【ロンドン/英国 14日 AFP】英国の著名なオペラ研究者が、プッチーニ(Puccini)作「蝶々夫人」が「人種差別的」であると批判し、波紋を呼んでいる。14日には、世界で最も人気の高いオペラのひとつであるこの作品の新作の上演も始まり、物議をかもしている。

 発言したのはロンドン、キングス・カレッジの音楽教授でプッチーニの専門家、ロジャー・パーカー(Roger Parker)氏。デーリー・テレグラフ紙の取材に対し、新作のプロデューサーは「蝶々夫人」の一部を変更して現代版にして上演すべきだと語った。

 「原作は人種差別的な作品だ。オペラでなかったら偏見だと言わざるえない発想がたくさん含まれている。台詞だけの問題ではなく、プッチーニの音楽自体もだ」。

 14日のロイヤル・オペラ・ハウスでの初日公演をパーカー教授は見ていないと述べているが、デーリー・テレグラフ紙によると、ストーリーは従来どおりのものだという。舞台は20世紀初頭の長崎。駐留する海軍士官ベンジャミン・フランクリン・ピンカートンは、現地妻として15歳の日本人芸者、蝶々さんと結婚するところから話は始まる。蝶々さんはピンカートンのためにキリスト教に改宗までするが、ピンカートンはやがて蝶々さんと産まれた子どもを置いて米国へ帰国し、「本当の妻」と結婚する。

 テレグラフ紙にパーカー教授の発言へのコメントを求められたロイヤル・オペラ・ハウスは、「蝶々夫人は書かれた時代を描写している作品だ」としている。

 しかし教授は、オリジナルの人気が高いからこそ、自分の批判が異端的に聞こえようと声をあげなければと思ったと言う。「(人種差別に関して)われわれは当時よりももっと敏感になっている。蝶々夫人の解釈も、現代の意識を反映させる必要があるオペラ作品のひとつだ。しかし問題は、オペラの原作を部分的にカットしたり変更したりして現代版を作ることに、みなたいへん臆病だということだ」。

 一方、同じくテレグラフ紙が取材した在ロンドンの日本大使館員は、「人種差別的だとは全然思いません。同じストーリーはベトナムでも、ロンドンでもありうるでしょう。舞台となっている時代を描いたものだと思うし、その舞台が日本だからといってわれわれは気にしません」と回答し、あまり気にとめていないようだ。

 写真は米国の演出家ロバート・ウィルソンが監督した「蝶々夫人」のリハーサルを行なう中国人ソプラノ歌手Liping Zhang(蝶々役、右)、Ekatarina Gubanova(中央、鈴木役)、Dwayne Croft(シャープレス役)。2006年1月20日、パリ、オペラ座で。(c)AFP/PIERRE VERDY