【仏大統領選】中道派マクロン氏が勝利 ル・ペン氏抑え
フランス大統領選が7日に投開票され、中道派のエマニュエル・マクロン前経済相(39)が、得票率66.06%対33.94%で極右・国民戦線のマリーヌ・ル・ペン氏に勝利した。フランス最年少の大統領となる。1958年に第5共和政が始まって以来、二大主要政党以外の候補が大統領になるのは初めて。
マクロン氏は、フランスの歴史の新しいページがめくられていると述べ、「希望と信頼回復のページであってほしい」と期待を示した。
勝利演説したマクロン氏は、「皆さんの怒りや不安や疑い」を選挙戦で耳にしてきたと述べ、任期5年の間、「フランスの足を引っ張る分断の勢力と戦う」と約束。「国をひとつにまとめ(中略)欧州を守り保護していく」と表明した。
マクロン氏は、パリ中心部のルーブル美術館前に集まっていた支持者数千人を前に、「勝ったのは皆さん、勝ったのはフランスです。こんなこと無理だとみんなに言われたが、その人たちはフランスを知らない」とあいさつした。
その上で次期大統領は、自分と国は巨大な挑戦に直面していると述べ、「私たちには力とエネルギーと意志がある。恐怖に屈したりしない」と強調した。
敗れたル・ペン氏に言及すると、集まった人の間からブーイングが起きた。マクロン氏は、過激主義に投票する理由など今後絶対にないように努力すると述べた。
パリ市内の厳重な警備は続いている。第20区のメニルモンタン地下鉄駅近くでは数百人規模の反資本主義デモがあり、警察が催涙ガスを使用したという。
投資銀行出身のマクロン氏はリベラルな中道派で、欧州連合(EU)を強力に擁護している。公共部門の人員を12万人整理し、政府支出を600億ユーロ(約7兆4400億円)削減し、失業率を7%未満に下げると公約してきた。
さらに労働基準法を緩和し、自営業者の権利保護を拡大すると約束している。
与党・社会党のフランソワ・オランド大統領の政権に経済相として参加したものの、昨年8月に閣僚を辞任し自身の政治運動「前進!」を結成。左派でも右派でもないと説明していた。
オランド大統領は、マクロン氏の勝利は「共和国の価値観」のもとに団結したいと願うフランス国民の意志の表れだと歓迎した。
敗れたル・ペン氏は演説で「巨大な挑戦」に取り組むことになる次期大統領を応援すると共に、自分に投票した1100万人に感謝した。選挙を通じて「愛国者とグローバリスト」の分断があらわになったとル・ペン氏は述べ、新しい政治勢力の出現が必要だと呼びかけた。
さらに「国民戦線」は組織刷新が必要で、「私たちの運動を徹底的に変身させ」る作業に着手すると表明。今後の議会選挙で党を率いていくと述べた。
ル・ペン氏の選対本部で取材するBBCのジェイムズ・レノルズ記者は、陣営が敗北を予想していたことは報告会場の狭さからもうかがえると指摘。支持者の多くは、ル・ペン氏が自分のシンボルにした青いバラを手に、フランス国家を静かに歌っていたという。
国際社会の反応は
EUに否定的なル・ペン氏が「フレグジット(フランスのEU離脱)」を国民投票で問うと宣言していただけに、英国のブレグジットの再来を懸念していたEU幹部は、EU支持者マクロン氏の当選を大いに歓迎している。
欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、「フランスが欧州としての未来を選んで嬉しい」とツイートした。
アンゲラ・メルケル独首相も祝意をツイートし、マクロン氏の勝利は「ひとつにまとまった強力な欧州の勝利だ」と歓迎した。
一方でテリーザ・メイ英首相は、「フランスは私たちの最も近い同盟国のひとつで、新しい大統領と協力していくのを楽しみにしている」と述べた。
ドナルド・トランプ米大統領も、マクロン氏の「大勝」に祝意をツイートし、新大統領と協力していくのを楽しみにしていると書いた。
ブレグジットを推進したイギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏は逆にマクロン氏当選を歓迎せず、「マクロンでまた5年間の失敗が続く」と批判。ル・ペン氏に「これからもがんばる」よう応援した。
新大統領の当面の課題は
マクロン氏の政治集団「前進!」はまったくのゼロ議席だ。議会選は6月11日と18日に予定され、「前進!」は政党として議席獲得を目指しているが、効率的な国家運営のためにはマクロン氏は連立構築を模索する必要があるかもしれない。
大統領候補としてのマクロン氏は他政党の支援を受けたが、それはもっぱらル・ペン氏の勝利を阻止するためのものだった。
自分の政策ビジョンに懐疑的な有権者を、マクロン氏はこれから説得していかなくてはならない。特に左派支持の有権者は決選投票の両候補のどちらにも投票できないと、棄権を表明する人が多かった。
選挙運動最終日の5日には、ハッキング攻撃で流出したマクロン氏関連の資料が大量にインターネットに流出して拡散した。本物と偽物がないまぜになっているとされる文書の流出とその内容について、マクロン氏は今後対応を余儀なくされるはずだ。
<解説> 魅力の威力は? ヒュー・スコーフィールドBBCパリ特派員
エマニュエル・マクロン氏については(非常にフランス的なことだが)まずは言葉ありきだという気がする。まずはそれらしい言葉が、分裂を団結に変え、対抗勢力をほめそやし、一部の人の間に強い献身を呼び覚ます。
選挙戦を取材する報道陣の間では、「au meme temps(同時に)」というマクロン氏の口癖が冗談のタネになっていた。マクロン氏に質問すると、何かしら「同時に」という言葉が返ってきたからだ。これこそが対極にあるもの、矛盾するあらゆるものをひとつにまとめあげる、マクロン流を表す表現だ。
それでも良しとされたのは、彼の個人的魅力のゆえんだ。
しかし今後、対立と分断の激しい怒れる国を現実に運営していくあたって、新大統領の言葉はこれまで通りの力を持つだろうか? 政権運営の現実的なドタバタのなかで不可欠な政治的支援を、体系的に作りだしていくことができるだろうか? 幼いころから自分は有能で特別だと言われ続けてきた人が、自分自身に対する信念をよりどころに、政権を運営していけるだろうか? マクロン氏の魅力は今後も威力を持つのだろうか?
楽観が衰退に勝り、エネルギーが萎縮(いしゅく)に勝り、意志の力が諦めに勝ったからこそ、エマニュエル・マクロン氏は驚異的な勝利を手にしたのだと、そうであってほしいと誰もが願っている。
口説達者なセールスマンにだまされたわけではないと、そうあってほしいと、誰もが願っているのだ。