安保法制は「明白な違憲と断定できない」 原告の控訴棄却 仙台高裁

滝口信之 根津弥 編集委員・豊秀一
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 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法憲法違反だとして、福島県内の戦争経験者や家族ら170人が1人あたり1万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が5日、仙台高裁であった。小林久起裁判長は「憲法9条に明白に違反するとまでは言えない」と述べ、初めて憲法判断を示した。その上で、原告側の請求を棄却した一審判決を支持し、控訴を棄却した。

 小林裁判長は、高裁で行った早稲田大・長谷部恭男教授(憲法)の証人尋問などを踏まえ、安保関連法について「憲法の基本理念である平和主義に重大な影響を及ぼす可能性のある憲法解釈の変更だ」と指摘。「武力行使の限界を超えると解する余地もある」とした。

 また、安保法制によって、限られた場合であっても集団的自衛権の行使が認められたことで「解釈運用に、不確実性が生ずること自体は免れない」とも指摘した。

 だが、日本の存立が脅かされるなど限定的な要件があり、厳格かつ限定的な解釈を示した政府の国会答弁を踏まえれば、「憲法9条や平和主義の理念に明白に違反するとまでは言えない」と判断した。憲法改正・決定権を侵害されたとする原告側の主張についても「安保法制は政府の意思決定や国会の立法にすぎず、憲法改正するものではない」として退けた。

 弁護士らでつくる「安保法制違憲訴訟の会」によると、同種の集団訴訟は全国22地裁・支部(計25件)で起こされ、これまでに地裁と高裁で39件の判決が出た。だが、具体的な権利侵害が認められないなどとして憲法判断には踏み込まず、原告側の請求を退けていた。

 弁護団の広田次男・共同代表は、憲法判断を示した点を「一歩前進」と評価しつつ、「中身には納得できない」として、上告する方針を示した。

 長谷部教授は判決後、取材に対し「裁判官として、精いっぱいの判断をしたという印象だ。『厳格かつ限定的な解釈を示した答弁』が守られなければならないとクギを刺した、と判決を読むべきだろう」と述べた。(滝口信之、根津弥、編集委員・豊秀一

安全保障関連法をめぐる主な経緯

2014年7月 集団的自衛権行使を認める憲法解釈の変更を閣議決定

 15年5月 安保関連法案が閣議決定され、国会に提出

   6月 衆院憲法審査会で長谷部恭男・早大教授ら憲法学者3人が安保関連法案を「違憲」と指摘

   9月 国会前で大規模なデモが続く中、安保関連法が参院本会議で可決、成立

 16年3月 安保関連法施行

   4月 市民らが「安保関連法は憲法違反だ」として、国家賠償などを求めて東京地裁に提訴。その後、各地で提訴が相次ぐ

 23年5月 仙台高裁の証人尋問で、長谷部教授が安保関連法の違憲性を指摘

   9月 最高裁第二小法廷が、市民らの上告を棄却する決定

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    木村司
    (朝日新聞社会部次長=沖縄)
    2023年12月6日11時28分 投稿
    【視点】

    戦後日本の安保政策の大転換となった、集団的自衛権の行使を認めた憲法解釈変更の閣議決定と、それを踏まえて自衛隊の役割を拡大させた安保関連法。これらが憲法に違反するかが問われた一連の裁判で、憲法判断に踏み込む判決は今回が初めてという。「憲法に明

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