森友問題は終わっていない 時系列で振り返る一連の経緯

【解説動画】財務省の森友文書改ざん問題、特報の経緯

 森友学園大阪市)をめぐる問題は大きく二つある。財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地を大幅値引きして売るまでの一連の土地取引と、この取引をめぐる決裁文書を財務省が改ざんした問題だ。発覚したのはそれぞれ2017年2月と18年3月。どちらも朝日新聞の報道で明らかになった。財務省の改ざん前の文書やこれまでの国会審議などから一連の経緯をたどると――。

「日本初で唯一の神道の小学校」(2013年9月)

 森友学園は大阪市内で幼稚園を運営していた。園児に「教育勅語」を素読させる教育方針が一部で知られていた。安倍晋三首相の妻、昭恵氏と交流があり、昭恵氏が幼稚園に講演に来ることもあった。

【動画】森友学園の幼稚園。教育勅語の朗唱も話題になった(保護者提供)=2017年2月公開

 土地取引の始まりは13年9月。森友学園は「日本初で唯一の神道の小学校」の建設を目指し、土地取得の要望を財務局に出した。

昭恵氏との写真、財務局に見せ…(2014年4月)

 資金繰りに余裕がなかった森友学園は財務局に「当面は土地を借り、その後に買いたい」と求めた。過去5年の同種取引で例がない契約だった。

 財務局は当初、森友学園の要請に難色を示すこともあったが、14年4月28日、森友学園の籠池泰典理事長(当時)から「安倍昭恵氏を小学校建設予定地に案内し、『いい土地ですから、前に進めてください』と言われた」と聞かされる。昭恵氏と現地で撮った写真も見せられた。「売り払いを前提とした貸し付けに協力させていただく」と森友学園に伝えたのはその35日後だ。

 財務局は15年2月、特例的な契約を認めるよう財務省本省に求めた。申請の文書には、昭恵氏の写真を見せられたことや、政治家側からの問い合わせがあったことなどが記されていた。本省の理財局は4月に認めた。

「軟弱地盤」主張、貸付料の減額求める(2015年3月)

 財務局は15年3月、土地の貸付料を決めるために森友学園と「見積もり合わせ」をしたが、財務局が予定していた年約3300万円を森友学園の提示額が下回り、不調に終わった。すると森友学園は同月、土地が「軟弱地盤」だと主張して貸付料を減らすよう求めてきた。地質調査会社に問い合わせると「特別に軟弱な地盤であるとは思えない」との見解を示されたが、不動産鑑定をやり直し、5月に年約2730万円で貸し付け契約を結んだ。

昭恵氏が名誉校長に就任(2015年9月)

 もともとこの土地には比較的浅いところに汚染土やコンクリートがらがあることが分かっていた。このため15年7~12月、除去工事が実施された。工事費約1億3千万円は森友学園が立て替え、後で国が払うことになっていた。国からの支払いは、民法上は土地が返ってきたときでいいが、森友学園に対しては予算措置が済めば速やかに支払うことにした。

 9月、昭恵氏が開校予定の小学校の名誉校長に就く。森友学園は15年秋、除去工事費の支払いについて昭恵氏付の政府職員に財務省への問い合わせを依頼した。同省は「16年度での予算措置を行う方向で調整中」と答えた。11月の財務省の記録にはこんな記載もある。昭恵氏付の政府職員から土地の貸付料について「(森友学園側から)優遇を受けられないかと総理夫人に照会」があったと連絡があり、財務省は「現行ルールのなかで最大限の配慮をしている」と回答した――。

 12月、森友学園は小学校の建設を始めた。

「新たなごみ」訴え、のちに売買契約(2016年6月)

 16年3月、森友学園が「新たなごみが見つかった」と財務局に伝えてきた。森友学園は、ごみ撤去費を差し引いた額で土地を買いたいと申し出た。籠池理事長は「6月の棟上げ式には首相夫人を招待する。できなければ切腹する覚悟」と述べ、工期がずれ込めば損害賠償を求める構えを見せた。

 財務局は不動産鑑定の結果が出る前に「1億3千(万円)」「ゼロに近い金額まで努力」などと金額を挙げながら森友学園と交渉。16年6月に売買契約を結んだ。鑑定価格は9億5600万円だったが、最も深いところで9.9メートルまでごみがあるとして、ごみ撤去費8億1900万円などを差し引いて1億3400万円で売った。売却額は非公表にした。

