EU、ネット上の著作権保護強化へ ネットユーザーからは不安の声

ゾーイ・クラインマン、BBCニュース・テクノロジー記者

A protestor holds a banner reading "No meme is illegal" during the "Save The Internet" demonstration in Berlin, Germany

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画像説明, 「違法なミームなどない」、「インターネットを救え」などのプラカードを掲げてベルリンでEUの新しい著作権法に抗議する人たち

欧州議会は26日、インターネット上のコンテンツに関する著作権法の改正案を採決し、348対274で可決した。

新たな「EU著作権指令」には著作権者の認可を得ていないコンテンツについて、ネットサービスを提供するテクノロジー企業が責任を負うとする内容が含まれており、インターネットの世界が変わってしまうとの懸念が広がっている。

著作権を持つミュージシャンやクリエイターは、この法律によってアーティストがより公正な報酬を得られると歓迎しているが、ユーザー発信のコンテンツ(UGC)が破壊されるという声もある。

ただし、新指令ではミーム(写真や動画を面白おかしく加工したもの)やGIF画像をシェアすることは禁止されていない。

テクノロジー企業は、アーティストは既存のシステムですでに公正な報酬を得ていると反論している。グーグルは、この法律が「欧州のクリエイティブ産業やデジタル産業に損害を与える」と述べた。

これまでに音楽プロデューサーのワイクリフ・ジョン氏や、ワールド・ワイド・ウェブ(www)を発明したサー・ティム・バーナーズ=リーといった著名人が、このEU著作権指令に反対している。

一方、サー・ポール・マッカートニーや歌手のデビー・ハリー氏らが賛成を表明している。

Sir Tim Berners-Lee

画像提供, Peter Macdiarmid

画像説明, サー・ティム・バーナーズ=リーはEUの新しい著作権法を懸念している

新指令の施行には、加盟各国の承認が必要となる。全加盟国が批准し施行された後、各国は2年間でこの指令を国内法にする必要がある。

最も物議をかもしているのは、以下の2項目。

  • 第11条:ニュースコンテンツを掲載するサーチエンジンやポータルサイトに対し、リンク元のニュースサイトに使用料を支払うことを義務付ける
  • 第13条:著作権を侵害するコンテンツについて、テクノロジー企業により大きな責任を科す。テクノロジー企業はすでに著作者の認可のない音楽や動画コンテンツを削除しているが、新指令ではあらゆる著作物についてこうした責任を負うことになる

第13条が施行されると、テクノロジー企業はアップロードされる前のコンテンツにフィルターをかけて、著作物が違法にアップロードされないようにする必要がある。

クラウドのストレージサービスには第13条は適用されず、ミームを含むパロディー作品も例外とされている。

ミームは適用外

インターネット上で拡散するミームやGIF画像の多くは、テレビ番組や映画などの著作物から作られており、これが13条への懸念を広げている。

第13条によって、わずかでも著作物が含まれていた場合、そのコンテンツをフェイスブックやYouTubeなどのサイトに掲載できなくなると批判する声もある。

しかし、今回の採決の前に指令に加えられた修正では、「引用や批判、評価、風刺、パロディー、パスティーシュ(ある作品の主題などを模倣・借用した作品)といった目的の」ミームは第13条に抵触しないとされた。

欧州議会はミームは新指令から「特に除外する」としているが、テクノロジー企業がどのようにフィルターを使ってこの指令を実行すればいいのか、不明確だ。

The Getty stock image which became the "distracted boyfriend" meme

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画像説明, この画像は「ボーイフレンドの裏切り」としてさまざまなミームに使われている

イギリスのメアリー・ハニーボール欧州議会議員は、「ミームは全く問題ない。この指令にミームやマッシュアップ(複数のコンテンツを組み合わせたもの)を止める意図はない」と話した。

「悲観的な意見が広がっているだけだと思う。インターネット上で正しく振る舞っている人は、何一つ心配しなくていい」

「大きな衝撃」

イギリスの楽曲著作権管理会社「PRS for Music」のロバート・アシュクロフト最高経営責任者(CEO)は、この指令はアーティストや消費者にとって「大きな前進」だと語った。

「これによって、一般人が動画や音楽をYouTubeなどのサイトにアップロードする際に、著作権について責任を負わなくて良くなる。その責任はプラットフォーム側に移されるのだから」

一方、無料でのコンテンツ共有を推奨している非営利団体(NPO)「Open Knowledge International(OKI)」は、新指令はインターネットにとって「大きな衝撃」だと述べた。

OKIを取りまとめているキャサリン・スティラー氏は、「デジタルの発展を利用して知識がより多くの人に力を与えるようなより開かれた世界を作るべき時に、私たちは閉じられた社会を作ってしまうリスクにさらされた」と警告している。

グーグルは、修正が施された現在の指令は改善されているとしてものの、なお「法的な不透明感がある」と指摘した。

グーグルは声明で、「詳細こそ重要だ。EU加盟国がこの新しいルールを適用する方向に向かう中、我々は政治家やパブリッシャー、アーティスト、著作権保持者と協力していきたい」としている。

英大手法律事務所リンクレイターズのキャシー・ベリー弁護士は、第13条が適用方法についてさらに詳細な情報が必要だと話す。

「第13条の目的は崇高なものかもしれないが、現在の形では単なる理想としてしか機能しない。具体的にどのようなプロバイダーが影響されるのか、法令順守にはどのような手段が必要なのか、そのガイダンスがほとんどない」

欧州議会のアクセル・フォス報告者は、この指令は市民の生計を守るものだと説明している。

「この指令は、少数の企業が何千人ものアーティストやジャーナリストの労働に依存しながら正当な報酬を払わず、企業だけが大きな利益を上げている状況を、是正するための重要な一歩だ」

「これによってインターネットを、力を持った少数だけでなく全員のためになる場所にして、未来に備えられるようになる」と、フォス氏は強調した。