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始めていた。「台本」の収集・保存に関してはテレビ局がその任に当たってくれているも
のとばかり思い込んでいたのだが、その認識は甘かった。長年にわたってビデオテープ代
の節約のために、それの何百倍の経費をかけて作った映像を消し去ってきた制作現場で、
映像の設計図である台本が保存されているはずはなかった。
見渡せば、先輩脚本家たちの脚本の山は、その人の死と共にゴミの山として遺族に捨て
られている状況があった。
――なんとかしなければ。
テレビ開局以来、散逸に任せていたドラマ台本の収集作業を宣言はしたものの、日本放
送作家協会にはその資金もなく、保存、管理する場所も人手もなく、あるのは、「先輩作
家たちの脚本を後世に残したい」という同業者としての使命感だけだった。
幸い、文化庁が私たちの脚本アーカイブズ活動に理解を示して下さり、支援金を頂ける
体勢ができた。足立区からは協働事業として準備室や保管場所の提供をして頂いた。J
K A からの支援も有り難かった。これらの資金で、各地で「脚本展」を催し、毎回、予
想を超える反響にこちらが驚かされた。準備室の委員たちは講師を招いての研究会を重ね
アーカイブズへのさまざまな知識を体得した。その中の数人はアメリカやヨーロッパ、中
国のアーカイブ施設の視察に出向き、欧米のテレビ資産への意識の高さを再認識させられ、
その事は毎年の文化庁への報告書に明示してきた。そして、いよいよ今年度から本格的な
脚本の収集活動に入るべく陣容も新たに再始動の決意を期しているところである。一方で
は、昨年度から放送文化基金を得て、東大大学院情報学環との共同研究のための「放送脚
本デジタル化研究会」を設置し、アーカイブズ運動を軸にした他の団体組織との連帯を促
進している。当研究会では、昨年 11 月に足立区の東京芸術センターにおいて、「文化アー
カイブズ活性化シンポジウム」を開催し、ここには、長尾真国立国会図書館長、石田英敬
東大大学院情報学環学環長、吉見俊哉情報学環教授、竹本幹夫早稲田大学演劇博物館館長、
大路幹生NHK放送総局ライツ・アーカイブスセンター長、金泳徳韓国コンテンツ振興院
日本事務所所長といった専門家に、テレビ界からは今野勉さん、山田太一さんにご参加を
仰ぎ、脚本アーカイブズへの応援とさらにこの活動のあるべき指標をお示し頂いた。
テレビ文化は、恐ろしいほど多くの人々の「思い出」に根ざしている。過去のテレビド
ラマ、あるいはその時代のバラエティ番組等は、その人が生きた時代の証言者である。テ
レビ時代においては、一本のドラマがその人の青春を甦らせる呼び水にもなる。現代人は
テレビと共に人生を歩んできた。その意味において、脚本アーカイブズ活動は、多くの人々
の人生をより豊かなものにする「思い出」の発掘作業であるともいえる。時代と個人との
絆の役割も果たしていく脚本アーカイブズ運動にさらなるご支援を乞う次第である。