匿名アカウントによるツイッター投稿で名誉を傷つけられたとして、立憲民主党の参院議員2人が東京地裁に申し立てた発信者情報の開示請求が認められた。両議員は今月、開示された発信者を相手取り、慰謝料を求める訴訟を東京地裁に起こした。投稿に使われたインターネット回線の契約者として開示されたのは、東京都内のウェブ関連会社だった。

 アカウントは「Dappi」を名乗り、2019年6月に投稿を始めた。13日現在のフォロワーは約16万3千で、プロフィル欄には「日本が大好きです。偏向報道をするマスコミは嫌いです。国会中継を見てます。」と記している。ネット番組の動画とともに野党を批判する出演者の言葉を紹介したり、国会中継の動画とともに与党議員の発言を評価したりするツイートを多く投稿していた。

 同じプロフィルで「Dappi」を名乗っていたアカウントはもう一つあり、2015年秋に投稿を始めた。

 当初は安保法案をめぐる審議での野党の対応やメディアの報道を批判する内容が目立った。その後、ネット番組や国会中継の動画を編集したものを添付したり、複数の新聞の数年前の切り抜きを並べた画像を添付したりするといった投稿も増えていった。

 このアカウントは「ツイッターのルールに違反した」として凍結され、19年6月、同じプロフィルの文面で同じ「Dappi」を名乗るアカウントが投稿を始めた。

 立憲の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員は、このアカウントが20年10月25日に投稿したツイートが名誉毀損(きそん)に当たると主張している。

 投稿は、財務省の公文書改ざんをめぐる新聞コラムを要約した体裁で「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊(つ)るしあげた翌日に自殺」としていた。両議員は、自殺した財務省近畿財務局の職員に説明を求めたり面会したりした事実はなく、投稿によって名誉を傷つけられたとして、投稿者の開示を求める手続きを始めた。

 両議員はまずツイッター社を相手取り、投稿の際に使われたネット回線のプロバイダー(接続業者)を開示するよう求める仮処分を昨年12月に東京地裁に申し立て、今年1月に認める決定が出た。

 その後、3月にプロバイダーを相手取り、発信者情報の開示を求め提訴。東京地裁は9月、両議員側の主張を認め、プロバイダーに発信者の情報を開示するよう命じる判決を言い渡し、判決は確定した。

 両議員は今月6日、開示された回線契約者を相手取り、計880万円の支払いを求める訴訟を起こした。

 訴えによると、回線契約者はウェブコンサルティング会社。両議員側はこのアカウントによる投稿が平日に集中していた状況などから、「投稿したのは同社役員か従業員、業務を委託された者であると推認される」と主張している。

 一方、発信者情報の開示を求める訴訟でプロバイダー側が提出した書面では「投稿者代理人」の弁護士名で「情報は契約者ではなく、投稿者が発信した」とし、回線契約者と投稿者が異なることを示唆。契約者と投稿者の関係は分かっていない。

 信用調査会社によると、ウェブコンサル会社の従業員は15人。取引先には自民党や大手出版社とある。政治資金収支報告書によると、過去には同党衆院議員の資金管理団体や党支部からウェブサイト制作などを受注していた。

 ウェブコンサル会社は12日、投稿者との関係などを尋ねる朝日新聞の質問書に対し、「国会議員が弊社を提訴したと聞きました。訴状を見ていないのでコメントのしようもなく回答は差し控えさせていただきます」とメールで回答した。

■立憲の森氏、首相に質問

 13日にあった参院本会議の代表質問で、立憲民主党の森ゆうこ氏は、匿名のツイッターアカウントによる投稿で名誉を傷つけられたとして同党議員が提訴した件を取り上げた。

 森氏は、河井案里前参院議員による買収事件の公判で対立候補をおとしめるためのネット工作が明らかになったと指摘。この匿名アカウントも国会質疑の動画を本来の意図と異なる形に編集して投稿し、野党を攻撃してきたとして、岸田文雄首相に「ネット工作をし、選挙結果を不当にゆがめるような行為を自民党議員にさせないと約束いただけないか」と問いかけた。

 岸田首相は具体的には答えず、「わが党の議員に限らず、それぞれがルールに従って発信をするべきだというのは当然だ」と述べた。