【音声】籠池氏が録音していた財務省幹部とのやりとり

 10年間の分割払いを認める契約で、即納金約2787万円を除いた毎年の支払額は1100万円程度になった。

 13~16年度の4年間にあった同種の土地取引計972件のうち売却額を非公表にしたのは、森友学園との契約だけ。分割払いを認めたのも、過去5年間の同種の取引1214件のうち、この契約だけだった。

「首相も国会議員も辞める」(2017年2月)

 この大幅値引きでの国有地売買を朝日新聞が17年2月9日付朝刊で報じると、国会で野党が追及を始めた。

 安倍首相は17日、「私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」と答弁。財務省理財局の佐川宣寿(のぶひさ)局長(当時)は「撤去費用は適正に算定されたもの」「政治家の方々の関与は一切ございません」「価格を提示したことも、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と説明した。森友学園との交渉記録は「廃棄した」と答弁した。

 森友学園は3月10日、小学校の設置認可の申請を取り下げた。23日に国会に証人喚問された籠池理事長は、売買契約を「神風が吹いた」「何らかの見えない力が動いた」などと表現し、昭恵氏や国会議員らとの関係を次々に明らかにした。野党は「財務省側の忖度(そんたく)ではないか」と追及を続けたが、政府側は詳しい説明を拒んだ。

 6月に国会が閉会し、7月に佐川氏が国税庁長官に就任。10月には総選挙で与党が大勝した。会計検査院は11月、値引きの根拠を「不十分」などとする検査結果を公表し、国会審議も断続的に続いたが、取引の真相は不透明なままだった。

公文書改ざんの発覚(2018年3月)

 18年3月2日。朝日新聞は朝刊で「森友文書 書き換えの疑い」と報じた。契約当時の文書にあった「特例」などの文言が、17年2月の問題発覚後に国会に提出した文書ではなくなったり、変わったりしているという内容だった。決裁文書に1ページあまりにわたって記された項目が消えているという続報を掲載した3月9日、佐川氏が国税庁長官を辞任した。「決裁文書の国会提出時の担当局長だった」などが理由だった。

 12日、財務省は14件の決裁文書の改ざんを認めた。改ざんの時期は、土地の大幅値引き問題が発覚した後の17年2月下旬~4月。「本件の特殊性」といった文言や、昭恵氏や政治家についての記載などが削除された。

【動画】籠池泰典被告、財務省の文書改ざん「やましいことがあったからでしょう」

 財務省の内部調査で、取引終了後に「廃棄した」として国会に提出しなかった森友学園との交渉記録が存在していることも判明した。また、廃棄が行われていたのは、実は改ざんと同時期の17年2月下旬以降だったことも分かった。

 佐川氏が国会で土地取引について「適正」などという答弁を繰り返していたころ、財務省は決裁文書を改ざんし、交渉記録を廃棄していたことになる。1年以上にわたる国会審議のもとになっていたのも、改ざんされた文書だった。

 財務省は6月、改ざんを「佐川氏の主導」と認定する調査結果を発表し、20人を処分。麻生太郎財務相が「誠に遺憾。深くおわび申し上げる」と謝罪した。

捜査対象38人は全員不起訴に(2018年5月)

 改ざんを受けて会計検査院は追加検査し、改ざん文書を検査院に提出した財務省の行為を違法と認定する検査結果を18年11月に国会に提出した。ただ、かかわった職員らの懲戒処分の要求は見送り、値引きの根拠についても「昨年の報告書で出した結論と変わらなかった」として、値引き額や売却額そのものは評価しなかった。

 大阪地検特捜部は土地取引や改ざんなどについて捜査していたが、捜査対象とした佐川氏ら38人全員を5月に不起訴処分とした。山本真千子・特捜部長(当時)が異例の記者会見を開き、値引きの根拠となったごみ処理費は「不適切だと認定するのは困難」、改ざんは「虚偽の内容の文書が作られたかという観点から検討したが、認めることは困難」と説明し、捜査で解明した詳しい経緯は明らかにしなかった。不起訴処分が妥当かどうか、検察審査会が審査している。

 籠池夫妻は国や大阪府・市から補助金計約1億7千万円を詐取したとして17年7月に逮捕、起訴され、18年5月に保釈された。

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