「幻」とされた和歌山県勢歌 新聞にあった楽譜もとにAIで復元

下地達也
[PR]

 和歌山県の歌といえば、1948年に制定された「県民歌」を思い浮かべるひとも多いだろう。だが、県民歌制定の9年前に「県勢歌」というものが制定されていた。県勢歌については資料が残っておらず、これまで「幻の歌」とされていたが、県立博物館の調査などで復元され、展示会が開かれている。3月5日まで。

 パネル展「よみがえる『和歌山県 県勢歌』」では、完成を伝える当時の新聞記事や楽譜と歌詞、作曲者の写真などが展示されている。竹中康彦副館長は「これまで『あの県の歌はなんですか』と問い合わせがあっても答えられなかった。その回答として復元できてよかった」と話す。

 県勢歌は、日中戦争開戦後の39年、愛郷精神や統計への関心を高めることを目的に県統計課・統計協会が中心となって制定した。曲調はト長調の行進曲風で、全国公募した176編の中から優秀作品3編をもとに作詞された。

 歌は「黒潮めぐる南海の浦に浜木綿(はまゆう)咲くところ」から始まる。和歌浦那智の滝などの景勝地や名所のほか、ミカンや梅などの特産物、県内総生産額などが盛り込まれている。

 復元のきっかけは昨年10月、作曲者・鈴木富三さん(1910~97)の息子の徹さん=横浜市=からの電話だった。情報をもとに調査を行ったところ、当時の新聞記事に楽譜などが見つかり、復元できたという。

 竹中副館長は、どんな歌なのか実際に聴いてもらいたいと、人工知能(AI)で楽譜から音声を合成するソフトで歌唱音源をつくった。展示期間中に会場やウェブサイト=QRコード=で聴くことができる。

 竹中副館長は県勢歌が歌われなくなったことについて「県勢歌制定の2年後には国民学校令が出され、教育内容も画一的になった。和歌山の誇りを歌った県勢歌は歌いづらい曲になってしまったのでは」と話している。

 午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜休館。一般280円、大学生170円。問い合わせは同館(073・436・8670)。(下地達也)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません