物語生む球場 誇りに

キャスター
筑紫哲也さん(69)

 

 広島東洋カープの熱心なファンとして知られる。一日、新球場をテーマに広島市内であった公開座談会にも、広島のデパートで昨年買ったカープの帽子を手に、赤いシャツでやって来た。
 縁もゆかりもないのになぜ? 繰り返される問いに、大分県出身で、好きだった西鉄ライオンズが身売りしたので最も西の球団を選んだ―と答える。強くない分、ファンも勝敗だけに拘泥せず、「物語」を大事にする。それこそ妙味という。
 カープの最近の優勝は一九九一年である。この時は、ダブルヘッダーの二戦目で決まった。広島市民球場のネット裏で見届けた筑紫さんは、新幹線に乗り損ね、寝台特急で東京へ戻った。「大変だったーなんてよく言うけど、実は自慢なんだよね」
 そんなささやかな物語で、人生を味つけしてくれる球団が町にある。「日本がのっぺらぼうで均質化していく時代に、広島がどれだけ幸せで、誇りか。すごい基本財産ですよ」。力がこもる。
 夏休みに一度は家族そろって野球観戦。そうした市民球場のたたずまいが大好きだ。しかし、家族のあり方が揺らぎ、ライフスタイルも娯楽も多様化している。球界再編は楽天とソフトバンクの参入で一段落したとはいえ、企業が球団を広告塔に使う構図は変わっていないとの指摘もある。
 「でも状況を分析しても始まらない。新球団の二人のオーナーも地域とのきずなを強く意識している。ここは以前と決定的に違う」。だからこそ、人生を豊かにする道具としての野球の将来に希望をつなぐ。
 広島の新球場は、市民球場の親しみやすさそのままに、座席やトイレ、ロッカールームなど観客と選手の環境が良くなればいいと願っている。
 賛同人に名を連ねた「たる募金」に加えて、まとまったお金を募る仕組み作りを期待する。「神社に『金五拾圓』とかあるでしょう。球場に名前をいっぱい刻み、孫子の代までつながるなんていいよ」。欧米の美術館経営も参考になると考える。
 「いわゆるお役所仕事じゃ、夢の部分は削られていく。単なる球場というハコじゃなく、夢をつくれる人材に任せて、物語をどんどん生み出したいですね」



【写真説明】新球場をテーマにした座談会で、カープへの愛を語る筑紫さん(左)。右は元カープ監督の達川光男さん(1日、広島市中区)

ちくし・てつや
大分県日田市生まれ。1959年に朝日新聞社に入社。米ワシントン特派員、朝日ジャーナル編集長などを務める。退社後、89年からTBS系のニュース番組「NEWS23」のキャスター。

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