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古新聞が持ち去られる 「ぬれ手であわ」に自治体苦慮

2007年05月18日

写真古新聞を抜き取り、立ち去ろうとしたトラック=東京都世田谷区で

 ごみ集積所に出された古新聞を守ろうと必死の行政と、無断で持ち去る業者との攻防が続く。かつては相場の暴落で困った存在だった古新聞。いまや成長著しい中国で需要が高まる一方だ。裁判に発展した後も、争奪戦はおさまる気配がない。(井上恵一朗)

 50メートル先で、2トントラックが止まった。運転席から降りた業者がごみ集積所の古新聞をぽん、ぽんと2束、荷台に載せた。

 「だめだめ!」

 世田谷区の職員が駆け寄る。「走ってこなくてもいいよ」。業者は見とがめられた2束だけ元に戻した。

 先月半ば、同区の早朝パトロールの場面だ。古新聞など価値の高い資源ごみをとっていく「抜き取り」行為を監視する。

 このトラックは、東京都足立区にある古紙業者「松沢紙業」のものだった。被告とされた回収業者12人の半数近くが、同社の寮に住む。

 松沢政光社長(68)は憤りを隠さない。

 「民間任せでできる仕事をなぜ行政がやらないといけないのか。裁判をしてまで締め出そうとするのは間違ってる」

     *

 この道40年余。ちり紙交換車1台から始め、運転免許を持つホームレスを集めて事業を拡大してきたという。現在、同社に古紙を持ち込む回収業者約100人の7割が住み込み。貸し出すトラックは125台に上る。

 都内では、92年に資源の分別回収が始まり、00年に区に移管された。指定日に住民が出し、委託業者が集める。松沢社長は「昔からやってきたのに追い出され、泥棒よばわり。我々にも生活がある」と訴える。

 一方、世田谷区は「区民の怒りの声」を取り締まりの理由に挙げる。ある町会長は「区に協力して出したものをカラスのようにかすめとる。ぬれ手であわでいい気持ちがしない」と話す。

 区は、マンションや町内会ごとに業者と契約する「集団回収」に古紙には1キロ6円の報奨金を出して奨励し、「多くの業者が区民とタイアップして業績をあげている」と締め出しを否定する。

 古紙の抜き取り被害は関東1都6県で20億円という業界団体の試算(03年度)もある。都資源回収事業協同組合は「古紙に価格がつかない時代にも、行政や住民と負担しあって回収システムを支えてきた。そのルールを壊す行為」と厳しい。

 90年代、リサイクル関連法整備に伴う分別収集の徹底で、大量の古紙が「資源ごみ」で出るように。国内需要は約1800万トンで足りるのに、2000万トン以上も集まる。不況もあって価格が暴落。業者は行政や住民と負担を分け合い、回収を続けてきたという。

     *

 風向きが変わったのは00年ごろから。輸出を手がける都内の卸業者は「中国で紙原料への需要が高まっているのが大きい。産業発展で製紙設備への投資が膨らんだのが影響している。種類が増えた新聞の原料需要もある」という。06年の中国への古新聞輸出量約55万7000トンは全輸出の9割近くを占め、この3年で倍増した=グラフ。

 中国の買い取り価格は日本の製紙会社と比べ、高い時で1トン5000円ほど差が出たという。その影響で、国内も奪い合いになり価格は上昇傾向だ。5年前に1キロ9円だったメーカー買い取り価格は今年3月時点で14円。こうした高騰が、抜き取り横行の背景にある。

 行政側の対策も多様化してきた。

 資源ごみの帰属を条例で明示した杉並区、「区に出した」と意思表示紙をつけるよう促す葛飾区……。そんな中、中野区では今春から集団回収へ全面移行した結果、被害が見られなくなったという。行政相手と違って住民と直接契約する業者からは横取りできないという心理があるらしい。抜き取り業者を契約先にした地区もあるという。委託費削減で約8000万円が浮く算段もついた。

◆これまで

 東京都世田谷区のごみ集積所から古新聞などを持ち去ったとして区清掃・リサイクル条例違反の罪に問われた回収業者12人に対する判決が、3〜5月に東京簡裁で相次ぎ、7人が無罪、5人が有罪となった。同区は所定の場所に出された資源ごみの持ち去りを罰則付きで禁じている。区の集積所は約5万カ所。無罪判決では場所の指定があいまいなどとされた。

(2007年5月9日付け朝刊 3社会面)

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