核廃絶の「当事者」は自分たち 原爆75年、長崎で式典

戦後75年特集

弓長理佳
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 長崎に原爆が投下されてから9日で75年の節目を迎えた。長崎市松山町平和公園では、新型コロナウイルス感染防止のため、規模を縮小して平和祈念式典が開かれた。田上富久市長は核兵器禁止条約に賛同しない日本政府に署名・批准を迫ったが、安倍晋三首相は昨年に続き、あいさつで条約には触れなかった。

 式典会場では、密集を避けるため、席数は2メートル間隔を空けて約500席に絞った。一般席も設けず、参加者の規模は例年の10分の1程度になった。式典冒頭の被爆者による合唱を取りやめ、平和公園への立ち入りも制限した。

 田上市長は平和宣言で新型コロナに触れ、「自分の周囲で広がり始めるまで、その怖さに気づかなかったように、もし核兵器が使われてしまうまで、人類がその脅威に気づかなかったとしたら、取り返しがつかないことになる」。核禁条約には「一日も早い署名・批准を」と迫った。

 平和への誓いは、14歳の時、学徒動員先の三菱長崎造船所で被爆し、家族4人を失った深堀繁美さん(89)。カトリック教徒で、昨年11月、爆心地公園を訪れたローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇に献花用の花輪を手渡した。

 「被爆者が一人また一人といなくなる中にあって、私は、『核兵器はなくさなければならない』との教皇のメッセージを糧に、『長崎を最後の被爆地に』との思いを訴え続けていく」と述べた。

 安倍首相はあいさつで、「非核三原則を堅持しつつ、立場が異なる国々の橋渡しに努め、各国の対話や行動を粘り強く促す」と、広島の式典で述べた内容を繰り返した。

<視点>感染症と核兵器は重なる

 4月上旬、臨時休館した長崎原爆資料館にこんな幕が掲げられた。「核兵器、環境問題、新型コロナウイルス… 世界規模の問題に立ち向かう時に必要なこと その根っこは、同じだと思います」。世界を襲うコロナ禍と、威力を増し続ける核兵器をともに人類が直面する危機と位置づけ、「自分が当事者」であることを促すメッセージだ。

 目には見えないが、国を越え、分け隔てなく人の命を脅かす点で、感染症と核兵器は重なる。被爆者は75年前の長崎や広島で突然、その脅威にさらされた。

 長崎の被爆者、石原照枝さん(84)=熊本市=は原爆で母を亡くした。自身も後遺症に苦しみながら、被爆体験を語り、「人間の尊厳を奪う兵器を二度と使わないで」と訴え続ける。

 石原さんの背中を押すのは「原爆は決して過去のものではない」との思いだ。

 私たちはどこかで、原爆は歴史上の出来事で、今後、核兵器が実際に使われることはないと考えていないだろうか。

 75年がたち、被爆者の平均年齢は83・31歳になった。被爆者なきあとの核廃絶は、私たちが「当事者意識」を持てるかどうかにかかっている。(弓長理佳)

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