訴したが、昨年8月に裁判官3人は2対1で地裁の判決を支持し、控訴を棄却した。ペル氏は仮釈放が認められる2022年10月まで服役することになっていた。
この日の最高裁による逆転無罪判決を受け、ペル氏は不正義が「是正された」とし、「告発者を悪く思う気持ちはない」と述べた。
ペル氏は声明で、「私の無罪判決が、多くの人の心の痛みや苦しみを悪化させることになってほしくない。痛みや苦しみはもう十分だ」とした。
また、「私の裁判はカトリック教会についての投票ではないし、教会における小児性虐待の罪にオーストラリアの教会関係者がどう対応したかについての投票でもない」と述べた。
父親はショック受ける
死去した元聖歌隊員の父親の弁護士を務めるリサ・フリン氏は、逆転判決に父親はショックを受けていると話した。
「彼はもうこの国の司法制度に信頼を持てないと述べている」
ヴィクトリア州警察は、この日の判決を尊重するとしたうえで、「性暴力の捜査にはこれまでどおり全力で当たり、何年が経過していようと被害者にとっての正義を実現する」と表明した。
ペル氏と教会はどうなる? ―― ジョン・マクナマス、BBCニュース
ペル枢機卿の有罪判決が破棄されたことで、ヴァチカンには安ど感が広がるだろう。
2014年にフランシス教皇は、ペル氏をローマ教皇庁の財務長官に指名した。
裁判の被告になる前には、ペル氏はヴァチカンの無秩序な財政の改革に乗り出し、かつてないレベルの検証作業を始めていた。
これに対し、ヴァチカン内部の既得権益を守りたい層が抵抗した。ペル氏がローマから姿を消したことで、改革が失速したとの批判が出ている。検察当局は昨年、不透明な投資の捜査にからんで、ヴァチカンの当局を強制捜索した。
問題は、ペル氏がヴァチカンに戻ってやりかけの仕事を終わらせるのか、そしてヴァチカンには不安を覚えている人がいるのか、ということだ。
答えはどうあれ、ペル氏の運命の急転は、すべての法的対抗手段がなくなるまで彼の聖職者としての職位を奪わず、司祭職からも追い出さないという教皇の判断が正しかったことを示した。