「イスラム国」が新指導者を指名 バグダディ容疑者の死亡認める
武装組織「イスラム国(IS)」は10月31日、指導者アブ・バクル・アル・バグダディ容疑者がシリア北西部で27日に行われた米軍事作戦で死亡したと認め、後継者を指名した。
ISはメッセージアプリ「テレグラム」を通じて、バグダディ容疑者の後継者として、アブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クラシ氏を指名したと発表した。
米軍の特殊部隊は10月27日、シリア北西部のバグダディ容疑者の潜伏先を急襲。容疑者は逃げ込んだトンネル内で米軍の軍用犬に追い詰められ、自爆チョッキを起爆させ死亡した。
5年前の2014年にISが台頭し始めて以来、アメリカは同容疑者に2500万ドル(約27億円)の懸賞金をかけ、行方を追っていた。
「後継者候補」も死亡
ISはまた、バグダディ容疑者を狙った軍事作戦の数時間後にシリア北部で行われた、米軍とクルド人部隊の共同軍事作戦で、アブ・アルハサン・アル・ムハジル報道官が死亡したことも認めた。ムハジル氏は、バグダディ容疑者の後継者と目されていた。
アブ・ハムザ・アル・クラシ新報道官は、新指導者への忠誠を誓うようイスラム教徒に求めた。
後継者クラシ氏とは
新指導者のクラシ氏の名は治安部隊の間では知られておらず、偽名とみられている。
ISの声明はこの新指導者について、「ジハード(聖戦)における重要人物」と説明。クラシ氏はベテランの戦闘員で、過去にはアメリカと戦ったという。しかし、それ以外の詳細は明かされず、写真も公開されなかった。
名前に「アル・クラシ」と含まれていることから、クラシ氏は預言者ムハンマドと同じクライシュ族の出身だと主張していることは明白だ。「アル・クラシ」は指導者になるための主要な資格とされ、一般的に前近代のスンニ派の学者の名前に使われていた。
ジハーディスト(イスラム聖戦主義者)に詳しいBBCのミナ・アル・ラミ氏は、ISが『クラシ』ではない人物を指名することを選んだら、おそらく『カリフ制国家』はもはや存在しないということを暗に認めることになる」と述べた。
バグダディ容疑者は2014年7月、イラクやシリアの一帯に「カリフ制イスラム帝国」を樹立すると宣言。同地域の約100万人の民間人を残忍な方法で支配した。
支持者から「カリフ・イブラヒム」と呼ばれたバグダディ容疑者は、世界中のイスラム教徒に忠誠を誓うよう求めた。
今年3月、クルド人部隊はISのシリア国内の最後の拠点である東部デリゾール・バグズを制圧し、「カリフ制国家」は物理的には崩壊した。しかしその後も、イラクやシリア国内には最大3000人の外国人を含むIS「メンバー」が1万4000人から1万8000人ほど存在しているとされる。
ISの新報道官は声明で、バグダディ容疑者の死亡を確認後すぐにシューラ評議会を開き、新指導者への忠誠を誓うよう求めたとしている。
バグダディ容疑者に何があった
ISの新指導者発表の前日、米国防総省はバグダディ容疑者を狙った軍事作戦について、さらなる情報を開示した。
同省が30日に公開した、軍事作戦の様子を記録した映像では、バグダディ容疑者の潜伏先の建物上空を飛ぶヘリコプターから、地上のIS戦闘員に向けて米軍が銃撃する様子が確認できる。
IS戦闘員からの反撃を受けたものの、特殊部隊は無事に着地し、わなが仕掛けてあると予想される玄関を避け、爆発物で壁に穴を開けて建物内に入った。
米軍の軍用犬に追われてトンネルに逃げ込んだ容疑者は、身につけていた自爆チョッキを爆発させ、容疑者本人と子供2人が死亡した。
ケネス・マッケンジー米中央軍司令官は、「バグダディ容疑者は幼い子供2人を連れて、穴の中へはって行った。そして、他の戦闘員を地上に残し、自爆した。こういった行動から、容疑者がどんな人物だったのかが推測できる」と、記者会見で述べた。
潜伏していた建物は、軍事作戦終了後に米軍の空爆で破壊された。
マッケンジー氏は、破壊された建物は「巨大なくぼみができた駐車場」のようだと述べた。
「すすり泣き、叫んだ」は確認できず
ドナルド・トランプ大統領は27日、バグダディ容疑者の自殺を発表した際、容疑者が「すすり泣き、叫びながら」行き止まりのトンネルに駆け込んだと述べた。
しかしマッケンジー氏は、それが事実だとは認められないとした。